「…もし、そこな九尾の御仁」
「…」
「相当な力を有した方かとお見受け致します…おや?」
「その邪悪な姿、さては闇堕ち妖怪であらせられますか」
「…だったら何だ?」
「何も?唯、より都合が良いというだけに過ぎません」
「都合だと?」
「はい」
「貴方様のその力を見込んで頼みがあるのです」
「…」
「私は青行燈、百の怪談を得た先に姿を現す怪異にございます」
「然し、どうにも呼び出される機会が少なく…日々が退屈で仕方無いのです」
「故に人間共に取り憑き悪夢を見せ、それを愉楽としております」
「あわよくば新たなる物語を得られるやもしれない、との下心を抱きながら」
「…それはそれは、随分と高尚な御趣味だな」
「だが其れと俺に何の関係がある?」
「よくぞ聞いて下さいました」
「…」
「貴方様には悪夢の礎になって頂きたいのです」
「端的に言うなれば…『俺と交戦して欲しい』」
「…ハッ!つらつらと下らん事を述べたかと思えば結局それか」
「まあ良い、俺とて戦闘は嫌いじゃないんだ…やってやる」
「有難う存じます…では」
「始めようか?」
「嗚呼」
ドッ…!
寸刻後。
「…真逆こうも早く決着がつくとは思わなんだ…流石は九尾の狐、強いな…」
「青行燈、とか言ったか?随分と自信ありげな御様子であらせられましたのに残念ですねぇ」
「ム…少々腹が立つがまあ良い、目的は果たしたんだ」
「目的?嗚呼そう言えば悪夢が云々だのと…」
「そうだ」
ボワッ…
「この行燈に術式を刻み込み、俺とお前との戦闘の様子を記録していた」
「これを基に悪夢を造るんだ」
「視点を弄ったり反撃を無かった事にしたりしてな」
「…普段は俺が襲う側だったんだが」
「それは残念、精々力量差を見極められるようになるまで精進するんだな」
「お前と戦るまでは戦力差を見極め損ねた事なぞ無かったぞ」
「強い奴が程良く喧嘩を売られる程度に力を隠すってのは常套手段だよ阿呆者」
「これ迄良く生きてこられたな」
「まあ…危なくなったら転移の術を用いればいいんだ、死にはしないさ」
「…その点で言うなればお前、俺を殺す気は露程も無かっただろう…何故だ?」
「俺は殺した奴は喰ってやるまでが礼儀だと考えてるんだ、丁度腹が膨れていたから見逃してやったにすぎない…お前は運が良いな」
「成程」
「では運命の女神に感謝しておこう」
「南無阿弥陀仏…!」
「…」
「お前さては相当な阿呆だな」
「ム、何故だ…?」
「いや…聞かなかった事にしろ」面倒臭い
「?」
「…」