宵っ張りの宮野にとって、これくらいの時間はまだまだ活動時間だ。
波に乗っていればもう少し勉強したり、もしくは趣味のBLを読んでいたりと日によってまちまちだが、今夜はそのどちらも早々に放棄してベッドに転がっている。
右手には携帯、左手には相棒の抱き枕を握りしめて。
「あと……10分」
――日付が変われば、佐々木先輩の誕生日。
こんなにも誰かの誕生日を待ち遠しく思うのは生まれて初めてだ。
家族や友達を祝うときとは違う、どこかくすぐったいような気持ちになる、初めての恋人の誕生日。
「電話しようかな、どうしようかな……」
抱き枕を抱えこんで携帯の画面に映る佐々木先輩の連絡先を見ながら、電話とメールどちらにしようか悩む。
夜更かしが苦手でいつも早寝の先輩はだいたい22時過ぎ、遅くても23時までにはおやすみーとメッセージを送ってくるので、もうこの時間は眠っている可能性が高い。
せっかく寝ついたところを起こしてしまうのも悪いし、明日の誕生日デートの約束はすでに取り付けてあるのだから、会えてから直接言うのでもいいんだけど。
「……やっぱりメールにしよう」
付き合い始めてすぐに来た宮野の誕生日には、先輩は日付が変わってすぐに電話をくれた。
あの時一番最初に言いたくて、と言われたのが本当に嬉しかったから。
先輩が見るのは朝起きてからになるだろうけど、それでもやっぱり一番におめでとうを伝えたいと思った。
「お誕生日、おめでとうございます、っと。あとなに送ろう?」
今度は文面が決まらなくて送信画面に打ち込んでは悩み、ベッドの上をごろごろ転がってはまた画面に向き合って削除するのを繰り返していたら、あっという間に1分前になっていて。
「やばいやばい」
結局悩んだ末にシンプルにおめでとうございますだけを送ることにして、時計が0:00を表示した瞬間にえいっと送信ボタンを押す。
送信しました、の画面にほっと一息をついた。そろそろ自分も明日に備えて寝る準備するかと起き上がったとき。
pppp……
突然鳴り出した携帯に表示された名前は、他でもないさっきメールを送ったばかりの先輩だった。
「も、もしもし…!」
『みゃーちゃん、メールありがとー』
慌てて電話に出た宮野の耳に、明るい声が届く。
「先輩…!すみませんもう寝てましたよね?もしかして起こしちゃいました?」
『ううん大丈夫、今日はまだ起きてたよ。明日…じゃないなもう今日か、みゃーちゃんに会えるのが楽しみでなかなか寝られなかった』
「先輩……」
電話越しに聞こえてくる優しい声に、胸がいっぱいになった。
こういう時いつも、佐々木先輩のこと好きだなあと実感する。
二次元の世界だけで満足していた自分に想いを寄せてくれて。
告白してくれた先輩にどう答えるか迷っていた間も、そっと隣で待っていてくれて。
先輩に出会って、一緒にたくさんの新しい景色を見られることがこんなにも嬉しい。
「せんぱ、じゃなかった、秀鳴さん」
『なーに、由美』
二人きりのときの名前呼びは、まだほんの少し慣れないけれど。
すぐには難しくても次の先輩の誕生日までにはもっと、すんなりと自然に呼べるようになりたいと思う。
「さっきメールでも送ったんですけど、改めて……」
この世に生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、……俺を好きになってくれて、ありがとう。
この腕に抱えられるだけの、ありったけの大好きと感謝をこめて。
「お誕生日おめでとうございます、秀鳴さん」
END