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    32honeymoon

    @32honeymoongwt

    ◇gw:t KK✕暁人至上主義者
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    32honeymoon

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    ・先日アップした画像版に修正を加えて、今までとおなじ横書きにしました。前回読みにくかった皆様はよければこちらで。
    ・修正したのは暁人くんの心情描写が主です。まだKのことを好きになりかけてきたところで、信じる心と無くしてしまう不安の板挟みになっている雰囲気がちょっと出てないかなと感じたので、台詞回しを少し変えてみました。まあ内容は同じなので、再読頂かなくとも問題ないと思います…単なる自己満足。

    #K暁

    【明時の約束】「ねえ、KK。たとえば今、僕がこの右手を切り落としたとして、ーあんたの宿っているこの魂は、何処に宿るのかな」

    ー突然。自らの右手に在る、そのあたたかな光と靄のかかる手のひらに向かって、突拍子もないことを言い出したその体の持ち主に、KKは呆れたように何いってんだ、と返した。

    『ーオレの魂が宿る場所は、ココ、だろ。手を失ったとて、消えるわけがねえ。ああ、ただー大切なものが欠けちまったって言う事実に対して、クソみてえな後悔だけは、一生残るだろうな』

    気を抜いたままで容易に操れるその右手。ぶわりと深くなった靄を握り込むようにぐっと力を込めると、とんとん、と胸を軽くたたく。

    「後悔、?」
    『ああ、後悔だ』
    「どうして?これは、僕の体だ。例え使えなくなったとしても、あんたには何の影響も無い筈だよね。それとも、使い心地が悪くなったとでも文句を言う気?ーああごめん、言い過ぎたかも。…でも、そうだろ」

    暁人は少しだけ首を傾げ、その言葉を自らも声に乗せた。いらだったような、責めるような口調になってしまっている自分を自覚はしても、こころがこんなにざわつく理由が思い当たらなくて、思わず舌打ちすれば、KKが溜息とともに言葉を吐き出す。

    『ー分かってないねえ、暁人くんは』
    「…なにが」

    不満気に口を尖らせ、分かってるさ、とふいと視線を逸らす。何言ってるんだ、とはこっちの台詞だろう。自分は良く解っている、だって自分の事だもの。寧ろ解らないのは、いつだってーあんたの事だ。
    そう心のなかで呟けば、胸がきしりと痛むような、ぴしゃりと氷水を浴びせられたような、そんな冷たさが背筋を這い上がってきて、思わず暁人はぶるりとからだを震わせた。まるで内側から責められているようで、ひどく憂鬱な気分になる。

    ふいに、胸にそっと当てられたままの拳がそっとひらかれた。コアの露出した、その大きな裂け目が、まるで暁人を咎めるように、ひときわ大きく、どくん、と波打つ。一拍おいて、もういちど、指がゆっくりと握られる。まるで銃弾を撃ち込むような所作で、KKは人差し指をそっと、心臓が納められているはずの場所に触れさせた。

    『…何度も言わせんな。オレが宿るのはーここだ。オマエの魂のなかに。オマエが気づかねえ間にな、とっくに、オレたちは融けて、混じっちまってるんだよ。ー諦めろ、暁人。例え手足が無くなっちまっても、声すら失ったとしても、オマエが望む限り、オレはオマエと共にある。ここ、にな』

    「…調子のいいことばっか言うなよ。大人ってみんなそんな感じで平気で噓を付くんだろ。僕がまだガキだからって、それを勝手に"約束"だとか何とかってー勘違いしてくれると、思わないでくれる?」

    自分が可愛くないことを言っているのだと、理解はしている。そもそも可愛く在る必要も、ないのだけれど。
    だって、ここで信じてしまったら。彼が消えてしまったあと、その言葉を否定してくれる人はもう、誰もいないのだ。
    そうなれば、きっと自分はそれに縋ってしまう。ずっとずっと、勝手な約束を信じて、彼以外の何も見ようともせず、一生を彼のために捧げてしまうだろう。それは、あまりにも。

    『イヤか』
    「嫌じゃない。…怖いだけ」
    『怖いか、置いて行かれるのが』
    「ああー怖いよ」

    だってそうだろう。
    もし自分だけが最後まで生き残ったとして、その喜びを分かち合える存在はもうどこにも居ないのに。
    そんな世界の終わりになんて、何の意味もー価値も無い。

    もう誰も見送りたくなかった。たとえそれが、元々存在するはずの無いものであったとしても。もう知ってしまったなら、そして大切だと思ってしまったのなら、なおさら。

    そうだな。低い声が暁人の耳に届く。そのまますう、と手のひらに開いた亀裂が閉じてー元通り、"伊月暁人としての手"に、戻っていく。まるで消えてしまいそうな静かな挙動に、暁人は思わず、KK、と彼を呼んだ。安心させるように、子供に言い含めるように、やわらかな声音でKKが大丈夫だ、と返す。

    『ーほら、此処にいるだろ、暁人。そんな傷なんてなくても、オレはここにいる。恐れるな。消えたりしねえよ、オレは』

    心音がばくばくと響くのが直接脳天に響いて聴こえる。まるで、自分の心臓に耳を当てて聞いているみたいだった。この音は自分のものなのか、それともKKのそれなのか。ーいや、愚問だ。だってKKの心臓はもう、"ここには無い"のだから。

    それでも、暁人は敢えて口にする。

    「…心臓の、おとがする」

    『ああ。オレにも、聞こえる。オマエの音ーそして、オレの音だ。なあ、暁人。…これがオレたちふたりの心臓なんだと、そう思っちゃあくれねえか』

    ああ、この優しいたましいと本当にひとつに溶けてしまえたら、どんなに。

    そう思いはじめていた、その言葉を、まさか彼から口にされるだなんて。いまのいままで、思ってなかった。それなのに、どうして。

    KKを信じたい気持ちと、傷が浅いうちに突き放したい気持ちとがせめぎあって、許容量を超えた感情が涙となって暁人の頬を伝う。

    KKは何も言わず、右手をそっと上げさせて。涙を拭うのではなく、ただそっと頬に手のひらを押し付けた。

    『…後悔もするだろうぜ。この手が無くなりゃあ、オマエの熱をこうして感じることもできなくなるんだからな』

    「…狡いよ」

    『ああ、狡いかもな。でもな、大人が本当にズルい時ってのはーひとつの目的のためにでしかねえ。わかるか?』

    そっと、涙で濡れた目を閉じる。胸がずくずくと熱い。…からだが、教えている。彼のこころが、ことばがほんものであると、この躰をつかって、教えてくれているのだ。この、わがままで怖がりな、こどものようなたましいに。

    『惚れたやつを手に入れるためなら、なんだってする。それがズルい大人ってもんだ。なあ?知らない間にオマエも、そうしてるんだぜ?』

    だから、聞いたんだろ。例えこの手が無くなったとしても、どうか僕の手を離さないでくれ、ってな。
    なあ、オレは、勘違いするぜ?オマエが、オレから離れたくなくて仕方ねえ、って思ってるんだと、勝手にな?

    「…ほんと、勝手」
    言いながら暁人はまた泣く。
    けれどその涙のわけは、もう切なさと諦観の入り混じるそれではない。

    『まあ、反抗するってんなら精々足掻け。逃げられるわけも、逃がす気もねえがな』

    「じゃあ、全部終わって、もしあんたがどっかに行こうとしたなら、今度は僕から追いかけてあげるよ。…そのとき後悔しても、もうー遅いんだからね」

    『おう、望むところだ。それでこそ、繋ぎ止める価値があるってもんだろ、相棒』

    笑って、互いにー左と右、拳をぶつけ合う。そこにあるのは、ひとつのからだと、燃えるように熱いふたつのたましい。否、もはやそれはすでに、たったひとつのー


    【夜と朝の境目のじかん。
    そらのいろが重なるように、
    きみとぼくも混じり合う。
    重ねて溶けて交わって、
    やがて新しいいのちになる。

    ふたりで迎える明時のころ。
    きみはぼくに溶けて、また、
    ぼくたちは、ひとつになる。

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