アナウンスは、未搭乗の客の名前を呼んだ。ヴァイオレットらの両肩に乗る大荷物は、故郷からの距離の遠さを思わせる。彼女は、ギルベルトの後ろ髪のハネを撫でて直した。
「ヴァイオレットも疲れただろう。気分は悪くないか?」
「お心遣い、ありがとうございます。私の体調に異常はありません。ギルベルト様も問題ないようでしたら、このまま列車に乗り、中心街へ向かいましょう。」
「そうだな。列車に乗る時間を使い、休養を取ろう。...何だかここは、随分と近未来的だね。」
ギルベルトは見渡す限りガラス張りの建物内部を、珍しいものでも見るようにキョロキョロと見回した。
「はい、今までとはまた一味違う場所にお連れ致します。ですがまず...」
ヴァイオレットは、右肩からバッグを下ろす。飛行機に乗り込む前に、予め荷物から分けておいたものだ。
「こちらの国の環境に適応した衣服を着用しましょう。」
2人は化粧室に入り、衣服を変えた。
ヴァイオレットが選んだのはレースの丸襟がついた白のブラウス、ミントグリーンのロングスカートに白のパンプス。どちらかといえばフォーマル寄りなコーディネートだ。一方のギルベルトは、眼帯を医療用の白のものに変え、黒のジャケットにダークネイビーのズボンとスニーカーを合わせた。
「とても良くお似合いです」