第6話「太陽と海のパレット」「わかめださんこれお願いできる?」
時計が指し示す時刻は定時のほんの5分前。
「私今日は定時で上がりたいって言ってましたよね。」
「ごめん!でも他に頼める人いないんだよ〜。」
不満げな顔で返事するが断れないのが社畜の性。
「……わかりました。」
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連絡アプリから来た通知はわかめだからのもの。
『残業。あほ上司。』
よしよし。撫でるスタンプに返ってくるのは
げっそりとやつれた双葉のキャラクター。
「わかめだ残業で今日は遅くなるみたい。」
今日は絶対定時で帰るから!そう宣言していたが常と変わらない残業にわかめだの社蓄具合になしなから乾いた笑いが出る。
「地球の人は働きすぎなんだよ〜〜!ポコリーヌ星はうーんと、1日3時間?だったっけ忘れちゃった!」
「待ってそれほんと!ワタシ移住します!」
「えへへ、なぎさちゃん達ならいつでも大歓迎〜!」
「ポコリーヌ星へご招待なんだポコ?!」
嬉しそうにポコが飛び出し、笑顔を絶やすことなくセレナーデが会話を続ける。
「それでね、セレナーデ前初めて会った時はちゃんと聞けなかったんだけどセレナーデはプリキュアの監査をする人なの?」
なしなが聞きたかったことをセレナーデに質問する。
「うん!!プリキュアになってくれて、戦ってくてる子は本当にありがとう!なんだけど……プリキュアの力は強いから。監査役が必要なの。
その力を悪用をする子がいるなんてそんなのほぼ100ぱーくらいありえない話なんだけどね〜!」
「だから私の監査って役はほとんど形だけ!みんなと一緒に戦うために地球に来たんだよ。」
私ポコとフガの友達だし!そう言ってセレナーデが初めて会った時と同じ人懐っこい笑顔をなしなに向ける。
フガは変わらない顔でポコはなにかを言いたそうな顔でセレナーデを見つめるが。セレナーデの背に隠れてその姿をなしなが見ることはない。
「うーん。じゃあワタシはいつも通りプリキュアとして敵を倒して倒して倒しまくればいいのね!」
「そうそう!さすがなぎさちゃん!」
元々人見知りもしにくい性格のなしなと天真爛漫な笑顔のセレナーデ。相性は良いに決まってる。いぇーい!と2人がハイタッチを交わす。
「悪い。遅くなったアル。」
2人会話を続ける共ポジが走ってくる。
「くるっぽーちゃんー!」
なしなと話して上がったテンションのまま共ポジに抱きつこうとして軽く避けられ壁にぶつかるセレナーデ。
「いたいよくるっぽーちゃん!」
「こんな暑い日にひっつこうとするなアル。」
まだ暦の夏にもならないこの季節。たしかにそれにしては少々気温が高い日が続くことをぼやき共ポジがムッとした顔を向ける。
「えーーー!暑くなければいいの!」
セレナーデが話してる気がするが共ポジは無視を決め込む。
「わねかだは?」
「残業だって。」
共ポジが考え込むように少し黙るが。今回は大丈夫か、と言葉をこぼす。
「くるっぽーちゃんってなんか可愛いねワタシも呼ぼうかな。」
「絶対やめろ。」
ギロリと共ポジがなしなを睨む。
「今日は話のためだけに集まったわけじゃないネ。フガとポコ……岩波はわかってるはずアル。」
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電車を乗り継ぎ、やってきたのは人気も少なく廃テンナントの並ぶビルの前。
「えぇ〜なんか出そうなんですけど。」
「出るんじゃなくているんだポコ!」
「え?」
『Let’s共産主義。』
『あなたの心もセレナーデ!』
「なしなもはやく変身するフガ!」
なんの説明もなく先に変身をする共ポジとセレナーデ。
「もーー!説明くらいしてよねー!」
『あなたの心アンロック!』
ぼやきつつ錠前もカラフルアミュレットに触れプリキュアへと変身する。
「前回はちゃんと見れなかったけどセレナーデかわいいね!」
「ありがとうなぎさちゃん!ひらひら〜♪」
髪色と揃ったミントブルーのワンピース。スカートから伸びたすらりとした足をカバーする長めのハイソックス。ノースリーブの腕にはシースルーの生地を優しくまとい、くま耳の揺れる頭にちょこんと乗るのは物語の王様がつけるような金に輝く小さな王冠。
「オマエら!変身したなら行くアル!」
「え、ちょ、社会人の基本報・連・相なんですけど〜〜!!」
共ポジに腕を引っ張られビルの中へ足を進める。
誰もいない、電気すら通っているかわからない空のビル。暗いはずの室内で瞳の前に映るのは赤、青と時折色を変える大きな炎。
「今すぐ我に倒されるか。大人しく地球から出ていくかそれくらいは選ばせてやるネ。」
その炎に共ポジが言葉を投げる。
「あのチャイナのプリキュアが随分甘いことを言うようになったじゃないか。」
ただの炎だったその姿が声を上げ、人に似たような形態に姿を変える。
「火が喋った!」
そう声を出した錠前に向かってその炎が突如手を伸ばす。
「なしな!」
ポコがなしなを呼ぶ。でも反応できな。
「戦闘中は気を抜くなって教えたはずアル。」
共ポジに体を引かれ。先程まで錠前が立っていた地面は黒く焼け焦げている。
「あ、ありがとう共ポ。」
「錠前お前の今日の役割はフガとポコを守ること、あとは見学ネ。ちゃんと見てるアル。」
「くるっぽーちゃん私も助太刀します!」
地球に来て覚えたのか日本の歴史ドラマに出てくるような単語を口にしたセレナーデが共ポジの横へ並ぶ。
「……勝手にするネ。」
「大丈夫私だってプリキュア歴数年なんだから〜〜!」
入口付近にいる錠前、ポコ、フガ。その前に2人の赤と青のプリキュアが立つ。
共ポジの戦いを見るのはこれが初めてじゃない。でも、やっぱり、すごい。
敵の広範囲にも及ぶ炎を避け、魔法の力を身にまとった共ポジがその拳を強く叩き込む。
圧倒的なその力の差がワタシにだってわかる。
セレナーデは攻撃こそしないのもの敵の攻撃を避けるその姿は、錠前から見れば踊っているで綺麗だった。
「これで終わりアル!」
アイヤー!!
共ポジがトドメの一撃を敵に叩き込む。
「ぐ゛ぁああ!!」
大きな炎が揺れ、徐々にその姿が小さくなり黒いただの塵へと消えていく。
「いぇーい!なぎさちゃんどうだった?私すごかった?!」
「セレナーデすごかったよ!ワタシ見とれちゃった!」
セレナーデが錠前達へ振り向き笑顔を見せる。
「で、でもセレナーデきずが……。」
そう言葉を落としそうになるフガに、しぃーっと口に手を当て顔を向ける。
もちろん錠前には気づかれないように。
「共ポもお疲れ様さま!かっこよかったよ!」
「あんなやつに我は負けないネ。それにあいつは弱ってたアル。」
だからこんな場所で体を休めてた。そう共ポジが言葉を続ける。
ええーーー!と錠前が悲鳴にも似た声を上げ、ワタシもっと強くならなくちゃ!と決意を固める。もちろんわかめだも巻き込んで!!
戦闘を終えて傷1つない共ポジ。錠前にはうまく隠しているようだが、所々火傷を負っているセレナーデ。
「岩波、オマエなんで弱いアル?」
隣で戦ったから感じたその違和感。
小さなただその事実のその音が。誰にも届くことはなく暗い夜の闇に吸い込まれていった。
「くそくそくそ。あいつら絶対に許さない次に会ったら絶対。」
始めの攻撃から小さく飛び散った火。その中から怨嗟の声が響く。
ひらひらと黒い蝶が飛ぶ。
薄暗く埃に汚れたこの場所に似合わない一人の女性が小さな火の目の前に現れる。
「御機嫌よう。」
スカートに手をかざし、そのツインテールをふわりと揺らし優雅な挨拶を口にする。
「× × × 様!!ぎゃっ…!」
「赤い子はそれなりだったけれど……地球のプリキュアって思ったより弱いのね。でもそんな人達に負けちゃうような役立たず、私いらないんです。」
目線を下に向けることも無くただ笑顔で言葉を紡ぐ。
微かに残っていた小さな火がカツンと音の鳴った足音によって完全に消え去った。