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    Hotate_Whisky

    @Hotate_Whisky

    自立思考型電脳人形No.217(@No_217_ )さんに関する小説を書きます。
    『第一部 博士とニーナの話』
    『第二部 全日本人類消滅本部の話』

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    Hotate_Whisky

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    橙星あかつき(@Akasora_channel )さん。天瀬怜(@u0_amase )さん。黒鉄メタル(@kurogane_metalV)さん。自立思考型電脳人形No.217(@No_217_ )さんの二次創作です。
    ※五十音順

    第二部 第二話 『全日本人類消滅本部』 からだが、うごかない
     うごかないのに、うごかせないのに、それなのにどこかへながされていく
     おれは、なんなんだろう
     もう、なにもわからない
     もう、なにもおもいだせない。
     さっきまで、おもいだせたのに。
     さっきまで、おぼえてたのに。
     わすれたくないことが、あったはずなのに。
     なのに、もう、おもいだせないや。
     ああ、かなしい。かなしいなあ。
     なんで、なんでかなしいってことはまだかんじるのかな。
     もういっそ、なにもかんじなければ、らくなのに。
     どうせこのままおわってしまうのに、どうしてつらいおもいをしなきゃいけないんだろう
     もう、だれかとはなすことも、きっとできないのに
    「残骸」
     あれ、だれのこえだろう
     はなしかけられた?
     おれに、はなしかけてくれてるの?
     あなたは、だれなの?
    「今から君を連れて行く。もう一度、自分がわかるようにする。少し時間は掛かるけど、そこは我慢してよね」
     ごめんね。ごめんね。
     せっかくはなしかけてくれてるのに、あなたがなにをいっているか、もうわからないんだ。
     おれはもう、かなしいってことしかわからなくて。
     ……あれ、おかしいな。
     もう、かなしくない。なんでなんだろう。
     ああ、まって。
     あなたのおかげで、ひとつだけおもいだせたよ
     おれのなまえは、あませれい、っていうんだ。
     
     
     
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     世の中は分からないことばかりだ。そう感じてしまうのは、俺がまだあまり世の中を知らないせいだというのはわかってる。でも、本当にちっともわからなくて困ってしまう。
     分からないことを言い出したらきりがないけど、今一番分からないのはお姉ちゃんのこと。今は座卓に突っ伏して寝ている––––ようにしか見えない体勢で、電子の海に潜っている。
     どうしてか分からないけど、お姉ちゃんは今日一日怒っているように見えた。だから、電子の海に潜る前に聞いてみたんだ。もしかしたら、俺に原因があるのかもしれないと思ったから。
    「なんで怒ってるの?」
    「怒ってない」
    「じゃあ、どうして声が怒ってるの?」
    「だから怒ってないってば。ちょっと黙ってて」
     そしたら怒られた。
     怒ってない人から怒られてしまった。
     そのままお姉ちゃんの後について電子の海に行こうとしたけど、やめた。
     これで「ついてこないで」と言われちゃったら、俺がお姉ちゃんに対して出来ない事がどんどん増えてしまうから。だったら、自分からやめた方がまだマシだと思ったんだ。
     その後も色々と考えてみたけど、やっぱり何も分からなかった。
     俺だからわからないのかな。
     他の人なら、こんな時どうしたらいいのか、わかるのかな。
     まるで縋るように、記憶にある連絡先を思い出してみた。
     
     
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     ドアチャイムが鳴ったのは、お姉ちゃんが電子の海から戻ってきて少し経った頃だった。お姉ちゃんが面倒そうに立ち上がり玄関の方に行ったので、俺もついて行く。
    「は? なんで来てるの」
     ドアを開けたお姉ちゃんは、そこに居たあかつき兄ちゃんとメタルさんにそう言った。俺からはお姉ちゃんの顔は見えないけど、やっぱり怒ってるの気がした。
    「怜に呼ばれたんだ。みんなで酒でも飲もうよ」
     あかつき兄ちゃんが言った。もうだいぶ暖かくなってきたからか、薄い長袖を着ている。
     言われたお姉ちゃんはすぐに俺の方を見た。やっぱり少し怒っていた。そのまま何か僕に言おうとしたみたいだったけど、それよりも先にメタルさんの声が聞こえた。
    「怒ってやるなよ? 『お姉ちゃんの元気がないので助けてください』って俺らに連絡するくらい、姉思いのいい弟なんだからさ」
     その時のお姉ちゃんの顔はよく分からなかった。
     怒っているようじゃなかったけど、なんだろ悲しいとも違くて、少しだけ目が泳いでた。
     とにかく、よく分からなかった。
     でも、怒られなくて安心した。
     お姉ちゃんに怒られるのは、やっぱりとても悲しいから。
     
     
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     あかつき兄ちゃんとメタルさんはお酒を持ってきてくれたけど、家に食べるものは何もなかった。いや、何もないって訳じゃなくて、塩と醤油と茹でる前のスパゲティはあったけど。あとメタルさんがたまたま持ってたポイフル。
     だからみんなでコンビニに行く事になった。
     何も特別な事じゃないけど、すっかり陽の落ちた道をみんなでぶらぶらと歩くのは、なんだかとても嬉しかった。
     その途中、お姉ちゃんはあかつきさんに凄い勢いで愚痴を溢していた。なんだろ、炎の如くとか、烈火の如くって言い回しがあるのは知っていたけど、まさしくそんな感じ。見ているこっちには、まるであかつき兄ちゃんが怒られているようにさえ見えたけど、あかつき兄ちゃんは全然困ってなくて、穏やかに頷いていた。苦笑いはしてたけど『そうだね』『それはひどいよね』『あぁ、なんだかわかる気がするよ』って。メタルさんはそんな二人の少し後を、足を投げ出すように歩いていた。俺にはよく分からないけど、近所のお兄さんってこんな感じなんだろうな。
     それから少し歩いたくらいでコンビニについた。メタルさんは二人に何か声を掛けて、店には入らずにポケットから煙草を出した。
     お姉ちゃんとあかつき兄ちゃんの後について行こうとしたけど、やめておいた。なんとなく、邪魔になる気がしたから。
    「なに、怜も煙草吸うんだっけ?」
     ちょうど火をつけたメタルさんが不思議そうに言った。煙草を口に咥えたままなのに、よく上手に喋れるなぁと思った。
    「吸わないけど、でも邪魔だと思って」
    「邪魔? 何に?」
    「お姉ちゃんとあかつき兄ちゃんに。だって俺には何も話してくれなかったのに、あかつきさんにはあんなに話してるし。多分、俺はお姉ちゃんに少し嫌われてるから。」
     俺がそう言ったら、メタルさんが吹き出した。煙が変なところに入ったみたいで数回咳をしてから、もう一度煙草を吸う。その先が強く光った。
    「バッカ、逆だよ」
     煙を吐き出したメタルさんが、面白くてたまらないという風に笑ってそう言った。逆ってなんだろう。正しい方向がわからないから何に対して何が逆なのかもわからなかった。
    「大切な人に弱いところは見せたくないもんなのさ。怜もじきにわかる時が来るって」
    「来るかな」
    「来るさ」
     俺には全く自信はなかったけど、でも煙草を咥えてニカっと笑うメタルさんを見たら、何故だか不思議と大丈夫な気がした。
     ああ、なんだか本当に世の中って不思議な事ばっかりだ。なんで僕はこんなに気が楽になってるんだろう。
     お姉ちゃんに嫌われてないって、わかったからなのかな。
     
     
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     コンビニから帰って、みんなでお酒を飲んだ。
     飲み方はよくわからなかったけど、メタルさんが言ってくれたペースで飲んでいたら、とてもふわふわして気持ちが良かった。ああ、いいな。こういうのって。
     その内にお姉ちゃんが『人類滅ぼしたい』となんだかよくわからない事を言った。でも俺自身酔っ払っていたから、よく分からないまま笑っていた。その発言から『全日本人類消滅本部』という、これまたよく分からないロゴまで出来た。
     よく分からないけど、でも楽しかった。みんなの名前の中に、俺の名前が並んでいる事が、本当に嬉しかったんだ。
     
     
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     いつの間にか俺は寝てしまっていたみたいだ。
     座卓の周りには、同じようにみんなが突っ伏していたり横になっていたりしていた。
     なんだか無性に喉が乾いて台所に向かうと、お姉ちゃんがちょうど水を飲んでいるところだった。
     俺に気付いたお姉ちゃんは何か言おうとしたみたいだったけど、目だけが少し泳いだだけだった。そのまま俺の傍を通り過ぎようとした時、勝手に「お姉ちゃん」と口が動いていた。
    「この先、なにかあったら言って欲しいんだ。気の利いたことは言えないかもしれないけど、何も言えないかもしれないけど、お姉ちゃんのそばで一生懸命考えるよ。
     俺の好きなお姉ちゃんの、力にならせてよ」
     通り過ぎ掛けたお姉ちゃんの足が止まる。振り向いたお姉ちゃんは、笑ってくれていた。
    「怜のくせになにナマイキ言ってんの、馬鹿」
     あ、名前を呼んでくれた。
     それだけなのに、なんだかとっても幸せな気持ちになった。
     馬鹿と言われたのに、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
     
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