綺麗な目やなぁ。
ホテルに備え付けられてるソファに座る零に跨がって両頬押さえて覗き込んだ目ん玉は、左右で色が違う。灰色と緑。緑の方は宝石みたいにキラキラしとる。灰色の方は古傷もあって……なんや、かっこえぇって。ちょっとだけ思う。
ごっつ好きな目。俺だけを見とってくれるこの目が、えぇ。
「盧笙よぉ……いつまでおいちゃん、おあずけ食らえば良いんだよ」
触んの無しでこりゃ生殺しだぜ。零が音をあげる。なんや、ちょおっと見とるだけやん。情けないこと言うなや。好きなんや、あんたの目が。……なんて、本人には絶対言うてやらんけど。
「ちょっかいかけてきたら一週間うち出禁すんで」
「……」
視界の端で動いてた太い腕がピタリと止まった。あかんで、零。もうちょい我慢して、俺に見せてや。どうせまたすぐ、一週間くらい会えなくなるんやから。
「綺麗なもんだ」
零の目と傷痕を見てた俺をその目に映しながら、零が急に呟いてきた。
「何が?」
俺が聞くと、零は俺の頬に触る。親指が俺の、眼鏡の下の目元を撫でる。零は何が綺麗って言わん。けど、その動きで、その目で、何を示してるかは分かる。
アホやなぁ俺ら。似た者同士やん。俺はつい笑った。急に笑った俺に、零はちょっと眉を顰めてみせる。その顔も、好き。
「その宝石みてぇな目に俺は、どんな風に見えてるんだ?」
宝石みたいな目はどっちや。
「言うてやらんわ、アホ」
俺の目に映る零。渋くてかっこえぇのにおちゃらけてて、詐欺師なんてアカン仕事しとるくせに優しい。隠し事が多くて底が見えん人。んで、俺のことめっちゃ好きな人。なんて、な。
「俺の目にゃ、目キラキラさせながら熱心に覗き込んでくるガキみたいな盧笙が見えたぜ?」
「誰がガキや」
「ぶ」
零の両頬に添えてた手を少し離して、指で左右に引っ張るように摘まむ。意外と柔らかいし肌も綺麗っていうのは俺だけしか知らんこと。過去は知らんけど、今の零を知っとるのは俺だけ。
「ま、えぇわ」
零の軽口も、出禁すんでって脅したのに腰触ってくる固くて太い指も、しゃあないから許したる。俺ばっか堪能すんのも不公平やし。
「はよ連れてってや」
「お?積極的じゃねぇか」
零の目も堪能して満足した俺は零の首に腕を回す。零の腕が俺の腰と尻の下に回って、そのまんま立ち上がる。足が宙に浮く。大の男抱き上げられるとかほんま凄いわ。毎回、抱き上げられる度に感心する。
「寝かせねぇから覚悟しとけよ」
零が喉を鳴らして笑ったのが聞こえた。俺は零の髪に鼻先を埋めて、深く吸った。
えぇよ。
いつか俺らは離れ離れになって、この関係も終わるんやから。
そん時が来るまで……その目、楽しませてや。
なぁ、零。
(どんな風に見えてるか?)
(寂しそうなケダモノにしか見えんなぁ)