愛を叫んで逃げてやる!「君の気持ちに答えることは教員としても、俺個人としてもできない。すまないな」
あ、
咄嗟に炭治郎は壁にへばりついた。
心臓はバクバクと鳴り止まなくて、持っていたプリントとトートバッグを胸元で潰してしまったがプリントに皺はよってなかった。
向こうからは死角だからバレていないはず。
ぐすぐすと女の子が泣きながら謝っていた。
あぁ、いいな。
羨ましいよ、俺は自分の気持ちを伝えることすら許されないから。
竈門炭治郎は正真正銘『男』である、だが好きになったのも男だった。
ただ勘違いしないでほしいのは男が好きというわけじゃなくて、好きになった人が男性だったのだ。
「煉獄先生!プリント集めて持ってきました」
少し時間をおいてからまた社会科準備室に行くと先生はコーヒーを淹れていた。
「あぁ、ありがとう!そこに置いておいてくれ」
先生の指の先はソファの前にある少し足の低い机を指していた。
「今日は紅茶の気分だったのだが生憎茶葉がなくてな、君はコーヒーにはミルクと角砂糖は入れるか?」
紙袋から数個実家のパンを出しながらふふと笑った。
「俺はまだコーヒーが飲めないので一対一でミルクを入れてもらえると助かります。砂糖は一粒で大丈夫です」
少し恥ずかしくて頬をかきながら赤く染まった窓の外を見てしまう。
放課後のこの時間は習慣となり始めており、歴史係になった俺の特権だと思っている。
俺がパンを持ってきて、先生が飲み物を入れてくれる。毎週金曜のちょっとした楽しみだ。
「承知した。まだ苦いのは飲めないのか?」