3ターンの魅了魅了状態ロベ対グス
「そーだ、ジニーちゃん、プルミエール。もし、俺が魅了状態になったら殴っても蹴っても寝かしても、最悪置いて逃げてもいいから、絶対放置しないで欲しい」
最初の遺跡を無事に出て来て、みんなで酒場でお祝いをしながらロベルトはふと思い出したように言った。
「魅了?」
「そ、俺あの状態になると手加減しないらしくてな…」
「記憶ないの?」
「恥ずかしながらな…」
ジニーに肉をとりわけ皿に乗せながらロベルトは苦笑する。
その取り分けられた肉にお礼を言いながらジニーはフォークを刺した。
「魅了くらい放置してもいいのではなくて?」
「初めて魅了状態になった時は俺、仲間に毒音波巻いたんだよ」
「うわぁ…」
「気が付いたら、みんな戦線離脱状態」
ジニーだけでなく、プルミエールもその言葉に眉間に皺を寄せた。
「他にも何回かやらかしてんだよなぁ」
「でも、ロベルトでしょ?
流石に近接相手には…」
「5戦5敗」
「え?」
そこで、苦虫を潰したような顔のグスタフが持っていたビールを飲んで、空になったグラスをテーブルに置いてから口を開く。
ジロ、と恨みがましげにロベルトを睨んでグスタフは女性2人に指を向けた。
「最初は弓だった。魅了されたロベルトに、言われた通りとりあえず攻撃をさせないように追突剣をしようとした」
思い出してグスタフは眉間に更に皺を深くする。
「追突剣」
「スタンを狙おうとしたのね」
プルミエールもロベルトからサラダと肉を乗せた皿を受け取りつつ頷く。
「だが、反応射撃で全て当たる前に無効化された」
「反応射撃」
ジニーがオウム返しをすると、ロベルトは申し訳なさそうに頭をかく。
「そして、その都度に連射と瞬足の矢、更にイズナ、を貰った」
「うわぁ…」
容赦ないラインナップにジニーは声を漏らしフォークを落とした。
「悪かったって!気がついたらお前倒れてるし」
「2戦目は術だった」
続いたグスタフの言葉は硬い。
「弓を持っていないなら、と思った。だが、この時ロベルトは盾を持っていた。そして、1ターン目でガードビーストを発動した」
「酷いわね…」
「攻撃何も当たらないじゃん」
「そうだ。そこから、天雷を2発貰った」
「わぁ……」
3ターンキル。
魅了異常が続く3ターンの間に確実に仕留めてくるロベルトの魅了時の殺意にジニーもヤバいと理解が追いついたが、それとは別にあと3戦もあるのかと少しの興味がわき、口に肉を放り込むとグスタフに続きを促す。
「それで?それで?次は?」
「ジニーちゃぁん…!」
困ったような情けない声を出すロベルトに、今までのことを知るのは大事だよ!と情報共有だと正当性を示して前のめりにジニーはグスタフを見る。
「3回目は私も学習せざるをえなかった。弓を持つロベルトに対し、自分にベルセルクとガードビーストを最初にしてからブルクラッシュを狙った」
「ほうほう!」
「反応射撃はガードビーストで防ぎ、大きく振りかぶった」
ごくりと息を飲むのが聞こえた。
「こいつは、そんな私に笑顔で特攻してきた。当たっても多少は大丈夫なところを狙うつもりが完全に心臓付近を狙える位置だ。驚いた私はブルクラッシュをミスした。そして、近距離から水晶のピラミッドをくらった」
「あぁー!!」
目に見えるようだ、とジニーは額を叩いた。もう少しだったのに情にやられたのだ。本気では、グスタフはこれないという気持ちを逆手にとって。
「弓でも術でも勝てないって…あなたどういう…しかもその後も戦ってるのでしょう」
「その全てが完敗だった」
「俺だけど、俺じゃねぇよ!」
魅了状態なんだって、とロベルトは弁解する。毎回毎回気がつくと戦線離脱状態のグスタフが足元にいる気持ちもわかって欲しいとロベルトは思う。
「だから、次こそは勝つ。すまないが、お前たちはその状態になったら離れていてくれ」
「…わかった、頑張ってね、グスタフ」
「応援するわ」
「なんでだよ!!」
グスタフが座った目で宣言するのに、ジニーもプルミエールも止める気はなかった。
前衛でヴィジランツとして生活をかけているのに、弓術士のロベルトに3ターンで手も足も出ずに毎回見事に完封負けで倒される気持ちを思えば、そうなるのであるが。
魅了状態のロベルトには近付かない。そう決めたジニーとプルミエールである。
そして、機会は巡る。
エッグとの闘いを目前にした星のメガリスだった。
最近はみんなを巻き込まないと常に魅了異常の防止ツールを持っていたロベルトだったが、最終決戦を前にどうしても持つツールやクヴェルとの相性が悪く外したのだ。
そして、ロベルトが運悪くも敵の術を貰い魅了状態となる。
その瞬間、グスタフの瞳孔は開き、食いしばった歯の上に笑みが浮かんだ。
「ぐ、グスタ…!」
「3ターンだ。それ以上は手は取らせん」
「でも、こんなところで…!」
場所を弁えろと言わんばかりのプルミエールだが、グスタフにとって、それでもコレだけは譲れなかった。
ずっと前を護ってきたはずだった。なのに、本気を出せば私など簡単に倒せてしまうのだと、魅了状態のロベルトと闘い思い知った。
この先、このまま負けっぱなしではヴィジランツとなど名乗れない。ロベルトを護るなどとは言えないのだ。
尻のポケットからずっとお守りのように持っていた小さな袋を取り出しプルミエールに投げ渡す。
「終わったら使ってくれ」
「これって…」
「結界石だ」
きらりと光るのは全てを癒す貴重な石。
ゆらりと攻撃の対象をこちらに向けてくるロベルトにグスタフは高まる鼓動も興奮も隠しはしない。
ずっと待っていたのだ。
この、殺意を。
「待っていたぞ、ロベルト。今度こそだ」
ファイアブランドがグスタフのアニマの強い興奮を感知したのが、大きく炎をあげて応える。
「お前を倒すのは、この私だ!」
強い眼差しに、ロベルトの口元がにやりとあがった。
おしまい!
続きは3ターン後に発動したら結界石が消しちゃったよ!どっちが勝っても美味しいね!