ステップアップ 「ねぇ、買い物に付き合ってくれない?」
そう言っていつものように獠の腕に自分の腕を絡ませただけだった。しかし今、香の置かれている状況はいつもとは違っている。
自分の背中にはソファがあり、5センチ先には獠の顔がある。あまりに突然で、あまりに近いその距離感に驚いた香は、思わずその胸を押し返そうとしたが、その手も獠によってソファに縫い付けられてしまった。
――えっ? ちょっと待って! あたし、獠に組み敷かれちゃってる?――
真っ直ぐに自分を見下ろす獠の瞳から、香は目を逸らす事も、逃げ出す事も出来なくなっていた。何故なら、心の中に湧き上がった熱い感情を、香自身も自覚していたから。
その感情を自覚した香が、それまで抵抗していた腕の力を思わずフッと抜いた途端、獠が優しく微笑んだ。
「もう、腕を組むだけのスキンシップじゃ、獠ちゃん足りないんだけど?」
「だ、だったら……獠は、どうしたいのよ?」
緊張と期待で揺れる瞳で香がそう問い掛けると、待ってましたとばかりに獠がニヤリとした。
「いい加減……オレだけのモンになれよ」
「い、良いわよ。でもその代わり……アンタも死ぬまで、あたしだけのモンだからね」
香の強気の発言に、獠は「当たり前だろうが」と口の端を上げて笑うと、そのまま唇を近付けた。スキンシップ以上の関係になる為に。