ふたりぼっち窓辺からジャックは外を眺めていた。
外は昼間から降り続いている雨が今も降っており、周囲の音を吸い込んでしまったかのように雨が降る音しかしない。
あまりに静かな夜の空気に、小さく息を吐く。
そんな事は有り得ないのに、この世に独り取り残されたかのようで。
この感覚は、ロンドンを生きていた頃の感覚に似ている。
独りで夜の街を歩いていた、あの頃にーー。
そんなジャックの耳に、不意にくしゅんっと音が届いた。
外から室内へ視線をやれば、音の主の身体がぐしゅと鼻を擦る。
「んーーー?」
何かを探しているのか、伸びた大きな手がシーツの上を2,3度滑る。
「ん---?じゃっく??」
ぽんぽんと叩いても目当てのモノに触れられない事を不思議に思ったのか、身体を起こして回りを見渡した後、窓辺にジャックを見付けたヘラクレスはボフンと、ベットに再び倒れ込んだ。
「...」
「...」
寂しいと訴えるヘラクレスの視線と見つめ合う事、数秒。
ジャックは小さく笑うとヘラクレスの望みどおりにその隣に身体を横たえようとベットに入った。
「っ!冷たいぞ!ジャック!」
窓際にいたせいか冷えたジャックの身体に、ヘラクレスが驚いて声をあげる。
それに短く謝罪して、身体を横たえようとしたがジャックの身体を素早くヘラクレスが抱き込む。
「Sir。冷たいなら...」
「ダメだ」
離れようとするジャックを更に抱き込んで、ヘラクレスはニッと笑う。
「お前を温めて良いのはオレだけの特権だ。だから、離さない」
「...そう、ですか...」
「まだ、真夜中だ。寝るぞ」
そう言ってヘラクレスは寝の体勢に入る。
ヘラクレスと接している場所からゆっくりと温かさがジャックに伝わる。
まるで、宝物の様に抱きしめられて、胸の辺りが、ギュッと締め付けられるような感覚を覚える。
それには気付かない様にジャックは目を閉じた。
先程まで、視界を、聴覚を、感覚を支配していた静寂が鳴りを潜めていく。
「何処までも、甘いお方だ...」
ポカポカと温かい腕の中で、ジャックはゆっくりと眸を閉じる。
ベッドの中で、ふたりぼっち。
静かな夜が、二人を包んでいたーーー。