倉庫を模した場所で、ヘラクレスは荒く息を吐く。
髪の毛先と握り締めた拳からは、床に転がって呻いている輩達の返り血がゆっくりと滴っていた。
「ーーーっ!」
部屋に突如響いた乾いた音に振り向くと、拍手をしながらヘラクレスへと近付いてくるジャック。
「excellent!流石はギリシャ生まれの剛勇無双Sir.ヘラクレス!」
拍手を止め無邪気に笑うジャックが歌うように声をかけてくるのに対し、ヘラクレスは更に眼光を鋭くするだけだ。
「おやおや?どうされました?いつもの貴方らしくない」
ヘラクレスの睨みをそよ風のように受け流し、ジャックは小首を傾げて見せる。
次の瞬間、ヘラクレスはジャックの後頭部を鷲掴んで自分の方へと引き寄せると、その唇に噛み付くようにキスをした。
「んっ!?」
驚いて両目を見開いたジャックの隙を突いて、ヘラクレスは自分の舌をジャックの口の中に捩じ込む。
「ふっ…っ、ぁ…、んんっ」
ジャックの腰を引き寄せ抱き込むと、ヘラクレスは逃げられない様に身長差を利用して目の前の身体を抱き込む様に囲う。
「んぁっ…はっ、さ…ぁ…っ、むぅ…ん、んぅ…ッ、ふぁっ…」
口の中を勝手に荒らすヘラクレスの舌に、ジャックは思い切り噛み付いた。
「---っ!」
痛みに顔を離したヘラクレスの口元から、血が流れる。
「はぁ、ど、どうし、たんですか?血の香りに、当てられ、ましたか?」
ヘラクレスの口元を染めた赤を、ジャックは指先で拭ってやりながら、口の端を歪めて笑う。
「ふふふ」
「…何だ?」
「いつもは晴れやかな蒼天のような方が、血に濡れて更に昂りを堪えられないなんて」
ジャックは言葉を止めてヘラクレスをうっとりと見上げて微笑む。
「この時間だけは、私の世界と貴方の世界がピッタリと重なりますねぇ」
ウットリと微笑んだジャックの吐息は、再びヘラクレスの口内へと消えていった。