金木犀と物書きのなり損ない 小説というものに出会った時、私はそこに『堕ちた』。
義務教育時代、私には人権が無かった。いや、剥奪された覚えはなく日本国籍も持っているのだから間違いなくあったのだと思うけれど、認識されてない以上は無いものと何ら変わりが無かった。
当初は、どうにかしようと思っていたと思う。抵抗していたと思う。戦っていたと思う。
けれど遊びと称されたリンチから逃れる為に隠れた図書室で『堕ちた』とき、それまでの努力が全て馬鹿馬鹿しくなった。
その世界は、美しかった。
喜びも
怒りも
悲しみも
楽しみも
その世界には、私の望む全てがあった。
嘆きでさえも、諦観でさえも、絶望でさえも、美しかった。
深く、深く、すうっと、その世界へ堕ちていく感覚が、その時の私にはあった。
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