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    g_negigi

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    g_negigi

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    歌の誕生日の五歌。歌の誕生日を祝いに五が京都へ来るはずが、雪で新幹線が遅れてなかなか辿り着けない。(最後はちゃんと会える)最初の方だけ。

    雪の日に君を待つ 「わー、真っ白!」
    「積もりましたねえ」
    「雪掻きやらされるわね。面倒臭い」
    真冬のある朝、呪術高専京都校の女子生徒たちは寮の窓から外を見て歓声をあげた。昨晩から今年一番の寒波が近畿地方に到来し、京都校の敷地内は辺り一面雪景色となっていた。空からもまだちらちらと雪が舞い落ちている。
    「今日は一日こんな感じみたいですよ」
    三輪がスマホで天気予報を調べてそう言った。
    「すごーい。ずっと雪マークだ」
    「ったく、せっかく任務のない土日なのに、これじゃ高専から出られないじゃない」
    「雪遊びでもします?私雪だるま作りたいです!」
    「嫌よ、この寒い中小学生じゃあるまいし」
    「ノリ悪いよー、真依ちゃん」
    「何とでも。私は一日部屋で暖まってるわ」
    そう言って真依は自室へと戻っていった。

     「せんぱーい、いきますよー!」
    「受けてたつ!」
    三輪は思いっきり西宮に向かって雪玉を投げる。ひゅっと勢いよく飛んできた雪玉を、西宮はサッと顔を斜めに動かして避けた。真依に置いていかれた二人は、自分達だけで雪遊びをしようとモコモコに着込んで外に出てきた。最初は雪だるまを作るつもりで雪玉を転がしていたのだが、西宮がふざけて三輪に雪玉を投げつけたのがきっかけで、真剣勝負の雪合戦に発展していた。平均的な女子高生よりも体力がある二人の雪合戦はいつの間にか白熱し、お互いに顔に雪玉を命中させたり、油断した背中に特大のものをぶつけたり、キャッキャと楽しそうな声が京都高専のグラウンドに響いていた。
    「あー、なんか暑くなっちゃった。寒いはずなのに」
    「ですねー」
    運動して体温が上がった二人は積もった雪の上に並んで倒れ込んだ。空からはまたちらちらと雪が降り始めていた。もうそろそろ部屋に戻ろうかな、そう思って西宮は寝転んだまま寮舎の方へと顔を向けた。すると、ちょうど寮舎前を赤い傘が通り過ぎていくのが目に入った。雪景色の中で鮮やかに目立つその赤い傘は、そのまま校門の方角へと動いていく。
    「あれ?」
    西宮は上半身を起こした。
    「どうしました?」
    三輪もつられて体を起こし、西宮の視線を追う。そして同じように赤い傘の人物を認めた。
    「あ、あれって……」
    「歌姫せんせーい!」
    西宮が大声でその赤い傘の人物に向かって呼びかけた。

    西宮が呼び止めたのは呪術高専京都校の女性教師、庵歌姫だった。

    ✴︎

      「アンタたち、何やってんの。雪遊び?」
    雪まみれのまま歌姫の元へと駆け寄ってきた三輪と西宮を見て、歌姫はそう尋ねた。
    「そうです!京都ってこんなに雪降るの珍しいですよね!」
    三輪がハキハキとそう答える。その横で西宮は歌姫の服装をまじまじと眺めていた。
    「先生はこの雪の中どっか出かけるの?出張?」
    歌姫がボストンバッグを手にしているのを見て、西宮がそう尋ねる。
    「え?いや、今日は出張じゃなくて……」
    歌姫はそこまで言いかけて、何か言い淀むように言葉を切った。
    「……出張じゃなくて、ちょっと実家に用があってね、これから帰るのよ」
    「そうなんですか!ゆっくりしてきてくださいね!」
    その言葉を素直に信じた三輪は、歌姫にそう言葉をかけた。その言葉を聞いて歌姫はにっこりと微笑んだ。そして「風邪を引かないようにね」と二人に言うと、校門の方へと歩いていってしまった。
    「先生の実家ってどこなんでしょうね。土日で帰れるってことは、関西圏?」
    歌姫の姿を見送った後、三輪は西宮にそう訊いてみた。
    「……霞ちゃん、あれ信じてるの?」
    「え?なんでですか?」
    「あれ絶対実家じゃないよ。だって実家に帰るのにあんなお洒落する必要ある?」
    「え?そういえば、そうですかね…‥?」
    西宮はさっきまじまじと観察した歌姫の服装を思い浮かべていた。歌姫は教壇に立つ時に来ている巫女衣装ではなく、キャメル色のスタンドカラーコートに焦茶のロングブーツを合わせていた。コートの裾からは暖かそうなウールのロングスカートが見える。襟元から覗いていたマフラーも薄いベージュで柔らかそうで上質そうだった。そして顔にも上品に、しかしけばけばしくなく絶妙なバランスのメイクが施されていた。
    「……でも出張でもないって言ってましたよね。じゃあ、先生どこに行くんですか……?」
    「わかんないけど、多分」
    西宮は三輪の耳元に口を寄せて、内緒話をするように囁いた。西宮の言葉を聞いた三輪の顔は寒さのせいだけでなく少し赤く染まる。

    ——あれ多分、恋人に会いに行くんだよ。

    ✴︎

     西宮の推測通り、歌姫が向かったのは実家ではなかった。実家なら年始に帰ったばかりなのだ。用もないのに2月のこの時期に帰るわけがない。
     歌姫が向かった先は、京都の中心部にある外資系のホテルだった。時刻はちょうど、正午過ぎ。山中にある京都校からは公共交通機関を使って1時間ほどかかった。見つからないように出てくるつもりだったのに、学生二人に見られてしまったのは計算外だった。咄嗟に嘘をついたが、素直な三輪はともかく、西宮には勘付かれていたかもしれない。
     チェックイン時間までは、まだまだ時間があった。歌姫はロビーの窓から外を見る。鴨川のほとりにあるこのホテルは、景色が抜群で観光客に絶大な人気を誇っている。今日のように雪が舞う景色なんて、年に何回も見られるものではない。

    しかし今の歌姫には、この景色は不安でしかなかった。取り出したスマホで、こう検索する。

    「東海道新幹線 雪 遅延」

    するとやはり、「2月17日、雪のため東海道新幹線は現在大幅にダイヤを遅らせています」という文字が表示された。歌姫はふう、とため息をついた。

    明日、2月18日は歌姫の誕生日だった。そして、今日、つまり誕生日の前日から、恋人が京都へ来て、祝ってくれるはずだった。

    歌姫の恋人である、五条悟が。

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