ヘラジャク
それは、とても綺麗な私だけのーーー
零れ落ちそうな星々を、屋根の上に座って眺めている人影をヘラクレスは見つけた。
ヘラクレスが歩いている通りは、沢山の人が行き交う大通りから外れており、周囲はひっそりと静まり返っていた。
その静寂に包まれながら、屋根に居座る人物は、時折手を宙に伸ばしては下げる動作をしている。
ヘラクレスが屋根を見上げてから、3度目に手を伸ばしたのに合わせて、ヘラクレスはその場を跳躍した。
何も掴めずに下ろそうとした手は、暖かく大きな手に包まれた。
「?!」
「どうした?ジャック。」
突然目の前に現れたヘラクレスに、ジャックは驚きに目を見開く。
「ジャック?」
「あ、えぇっと。こんばんは?Sir?」
座り込んでいたジャックを覗き込むヘラクレスに、ジャックは小首を傾げて見せる。
「あぁ。こんばんはだな!ジャック!」
音がしそうな程の笑顔を見せるヘラクレスに、ジャックは目を細めて微笑む。
「お仕事はお終いですか?」
「あぁ!書類の仕事がどうも苦手で、こんな時間になってしまった。で、ジャックは屋根の上で何をしていたんだ?」
ヘラクレスの再度の問いに、取られた手を見てからジャックは更に視線を上げてヘラクレスの背後へと、視線を向けた。
天界から見える星は、ロンドンから見えていた時とは比べ物にならない程に輝いている。
先程まで、何も掴めなかったジャックの手に今はーーー
繋がれている所から伝わってくるヘラクレスの体温の温かさに、ジャックは小さく笑う。
「ジャック?」
「いえ。天界は空にあるのに、星が見えるのが不思議に思えまして。」
「星?珍しいか?」
言われて見上げようとしたヘラクレスの手を引いて、ジャックは隣に座る様に促す。
ヘラクレスはジャックと繋いだ手を見てから、惜しむ様にゆっくりと離してジャックの隣に座り今度こそ空を見上げる。
そこには、深い深い闇色の空間とそれを引き裂く様に散りばめられた星々が光っていた。
しばらく無言で見上げていたが、ヘラクレスが小さく言葉を零す。
「ジャックは、あそこに、行きたいのか?」
「え?」
まるで空に吸い込まれそうな感覚を覚えて、ヘラクレスは視線をジャックへと移すと、そのジャックはヘラクレスの事を見ていた。
「必要があれば行く方法探そうとは思いますが、今の所は必要ありませんよ?」
それに、と膝を抱える様にジャックは座り直す。
「私は日本の神様のように、星の川を渡らなくても、愛おしい人にはお会い出来ますし」
そう言って目を細めて笑ったジャックに、ヘラクレスは僅かに目を見張る。
「あぁ。流石に冷えてきましたかね。暖かい紅茶でもーーー」
言いかけた言葉は、ヘラクレスの口の中に吸い込まれた。
ポカンとした顔のジャックの目元を愛おしいそうに、ヘラクレスは親指で撫でる。
「あぁ。俺もお前を暖めたい」
「ち、近いですよ」
「抱き抱えて部屋に入っても?」
「こ、紅茶は・・・」
「頂こう。先に、な?」
額をくっ付けてジャックを覗き込んでくるヘラクレスの瞳に、ジャックは星が輝いてるのが見つける。
その中に僅かに見えるのは、ヘラクレスがジャックを求める色でーーー。
今度は、お互いに瞳を開けたまま、ゆっくりと触れるだけのキスをした。
ヘラクレスが思わず噴き出し、ジャックもつられて小さく笑う。
「escortはお願いしますね」
「あぁ。任せてくれ!」
寄り掛かるジャックを抱き抱えると、ヘラクレスは立ち上がる。
軽やかに屋根を飛び降りるヘラクレスに、ジャックは頬を寄せる。
何も掴めなかった手を掴んでくれたのは、とても綺麗な私だけの愛おしい人