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    g_negigi

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    g_negigi

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    五が歌に怪我させてしまったことをきっかけに歌への思いを自覚する話 続き(書きかけ)

    医務室の前で待ち続けてどのくらい経っただろうか。永遠にも感じられるような時間だった。硝子のことは信頼しているし、彼女に任せておけば大丈夫だという思いもあったが、それでも嫌な想像が頭の片隅から離れなくて、五条は奥歯を噛み締めた。
    「五条さん」
    下を向いていた五条はその声に頭を上げた。補助監督の横山だった。
    「まだ治療終わりませんか、庵さん」
    「うん。まだ……ですね」
    「そうですか……」
    横山はまだ何か言いたそうに五条の隣に立っていた。お小言を喰らったとしてもしょうがない、五条はそう思った。歌姫が負傷したのは自分のせいなのだ。不注意で他の術師に怪我を負わせるなんて、呪術師として責められても仕方のないミスだ。しかし横山が口にしたのは思いがけない言葉だった。
    「……大事なんですね」
    「は?」
    「庵さんのことです。……五条さんは、庵さんのこと、大事にされてるんですね」
    「……俺が? 」
    訳がわからない、という顔をして五条は言った。大事にしてる? 俺が? 歌姫を? 怪我をさせたのは俺なのに?
    「気分悪くされるかもしれないですけど。……僕、今まで五条さんのこと、ちょっとぶっきらぼうっていうか、近寄りがたい雰囲気だなって思ってたとこがあって。夏油さんと一緒に任務についてるとことかも見たことあったんですけど、その時もなんていうか、二人ともオーラがすごくて」
    「……はあ」
    なんとなく、そう見られている自覚はあった。若いくせに礼儀も知らないガキだと周りに思われているフシがあるのも知っている。
    「でもよく補助監督の間で、庵さんと一緒にいるときは違うよねって話も聞いてたんですよ。今日も車の中でちょっとその話しましたけど、なんていうか年相応な感じになるよねって、周りがよく話してて。今日行きの車の中でも二人とも仲よさそうにしてて、ああこういうことかって納得してたんです」
    あれを仲がよさそうと捉えられて歌姫は嫌がっていたけどな、と五条はこっそり心の中で呟いた。
    「今日庵さんが負傷されたのは、もちろん五条さんにも責任があるとは思いますけど」
    でも、と横山はなおも続ける。
    「でも状況を聞いたら五条さんは庵さんを助けようとしたんですよね。それに五条さんがあんなに必死で仲間を心配する人だって、初めて知ったなって。応急処置も五条さんがやってくれたし、高専へ向かう途中もずっと庵さんのこと気遣ってて」
    横山はそこで一旦言葉を切った。
    「……だから、なんていうか、庵さんといる時の五条さんは、なんか人間らしいなって思ったんですよ。失礼かもしれないけど。それって、五条さんが庵さんのこと大事に思ってるからなんだろうなって」
    「……」
    五条は黙ったまま話を聞いていた。なんて反応すればいいのかわからない。
    「って、僕は勝手に思ったんです。でもきっと、庵さんも同じように思ってるんじゃないかなって」
    「……歌姫が? 」
    「はい。五条さんが、必死に庵さんを助けようとしたんだって」
    きっと伝わってると思いますよ、と横山は微笑んで言った。
    「だから、庵さんは怒ったりしないと思います」
    「……そうですかね」
    正直、別に怒られたくないとは思っていなかった。歌姫がちゃんと硝子の反転術式で、治ってくれれば。元気になってくれれば。そうであれば、歌姫に怒られようがヒスられようが、五条はほっとすることができるだろう。でも横山がかけてくれた言葉のおかけで、なんとなく胸のあたりがほわりと暖かくなったのも事実だった。
     

     医務室の扉が開き、硝子が顔を出した。
    「まだいたのかクズ」
    五条の顔を見ると、硝子は開口一番にそう言った。
    「そりゃいるだろ。……俺のせいなんだし。それで、歌姫は」
    尋ねる声がちょっと上擦ってかすれた。
    「先輩は大丈夫だよ。誰かさんが応急処置してくれたおかげで、大事には至らなかった。傷は反転術式でなんとかなった。跡も多分残らない」
    硝子は淡々と説明する。しかしそれを聞いて、五条は心の底から安心することができた。
    「よかった……」
    「本当、よかったです!じゃあ僕は庵さんは大丈夫だって報告してきますね」
    そう言って横山はその場から立ち去った。残された五条に向かって、硝子は言った。
    「おいクズ」
    「その呼び方やめろ」
    「うるさい。今回は本当にクズだろうが。先輩に怪我させるなんて、言語道断もいいとこだ」
    「……わかってるって」
    珍しく本当に反省している様子の五条を見て、硝子はハアーーっと大きなため息をついた。
    「……どうでもよくないって、これでわかったか? 」
    「え?」
    「先輩のこと。どうでもいいなんてことないだろ。これで思い知ったかって言ってるんだよ」
    さっき横山が言った「大事なんですね」という言葉が思い出される。わからない。自分にとって、歌姫がなんなのか。
    「……わかんねえ」
    「本当にクズだな。とりあえず、私はちょっと休憩行くから。お前は中に入って、ちゃんと先輩に謝ってこい」
    硝子の言う「休憩」とは喫煙のことだ。いつもなら学内でタバコ吸うなと言ってやる五条も、今回はそんな余裕もなく、大人しく言うことを聞いて医務室に足を踏み入れた。
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