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    きさら

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    きさら

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    2021 白田美ツ騎誕生日ネタ

    #ミツキサ

    嫌いが好きへと変わった日(中編)午後、クォーツの稽古場へと足を踏み入れると部屋の隅々に散らばっていた人たちが一斉にこちらに向かってきた。

    「白田先輩、お誕生日おめでとうございます」
    「おめでとうございます白田先輩!」
    「おめでとうございます組長、いつもありがとうございます!」
    「白田、その、誕生日おめでとう」

    後輩からだけではなく、同期からもそう声をかけられ内心驚いてしまった。今年度に入り組長になってからは以前に比べて同期と話すようになったが、それでも話すのは稽古などでの必要最低限の会話のみだった。そんな同期との間に美ツ騎はいつだって距離を感じていたのだ。
    だからこそ、祝われるなど思っていなかった。そんな相手の誕生日を覚えていてくれた同期に前まで感じていた距離はいつの間にか消えていた。

    「ありがとう。でも織巻、うるさい」
    「えー、酷いっすよ、白田先輩」

    織巻にはこれが照れ隠しだと分かっているらしい。言葉ではショックを受けているもののその顔は穏やかだった。

    「ん、立花はまだ来ていないのか?」
    「あぁ、なんか呼び出されたみたいでついさっきどっか行きました」
    「呼び出し?校長先生か?」
    「いや、違うと思います」
    「ふーん」

    立花が校長先生や江西先生に呼び出されることが多いことを美ツ騎は去年の秋頃から気付いていた。だがその理由が彼女の秘密のせいだと知ったのは付き合い始めてからだ。
    今回は校長からの呼び出しではないようで美ツ騎の頭に疑問が募る。校長先生達ではなければ誰だろうか?加斎や忍成弟だろうか?どちらにしろ妙なことに巻き込まれていないか心配になった。彼女は何かと引き寄せ体質で入学してからよく色々な問題に巻き込まれていた。
    そんなことを考えていた時、後方でドアが開く音がした。

    「すみません、遅れてしまって」
    「立花か。大丈夫だ、まだ稽古始めてないから」
    「本当ですか、なら良かったです」

    急いできたのだろう彼女の肩は上下していて少し息が切れている気がする。そんな彼女に呆れながらも常温の水を手に取り差し出す。
    そんな美ツ騎に希佐は微笑みお礼を言いながらその手からペットボトルを受けとった。そして少しずつそれを飲み始める。

    「ん、立花も来たし全員いるな。じゃあ立花が用意出来たら稽古始めるから各自準備しておけ。今日は軽くダンスも合わせるから柔軟しっかりやれよ」
    「はい!!」

    全体に指示を出して美ツ騎もストレッチを始める。傍らではまだ希佐が息を整えている。

    「どこ行ってたんだ?」
    「あの、提出してた課題を返し忘れたからって呼ばれてたのをすっかり忘れていて」
    「ふーん」

    歯切りの悪い彼女の言葉に今は言えないことなのだと察しそれ以上の追求はせず再びストレッチを始める。するとやっと息の整った立花がストレッチの手伝いをするため、美ツ騎の後ろに回り体重をかけてくる。これが2人のいつもの日課だった。
    だがその時、背中にかかった体重に少し違和感を感じ希佐に声をかける。

    「お前また痩せた?」
    「え、そうでしょうか?」
    「うん、前よりまた軽くなってる。どうせ稽古ばかりしてろくに食事取らなかったんだろ」
    「あはは……」

    苦笑いをうかべる相手に自分の予想が間違っていなかったことを理解し、じっと睨みつける。

    「……これからは気をつけます」
    「うん、そうして。でもお前1人だとまたすぐにサボりそうだよな。
    うーん、そうだな。夜ご飯だけでも一緒に食べることにするか?僕も1人だと食べる気起きなくて疎かにしがちだしさ……。
    だけど希佐と一緒なら食べたくなるし」
    「白田先輩がよろしいなら……」
    「ん、じゃあ決まりな。……よし、そろそろいいかな。今度僕が押すから」
    「あ、はい!」
    「今日は少しやることがあるから19時半くらいでも大丈夫か?」
    「はい、問題ないです」

    立花の背中に慎重に体重をかけながら今夜は食事がきっと楽しいものになると思い少し楽しみになった。そんな美ツ騎の様子に希佐も嬉しそうに笑った。

    「ん、いい感じだな。おい、そろそろ始めるぞ。準備できたか?」
    「出来ましたよ、白田先輩!」
    「……よし、始めよう。まずは最初から通しで」
    「ちょっと白田先輩無視しないでくださいよ。あとお誕生日おめでとうございます」

    稽古を開始しようとしたところでドアを開け入ってきた紫髪の男に溜息を吐けば、そんな美ツ騎の様子にその男は「僕の顔を見て溜息吐くなんてひどーい」と言いながらも顔は楽しそうに笑っていた。
    そんな男を呆れを含んだ瞳で見ながらもこれ以上無視をしてもっと騒がれても迷惑なので一応問いかける。

    「……なんでいるんですか、根地さん」
    「えぇ、なんでってそりゃあ愛しの歌姫の誕生日だからに決まってるでしょ。ちなみにフミとカイもいるよ」
    「よぉ、ミツ。誕生日おめっとさん」
    「美ツ騎、誕生日おめでとう」
    「フミさん、カイさんもありがとうございます」
    「え、ちょっと僕には!?」

    あとからのんびりと入ってきた2人の尊敬する先輩からのお祝いの言葉に丁寧にお礼を返しながらも、記憶の中に残っている姿とあまり変わっていない今の姿に嬉しくなった。
    そんな様子を微笑ましく見る隣からの視線を感じてああ、嬉しいと思ってるの見破られてるなと感じながらも悪い気はしなかった。

    「それにしてもミツ、きちんと組長してんじゃねーか」
    「当たり前ですよ、先輩たちから託されましたからね」 
    「あーら、やだこの子めっちゃ成長しちゃってる。コクト悲しいー」
    「泣くなコクト。俺は嬉しく思うぞ」
    「ありがとうございます、カイさん」

    後ろから困惑した視線が複数突き刺さる。最初は疑問に思っていたがよくよく考えたらこの3人がOBとして稽古を見に来るのは初めてだった。
    フミさんに視線を向ければ彼も気づいたらしく互いに頷きあった。

    「79期生の人たちは初めて会うよな。こちら、76期生のOBで元アルジャンヌの高科更文さん、同じく76期生の元ジャックエースの睦実介さん、あと76期生で前組長の根地黒門さんだ」
    「堅苦しいの嫌いだからフミでいいよ、これからもちょくちょく顔出すと思うからよろしくなー」
    「睦実介だ、よろしくな」
    「今年の新人も眩しい原石がたくさんいるね。それにフミの華を受け継いだアルジャンヌとユニヴェールで最強のトレゾールもいる。うーん、今年のクォーツも楽しみだね」

    根地さんが楽しそうに笑い、2人もそれに同調する。そんな懐かしい光景に自然と頬が緩んだ。

    「すごく期待されていますね。フミさんから受け継いだ華、しっかりと咲かせるように頑張らないと」
    「ああ、それに先輩たちから受け継いだクォーツを守らないとな、協力してくれるか」
    「はい!」
    「俺ももちろん協力しますよ!」
    「僕もです!」
    「じゃあそのためにもしっかりと稽古するぞ。先輩たちも、もし良ければ指導お願いします。僕と世長だけじゃまだまだ力不足なので」
    「フミさんはダンス指導もお願いしていいですか?私だけではまだまだ力不足で」
    「よっしゃ、じゃあ後輩のために一肌脱ぐか。カイもダンス一緒に見ろよ」
    「ああ、俺も微力ながら力になろう」
    「うーん、楽しそうなよ・か・ん!」

    そうしてフミさん、カイさん、根地さんも含めたクォーツの賑やかだけれどすごくスパルタな夏公演に向けた稽古が始まった。
    いつもの稽古と比べればすごくスパルタなはずのそれにクォーツ生は皆、笑顔で取り組んでいた。それはきっと憧れの先輩に会えた喜びによるもので、クォーツの稽古場はいつも以上にクォーツ生の熱気に包まれていったのだった。
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