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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

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    夢魅屋の終雪です。推しのRがつくものを投稿してます

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    夢魅屋の終雪

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    曦澄【Dom/Subユニバース】2
    契約書と首飾りのお話。
    聶瑶も入ってますのでご注意ください。
    用語は言い換えてますので、ニュアンスで読み解いてください

    #曦澄
    #聶瑶
    #Dom/Subユニバース
    dom/subUniverse

    契約書と首飾り主従の間には、契約書というモノが存在する。
    それは、特殊なモノで仙術を使いながら互いにたいする禁忌と許可を記すのだ。
    主従といっても、主に仕えたり従えたりするような関係ではない。あくまで対等であり、性質の話なのだ。
    それを理解しない主も多く、無理強いをする者が多くいる。その為の契約書となる。
    従の意に沿わない事を主が命じるとすれば、それを拒絶する言霊を従は使う事できる。
    それは、主への力不足を認識させて屈辱にも値するようなモノであったが、信頼関係を構築するには大切な言霊だ。

    「私に何かしてほしい事ってある?」
    「いっぱい褒めて欲しい」
    「うん?」
    「必ず頭を撫でて欲しい」
    「う、うん?」
    「抱きしめて…ほしい」
    「????うん???」
    「く、口づけもして……」
    「????」

    自分の欲求を素直に伝えるのが恥ずかしいのか、江晩吟は顔を赤らめて最後の方はうつむいてしまっていた。
    どーしようね、この可愛らしい生き物は……。江晩吟が、うつむいてるのをいい事に藍曦臣は天を仰いだ。
    深呼吸をしてから、自分を落ち着かせる。

    「江宗主」
    「ん?」
    「それは、私がしたい事だ」

    隣にいる江晩吟に腕を伸ばして抱きしめると、体が強張る。
    愛されることに慣れていないから、これからどうすればいいのか解らないという顔をした。
    今は亡き彼の両親に少しだけ、苦言を申し立てたい。
    愛していなかったわけじゃないだろう、それなのにどうしてこんな些細な事で江晩吟は混乱するのだ。
    どうして、愛情を受け入れるという当たり前の行為ができないのか……。
    姉君に愛情を注がれたとしても、その器が育っていなければどうしようもない。
    両親に愛されることが少なかった藍曦臣ではあるが、代わりに厳しいけれど優しく愛してくれた叔父が居た。
    身近な大人に愛されなければ育つことなくひび割れる器は、姉君の愛情により壊れずにすんでいた。

    「江宗主は、ちゃんとしてほしい事を言えるなんて、いい子だね」
    「……」

    ちゅっとこめかみに口づけをすれば、びくりと体が震える。
    抱きしめられた体を少しだけ話して、戸惑ったような聞いていいのかどうかと目が泳いでいる。

    「あ、あの」
    「うん?」
    「か、確認したい」
    「なにかな?」
    「あ、貴方は、その……断袖なのか???」

    そ、そこから!?そこからなの、江晩吟!!!と、藍曦臣は心の中で床を殴る。
    いや、主従は性質だから与える受け止めるという事だけで十分な関係である。
    だから恋仲にならなくてもいい、知己でいいのだ。

    「私は、あなた以外に口づけしたいだとか抱きしめたいだとか思った事はないから、正直解らないな」

    はっきりと伝えないと江晩吟には、伝わらない。それは、彼の義兄から弟の取り扱い説明会で教えてもらった事だ。
    じっと見つめてくるのは、彼が探ってくる仕草だ。

    「金…金光瑶とは、そう言った関係では……」
    「ありえない」
    「そ、そうなのか?」
    「そうだよ。だって、義兄様の事しかあの子は見えてなかったもの。
    私はあくまであの子の義兄。あの子が、与えられなかった家族からの愛情を求められてたんだ」

    今思えば、本当に藍曦臣と聶明玦と違う扱いだった。
    自分に対しては弟が兄に甘えるような仕草をしていたが、
    聶明玦に対しては憧れていた人に認めて欲しいとか褒めて欲しいとか尽くしたいとかそういう従の性質をあらわにしていた。
    けれど主である聶明玦は、それをくみ取る事は出来なかった。痛々しい程に尽くそうとしても、突き放そうとする。

    「ああ、そうか……だからなのか」

    一人で、納得してしまった。閉関をしていた時には、どうして?なんで?としか疑問しか浮かんでこなかった。
    主であり藍氏の長子として生まれた藍曦臣は、誰かに何かをしてもらうのは当たり前であった。
    見返りを求めなかったと言っても、金光瑶は見返りをずっと求めていた。
    ただし、求めていた相手が違った。
    藍曦臣に、これだけいい子にしていたのだから聶明玦に伝えてね。と、そうすれば褒めてくれる。と期待していた。
    自分たち義兄は、何処かしらで鈍感だったろう。

    「あの子が、狂気に落ちたのはその所為か」
    「……藍宗主?」
    「ごめん。従の性質と本来持っている性格を、私たちはもっとちゃんと理解すべきだね」

    にこっと微笑み、額をくっつける。
    一応、抹額は金属が付いていないモノを使用しているから、江晩吟に痛い思いをさせずに済んでいるだろう。
    手ではないけれど、触らせている意味を彼はきっと理解もしていないだろう。
    今にも口づけができるような距離で、どうすればいいのか解らないと戸惑っている江晩吟に話しかける。

    「ねぇ、江宗主」
    「なんだ?」
    「甘える相手を間違えないでね。あなたが甘えていいのは、私だよ」
    「わ、解ってる」
    「私もご褒美を上げる相手を間違えないから」

    あの二人は、間違えたのだ。
    金光瑶は、性質で聶明玦を主と定めていた。聶明玦は関係として従と定めていた。
    二人の間に魂の性としての正式な主従は結ばれておらず、中途半端なモノが結ばれてしまっていた。

    「私は、支配したいという欲はあるけれど」
    「うん」
    「それよりも、甘やかしたり褒めたりしたい守りたいって欲が強いんだ」

    そう、姑蘇藍氏は自分が守るのだと思っていた。だけど、実際に守られたのは自分だった。
    秘蔵書と一緒に叔父に逃がされて、逃げる途中でも師兄達に守られ続けた。
    金光瑶にあった時、すでにその矜持も欲もボロボロになっていた。
    だから、必要以上に護ろうという欲が彼に向いてしまった。
    金光瑶も従としての矜持が、ボロボロだったこともあったのだ。
    お互いに主従としての性質がかみ合った、求める欲を満たしてくれていた。
    だけど、自分たちには別の誰かが心にいたのだ。

    「江宗主、私に貴方を守らせて」
    「十分に守られてたと思うが」
    「そうじゃないよ。私なら、貴方を支配しようとする輩を抑え込むことができるよ」

    第三の性というのは、公にするものではない。
    例え対等と言っても、呼称である【主】と【従】により勘違いする輩が多い。
    宗主に【主】が多いと解っているのは、それらが公表しているのだ。自分は主であり、従は従えと!と。
    だから、屈服させようと威圧をかけるモノも多い。
    江晩吟が、従であることを隠すのにはこれもあるのだ。
    正式に主従を誰かと結べば、他の主の威圧に抵抗する力も意志も強くなる。もう、一人で耐えなくていい。

    「な、なら!」

    江晩吟は、藍曦臣の袖を引っ張る。

    「ら、藍宗主から、欲しいものがある」
    「なにかな?」

    強請ったはいいものの、江晩吟の矜持が邪魔をして言葉にする事ができない。
    江晩吟の禁忌は、無理やり屈服させる事だ。
    雲夢江氏の宗主として、今まで一人で立ち上がってきた。そして、他の主の威圧に耐えてきたのも自尊心があってこそ。
    それは、江晩吟の誇りなのだ。それを傷つけられ屈辱に穢される事は、いくら藍曦臣でも許す事はできない。
    江晩吟の従としての欲というのは、褒めて欲しい構ってほしいと言うのが強く。仕置きをされたいだとか尽くしたいと言うのは、他より乏しい。
    同じ叔父であった金光瑶と従としての性質の話を、した事があるが欲でかみ合わなかった。
    金光瑶は、褒めて欲しい尽くしたいという欲が強かったのだ。
    彼の主は、藍曦臣だと思っていたけれど本当は聶明玦だったのだと知った、今は三尊と呼ばれた仙師達は間違えだらけだったのだと察してしまう。
    首元をさすりながら、金光瑶を憐れむ。

    「江宗主。私は、言ってもらわないと解らないよ。”言いなさい”」
    「……く、首飾りが欲しい」
    「……」
    「貴方の従だと誰にでも解るような、首飾りが欲しい」

    母がつけていた首飾りが、幼心に羨ましかった。
    夫婦の間で主従だったのかは定かではないけれど、父にその首飾りをつけてもらう母はどこか幸せそうだった。
    けれど、父は首飾りは嫌いだったみたいでいつも苦笑していた。
    今思い出せばだが、きっと父はだいぶ鈍い人だったのだろう。そして、母は微妙な愛情を受け入れる事がどがつくほど下手だった。
    正式な主従の契約を結んでいる最中で、要約両親の事を少しだけ江晩吟は理解した。

    「いいの?それは、江宗主が従であることの証明になってしまうよ?」
    「……う」

    ばれるのは、嫌だ。今まで隠し通してきたというのに、屈服したと言わんばかりに辱められそうだ。

    「だ、だがな、貴方の従である証は欲しい」
    「なら、二人きりの時に首飾りをつけましょう。そうだな、足に付けたり手首に付けるのはどうです。指輪は、紫電がありますし」
    「腕輪や足輪…」

    提案に、江晩吟は自分の腕や足を見る。
    藍曦臣もじっと観察して、口もとに手を添えた。

    「……足がいいですね」
    「足?」
    「見せつける必要が無ければ、足がいいです。なんだか、貴方を縛るようでぞくぞくします」
    「貴方は、さっき支配する欲は弱いと言ってなかったか?」
    「弱いとは言いましたが、無いとは言ってません」
    「屁理屈」
    「藍氏の話術ですよ」

    むすっとする江晩吟に対して、楽しそうにくすっと笑う藍曦臣。

    「あまり邪魔にならないモノがいいですね」
    「……楽しそうだな」
    「ええ、楽しいです。貴方からのおねだりが、私のモノだと証明できるモノだと言うのが嬉しいんです」

    ふふっと声が耐えきれなくなったように、子供のように笑う。
    随分と幼い藍曦臣と今の藍曦臣が、重なる。

    「貴方のその笑顔、見たことがある」
    「そうですか?」
    「いつだったかは、思い出せないけれど……俺は、貴方のそういう笑顔が好きだ」

    力を抜いたように微笑んで見せる江晩吟に、藍曦臣が見とれてしまう。
    美しいけれど、母親似の顔立ちだと言われていてもその微笑みは彼の男らしさがにじみ出ている。
    守りたいこの笑顔……ではなく、その笑顔に護られたい!という主ではあるまじき欲求が芽生えてしまう。

    (あれ、私…従の性質も持ってましたっけ??)

    それを叔父か弟に相談すれば言葉をそろえて、首を横に振るだろう。
    『藍曦臣は、れっきとした主の性質を持った男である』と証言までつけて。
    誰がどう威圧しようとしても、彼は何も感じる事はなかった。
    公表していなくても主であるなら『だめだ、この人は上位の主だ』と察する事ができるはずだ。

    話し合いながら、互いに納得する契約書を作り上げる。
    一言一句違えずに、契約書を写して両家の拝堂に納めれば主従は正式に結ばれる。

    「ついでに三拝でもする?」
    「何を言ってるんだ」
    「似たようなモノじゃないか」
    「嫌だ」

    ぷいっと顔を背ける江晩吟は、耳元まで赤くする。

    「……ついでは、嫌だ」
    「……なんで、私の従はこんなに可愛いんだろうね?」

    江晩吟は、藍曦臣を喜ばせる天才だな。と、勝手に思い浮かべた。


    ▽▲▽▲▽


    後日、藍曦臣は抹額と同じ素材でできた布の首飾りと足飾りを江晩吟に贈った。

    「コレ、私しかつけ外しができないから」
    「え?」
    「貴方も勝手に取る事はできないよ」
    「湯あみとか水練の時はどうするんだ」
    「つけて入って」
    「清潔面は…」
    「大丈夫、伸縮するしすぐ乾くから…貴方の体の一部として洗って」

    白い布地でできた首飾りには、紫水晶と青い鎖が施され布地には竜胆の花と蓮の花が刺繍されており藍曦臣の霊力が感じられる。

    「刺繍の仕方を教わって、仙術を使いながら縫ってみたんだよね。うんうん、よく似合う」

    確認させてくれる間もなく、首飾りをつけられてしまう。
    鏡を見せらられると、それは確かに江晩吟の首を彩り邪魔にならない程度の装飾だ。

    「これは、私と一緒に居る時に付けるモノだから私が持ち運びをするね」
    「……」
    「それで、こちらが首飾りの代わり」

    そっと差し出した足飾りは、紫水晶や青い鎖はないにしろやはり竜胆と蓮の花が刺繍されている。
    雲の紋も付いていた。

    「いや、あの…だな?」
    「なに?」
    「この紋を俺が身に着けるのか?」
    「ダメかな?」
    「いや、コレは内弟子や藍氏直系が付ける紋だろ」

    外部の門下生がつける事は決して許されないモノで、通行書代わりの玉が無くてもたしょうの権限は持ち合わせている。
    姑蘇藍氏の内弟子だという証明にもなるのだ。

    「私が子供のころに使っていた抹額だからね」
    「あ?」
    「私が使ってた抹額を、貴方の足飾りに作り替えてみたんだ」
    「……」

    鼻歌でも歌うのではないかと思う程に、楽し気である。

    「コレなら、私の霊力が貴方に伝わわるから、江宗主によって来る虫を払う事はできるよ」
    「……」

    藍曦臣が虫と言った瞬間なぜだか、江晩吟は悪寒がした。
    訳が分からずに身体をさすっていると、抱きしめられる。

    「なにするんだよ」
    「寒そうにしてたから」
    「……」

    藍曦臣を、江晩吟は見上げる。
    鈍い男だと思う、興味が無いと言っても誰からの好意も気に留める事をしないのは彼が鈍いからだ。
    その鈍さは、藍曦臣の自分の欲にすら向けられているのかもしれない。

    「いくら何でも、独占欲が強くないか」
    「そうですか?普通だと思いますけどね」
    「……普通、か?」

    多分、独占欲に対する基準が、父親と弟で組み立てられているのだ。

    「藍宗主」
    「なんだい」
    「俺が、他の宗主や聶兄(懐桑)と二人で呑んでもいいのか?」

    そう言う禁忌は確かなかったはずだが、この無自覚に強い独占欲から見てどうなんだろうと不安になる。
    抱きしめてくれる腕に、ぎゅっと力が入る。

    「仕事ですもの、仕方ありません」
    「聶兄とは、私的に呑むぞ?魏無羨とだっていつかは……」

    仲直りがしたい……。
    許す事も憎む事もできないけれど、幼い頃から共に育った義兄と昔のように過ごしたい。
    元に戻る事は、けっしてない。

    「そう言えば、無羨は主か従なのかな?」
    「あいつは、どっちでもない」

    第三の性というのは、魂の性。ゆえに体が変わった所で、第三の性が変わるはずもないのだ。
    第三の性が魏無羨になかったから、江晩吟は供にいる事ができたのだ。

    「あいつは、天性の才能がずば抜けていただけなんだ」
    「……そう、よかった」
    「なんでだ?」
    「忘機も第三の性というのが無いから、もし無羨に第三の性があったならこうして誰かと主従をかわしてしまうのかと」

    聞いた話だと鬼将軍は、従であったはず。だが、口を噤んでおこう。
    義兄が、面白い事になるのは構わないが可哀そうな事になるのはためらわれる。

    「で、いいんだな?俺が、他の奴と酒を飲みかわしても」
    「で、できるだけ、呼んでください。都合が付けば、ついて行きますから」
    「解った」

    とは言っても、聶懐桑は事前の連絡なしで来ることもあるしその逆もある。
    住んでるところが遠く離れているとしても、近くに来たついでにとばかりに訪れては呑みかわす。

    「……そう言えば、聶兄も…主だったな」
    「必ず私を飛んでくださいね?!」

    藍曦臣の腕の中でポツリとつぶやけば、慌てて覗き込みながら忠告する。

    「なんでだよ。聶兄だぞ」
    「あの子は、阿瑶が死んでから頼る回数も減りましたし宗主としての仕事をちゃんとこなしているんだよ」
    「あいつは元々有能な宗主だぞ。なんだ、知らなかったのか?」
    「……気づけると思いますか」

    あれだけ泣きつかれて頼られていては、気付く事はできないだろう。なんせ、藍曦臣は鈍いのだ。
    ダメダメな宗主だと言われていながらも、清河がつぶれなかったのも聶氏が衰えなかったのもギリギリの線で仕事をしていたからだ。
    それに、武術はだめでも芸術で右に出る者はいない。
    多彩な藍曦臣であっても、あいつの鑑定眼には敵わないだろう。

    藍曦臣の腕の中で、江晩吟はくつくつと笑いだした。

    「きっとあいつは、俺の首飾りや足飾りにも敏く気づくだろうな」
    「……気づけるような仲なんですか?」
    「そうじゃない。あいつの前で服も靴も脱がない。だけど、あいつは些細な変化にも敏いんだ」

    だから、日に焼ける雲夢で首輪をつけていれば肌の色は確実に変わる。
    日に焼けにくい江晩吟と言っても、藍氏の双璧に比べれば日に焼けた肌をしているのだ。

    「いつ、貴方のモノだと気づかれるのか、楽しみだ」
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    DONE曦澄ワンドロお題「看病」
    Twitterにあげていた微修正版。
    内容に変わりません。
     手足が泥に埋まってしまったかのように身体が重く、意識が朦朧としている中、ひやりとした感覚が額に当てられる。藍曦臣はゆっくりと重い瞼を開いた。目の奥は熱く、視界が酷くぼやけ、思考が停滞する。体調を崩し、熱を出すなどいつぶりだろうか。金丹を錬成してからは体調を崩すことなどなかった。それ故にか十数年ぶりに出た熱に酷く体力と気力を奪われ、立つこともできずに床について早三日になる。
    「起こしたか?」
     いるはずのない相手の声が耳に届き、藍曦臣は身体を起こそうとした。だが、身体を起こすことが出来ず、顔だけを小さく動かした。藍曦臣の横たわる牀榻に江澄が腰掛け、藍曦臣の額に手を当てている。
    「阿、澄……?」
     なぜここにいるのだろうか。藍家宗主が体調を崩しているなど、吹聴する門弟はいないはずで、他家の宗主が雲深不知処に来る約束などもなかったはずだ。仮にあったとしても不在として叔父や弟が対応するはずだ。当然江澄が訪れる約束もない。
    「たまたま昨夜この近くで夜狩があってな。せっかくだから寄ったんだ。そしたら貴方が熱を出しているというから」
     目を細め、伸びて来た江澄の指が額に置かれた布に触れる。藍曦臣の 1972