背中痛い「主様」
「いっったぁ!?」
ラトが私の背中をつつく。刹那、熱の塊を押し付けられたような痛みが走った。涙目になりながら振り向けば、ラトは目を三日月の形に細めていた。
「おや?すみません。傷が出来ていたので教えて差し上げようかと思ったのですが」
それにしたって、もう少しやり方と力加減があるだろう。でもきっとラトに言っても上手く伝わらないだろうから諦めた。
「そういえば今日ぶつけたわ…」
痣にはなっているだろうとは思ったが、まさか傷にまでなっているとは思わなかった。
「痛みますか?」
「つつかれると痛いけど、普段はそうでも」
「そうですか」
ほんの少しの嫌味を混ぜたが、ラトは気づいているのかいないのか華麗なまでにスルーを決め込んだ。
「あ、そうです。ちょっと待っていてくださいね」
そして思いついたように部屋を出ると、何かを持って戻ってきた。
「ルカスさんから貰った薬を分けてあげます。私の体に塗っているものですから、おそらく主様の傷にも効くと思いますよ」
「え、いやいいよ」
染みそうだし。という一言を飲み込んで私は頭を振った。
「遠慮しなくていいんですよ。ほら、背中を出してください」
「大丈夫、ほんと大丈夫だから」
「傷が化膿すれば最悪死んでしまいますよ?」
「このくらいじゃ死なないよ!!物騒だなぁ!」
「主様は頑固ですねえ…」
ラトは呆れたようにため息をついた。諦めてくれたかな?と思っていると、急に視界が暗くなった。
「うぐっ!?」
どうやらベッドへうつ伏せに倒されたようだ。
ラトはじたばたと醜く暴れる私の片手取って後ろで固定した。
まるで逮捕される時みたいな体制だ。主様に対してその感じってどうなんだろう。
「すぐ終わりますから。」
どこか楽しそうなラトの声が降ってくる。一拍置いて背中に予想通りの痛みが走った。本当に痛い。
「い、たい〜〜!!!!」
もんどり打って苦しむ私を横目にラトが笑っている。なんだか悔しい気持ちがぬぐえない。
「くふふ、これで明日には良くなりますね。」
「ならない。死ぬかも。」
「それは大変ですね、ではこの薬を戻してきます」
絶対。絶対ミヤジ先生とベリアンに言いつけてやる…
そう思ったものの、次の日には本当に良くなっていたものだから小さい声でラトにお礼を言った。