第8話「期間限定パルフェ」「落としましたよ。」
「えっ?すみません!ありがとうございます!」
人々がすれ違う駅のホームでカバンから落ちてしまったポコを1人の女性が拾う。
(ポコちゃんと入っててって言ったじゃない!)
(違うポコなしなが落したんだポコ!)
「無くさなくて良かったです。それでは失礼しますね。」
「あっ本当にありがとうございました!」
なしなが深々とお辞儀をする。
綺麗な人だったなあ……。丁寧で落ち着きがあってその薄く水色がかった髪色が光に反射してとても綺麗にきらきらと輝いていた。顔つきもその雰囲気も全く似てはいないのになぜかセレナーデが思い浮かぶ。
「やば!遅刻しちゃう!!」
時刻を確認し満員電車へなしなが駆け込む。
「カキンカキン〜?」
「うん、良い子でしたね。でも私、良い子って好きじゃないんです。」
でもどうしてだろうあの妖精を拾い上げたとき、何故か懐かしいと思った。
でもそんな思考は必要ない。なにも考える必要はない、と自分を見つめるatmと共に歩く。
星の見えない暗い夜の瞳がそこにはある。
「また会いましょう錠前さん。」
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「仕事もしたのにこのあとプリキュアにもなって戦うなんて社畜〜!ブラック!!!」
「錠前うるさいネ。」
「だって〜あのちいか……上司がさあ!」
「?ちいか…ってなあにそれ?」
「何も出来ないくせに口だけはちゃっかり出してくるハゲのことよ!」
錠前がそう愚痴を零す。
本当にプリキュアとして戦うのが嫌なわけじゃない。ただこうやって愚痴を言い合えるほどこの仲間たちと仲良くなれたことが錠前は嬉しく楽しく思っている。
「ふむふむ。なぎさちゃん今日もいっぱい頑張りました!えらーい!よしよーし!」
「でっしょー!さすがセレナーデ!」
「ポコもなでるんだポコ!」
「フガもフガも!」
セレナーデ達になでなでと頭を撫でられ嬉しそうにドヤ顔をこちらに向ける錠前。
「なんかあそこだけ空気違くない?」
「緊張感の欠片もないネ。」
「実はちょっと羨ましいくせに。」
「そんなわけないアル!」
「はいはい。共ポもいつも偉い偉い。」
そう言ってクレソンが雑にでもすこしゆっくりと共ポジの頭をなでる。
「なっ!」
突然の攻撃に共ポジの顔が林檎のように赤くなる。
「共ポ〜〜!」
「くるっぽーちゃんかわい〜!!」
その姿をニヤニヤと見つめるのは錠前とセレナーデ。
「こっち見んなアル!」
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「なんかそんなに強くなかった…ね。」
クレソンがそう言葉を呟く。
ここ最近は共ポジが前を走るだけではなく錠前とクレソンが前線で戦い、共ポジとセレナーデがそれ以外をサポートをするという戦い方をしている。それにしてはあまり苦労すること無く戦うことができたことに小さな疑問が生まれる。
「わかめだ!違うわ!ワタシ達が強くなったよの!ね、共ポ!」
クレソンの前に錠前が立ちそう言葉を放つ。
「我が鍛えて、こんなやつに負けるようなら1から鍛えなおしてやるネ。」
共ポジが当たり前だ、といった様子で笑うら。
「ねえねえみんな!この後パフェ食べに行かない?!ふぁみれすなら夜までやってるって!!」
先程まで戦闘をしていたとは思えないその声色でセレナーデがルンルンと提案をしてくるや。
「こんな時間に?!セレナーデ正気?」
「夜パフェ…!罪の味!」
クレソンが時刻を2度見し、錠前が悪魔の提案にたじろぐ。ただフガだけがどこかを見つめたまま止まっているのをみつける。
「フガ?」
「みんな!まだだめなんだフガ!」
フガのその言葉に錠前がフガの視線の先へと顔を上げる。
顔を数cm先、目の前には刃が。
凄まじい衝撃に煙が上がる。
「きょ、共ポありがと……。」
「錠前、オマエは後ろに下がるアル。」
刃が当たる寸前共ポジが錠前を引っ張り、錠前に傷はない。
「あら、さっきの避けられたんですね。すごいです!」
煙の消えた先、姿を表したのは先程攻撃を仕掛けてきたのであろうその大きな体に見合った大きな斧を持ち首のないつぎはぎだらけのぬいぐるみ。そしてその横には1人の女。
「お姉さん……?」
「覚えててくださったんですか?嬉しいです。錠前さん皆様ご機嫌よう。私、ウヅゥと申します。」
その艶やかなツインテールを揺らし、黒いリボンをつけ、胸元にはそのリボンと共に赤い宝石を飾った女性が笑顔を作る。
「私実は皆さんの敵なんです。」
そう笑顔で言葉を続け、パチンと指を鳴らす。
まるで瞬間移動のようにウヅゥが移動する。
そうして地面に立つポコへ向けて踊るようにダンスのようにスカートから覗く美しいその足で蹴りあげる。
「ぽっ。」
ポコが小さな悲鳴を残し蹴り飛ばされる。
「ポコ!」
錠前がポコの名前を呼ぶが返事は返ってこない。
「あんたよくも!」
錠前が拳を構えるよりも先にセレナーデが前へ移動する。
「なんでそんなひどいことするの。私の大事な友達に。」
セレナーデのいつもの明るい笑みは止まり、ただ真っ直ぐにウヅゥへ顔を向ける。
そのまま力強くステッキをウヅゥめがけて振り下げる。
パチン、もう一度ウヅゥが指を鳴らす。
また距離が遠くなりセレナーデの攻撃は空振りに終わる。
「セレナーデ、落ち着いて!」
クレソンがセレナーデに言葉をかける。
「嫌ですね。ちょっと遊んだだけじゃないですか。」
ウヅゥは変わらない笑顔向ける。
「うーん。身体強化、守り系……。やっぱり私錠前さんのが欲しいです。」
ウヅゥが見定めるようにプリキュア1人1人に視線を向け、最後に錠前へと指を向ける。
「頂きますね。」
その言葉と共に錠前のへ黒い蝶が集まる。
「きゃっ!」
「錠前!」
すぐさま共ポジが黒い蝶を払おうとするがそれを邪魔するようにつぎはぎのぬいぐるみが立ち塞がる。
「もう十分です…あら?変身はできるんですね。」
黒い蝶が取り払われた先には怪我ひとつなく何が起きたか分からないといった表情を浮かべる錠前の姿が。
「私の用事は終わったので本日はこれで失礼させて頂きます。」
「待って!」
錠前が呼び止めるがそれを気にする様子もなくウヅゥの横でぷかぷかと浮いていた紫の生き物が斧を持ったぬいぐるみを小さく回収する。
「またすぐに会えますよ。それでは皆様ご機嫌よう。」
黒い蝶の群れがウヅゥと共に消える。
「なしな、大丈夫?怪我は?」
「ううんわかんない、ワタシなんともないの……そうだ!ポコ!!」
気を失っていたポコも意識を取り戻したらしくフガと会話をする姿がみえる。
「ポコ〜だいじょうぶなんだポコ!ちょっと身長が伸びたポコ!」
蹴り上げられたポコの頬が赤くなりもう既に大きく腫れ上がっている。
「ポコ横になんだフガ。伸びたんじゃなくて太ったんだフガ。」
「ポコーー!」
フガが泣きながらポコの腫れた頬を見つめる。
「……。」
「セレナーデ。」
「くるっぽーちゃん……怪我とかしてない?」
「我は問題ないネ。それよりアイツ、アレは、プリキュアアル。」
「…うん。あの子はプリキュアだよ。」
「じゃあ前にセレナーデが言ってた悪いプリキュアってこと?」
「うん……そうみたい!」
セレナーデが困ったような今にも泣き出しそうな笑顔で言葉を返す。
笑顔で、けれど自身の手首を強く握るセレナーデの前に錠前が立つ。
「ワタシは元気だし、ポコも起きたし!ねえセレナーデ!みんなでパフェ食べに行こ!!」
錠前がそう言葉を放つ。
「なぎさちゃん…!」
「我は行けるネ。」
共ポジが変身を解く。
「ポコが太っちゃった分フガがいっぱい食べるフガ!!」
「フガ?ポコ太ってないポコ!!」
「私パスで。」
「パスとかありませ〜〜ん!」
変身を解き今にも逃げ出そうとするわかめだの腕をなしなが掴みファミレスへと引きずる。
「ひとまず労働の後は甘いものでしょ〜!」
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「メロン♪メロン♪」
「すごいポコ!ポコより大きいポコ!!」
「チョコパフェも捨て難かったけどここはやっぱり期間限定よね!」
大きな期間限定のメロンパフェに満面の笑顔を向けるなしなとポコ。
「くるっぽーちゃんこちら隣のセレナーデからです!」
「絶対いらないネ。」
期待を裏切らないセレナーデのドリンクバーへの冒険を共ポジがバッサリと切り捨てる。
「クレソン!これ何味のジュースなんだフガ?」
「しゅわしゅわジュース、フガものむ? 」
フガの質問にとろんだ瞳でわかめだが返しグラスを傾ける。
「ちょっとわかめだ!何飲んでんのよ!」
「わかめちゃんだめだよー明日もお仕事なんでしょ?」
「わねかだ大人しくこれでも食べてろネ。」
なしなのパフェからウエハースを奪い取り共ポジがわかめだの口にそのお菓子を突っ込む。
「もぐ……ゆーちゃんのクッキーのが美味しい。」
「「ゆーちゃん?」」
スプーンを口へと動かし続けたままポコとフガが顔を見合わせ疑問符を浮かべた。
暗い夜も飲み込んでプリキュア達の賑やかな時間まだ続いていく。