第2話「あなたの隣」「今日はずっと晴れるーって言ってたのになんだか雨降りそう。」
「雨?ほんとだ、少し曇ってきたかも。やだなあ雨苦手なのに。」
「あれ、わかちゃん雨苦手だっけ?」
「んーあんま好きじゃない。頭痛くなるし。」
そんな会話をしながら2人道を歩く、今日はユーロとわかめだの2人で休みを合わせ遊びに出掛けている。
昼食も済ませ、この後はどこへ行こうかまた会話を続けようとした時。
(クレソン!お願い!敵がやってきたフガ!錠前達もいるけど今日はいつもより敵の数が多いのプリキュアに変身して応援に来て欲しいフガ!)
頭に響くのは焦りを持ったフガの声。
折角のユーロとの遊びの時間に要請がかかってしまったのはとても残念だが仕方ない、大切な人を守る、それが私の決めた戦いだから。
「…わかった、今行く。」
「わかちゃん?何か言った?」
「ううん、なんでもないよ。ゆーちゃん本当にごめんどうしても行かなきゃいけない急用ができちゃった。」
この埋め合わせは必ずするから!と言って走り去ってしまったわかめだ。
「わかちゃん急にどうしちゃったんだろう?」
そして走るわかめだの背中が見えなくなった頃。
わかめだがいた場所に落ちていたのは蝶の刺繍がされている白いハンカチ。
「あれ、わかちゃんの落し物かな…?走ればまだ間に合うかも!」
ユーロが急いでわかめだの後を追いかける。
路地裏についたわかめだ。
「ここなら大丈夫。」
「いた!わかちゃ!」
『鮮やか緑を届けちゃう。』
先程まで一緒にいた聞き覚えのある声、カラフルアミュレットに触れ変身をしたその時、目にしたのはユーロの姿。
「「?」」
「〜〜〜っゆーちゃんごめん、そこにいて。」
言いたいことはたくさんある、でもまずは戦いに行かなければ。
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「わかちゃん、どういうことなの。」
戦いが終わった先で待っていたのは心配といった顔を表情するユーロ。
ユーロにばれないよう壁の裏からその2人を見守る。
「どういうことユーロさんにプリキュアの事がバレちゃったってこと?」
「どうしよう、わかめちゃん泣きそうな顔してたよ。」
「どうするもないネ、プリキュアがバレた以上選択は2つしかない、それはわねかだも分かってるはずアル。」
プリキュアの正体が一般人にばれたとき。
「ユーロもプリキュアになるか、それか……。」
わかってる、わかってる。
選択肢なんて元々1つしかないこの危険な戦いにゆーちゃんを巻き込むなんて絶対にしない。
そうそれがゆーちゃんが私のこと何もかも全部忘れたとしても。
震える指先が無意識に自身の髪に触れる。
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納得いかないと何度も食い下がるユーロに最後までプリキュアについて本当の事を話すことはせず、どうにか1度家へ帰らせる。
「フガお願いゆーちゃんの記憶を消して、私はあの子を……ううん私が、私が覚えてればそれでいいの。」
「本当にいいの?フガにはわからないけど2人にはとっても大事な絆があるんじゃないフガか?」
「……。」
黙るクレソンにフガは記憶の消去には数日の猶予があること、決断はもっと考えてからでもいい、その選択を何よりも大事にすると告げてくれた。
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「わかめだ?本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だから。」
心配の言葉をかけるなしなに瞳を合わせることはなくわかめだが返す。
本当は私の事を忘れて欲しくなんかない。
でも、だめなんだよ。絶対に。
1人自宅までの帰り道を歩くわかめだの前に膝を抱えうづくまり泣いている黒髪のツインテールの女の子を見つけ急いで駆け寄る。
「こんな時間にどうしたの?道に迷っちゃった?」
質問を投げかけても女の子は泣き止むことなく会話にはならない。
「大丈夫。お姉ちゃんが一緒に交番まで行ってあげるから、お父さんかお母さんの名前はわかる…?」
まずは女の子を立たせようと手を差し伸べた瞬間、想像していた以上の力で女の子にギュッと強く手を握り返される。
「…っ?!」
「うん、アタシねぇーお姉ちゃんがいるよ。」
そう言って先程まで泣いていたであろう顔とはうって変わった赤い眼鏡を身につけた笑顔をわかめだに向けて浮かべる。
「おねーちゃんのところに連れて行ってあげる。」
ポケットから取り出した林檎をかかげその林檎が甘ったるい匂いを放ち大きく爆発する。
「こんな簡単な嘘に騙されるとかほんとにプリキュア〜?ざぁこすぎてパリン笑っちゃう、でもこいつをお城に連れてけばきっとおねーちゃんはパリンの事いっぱい、いっぱーい褒めてくれるよね、きゃはは!」
意識を失い地面に倒れるわかめだの横で甲高い笑い声だけが夜の闇の中響いていた。
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違和感を感じ重たい瞼を開ける。
「なにこれ。」
目を開けた先で映るのは自分と向かい合う形でボロボロの姿で地面に倒れる錠前、ポコ、フガ、共ポジ、セレナーデ……そしてユーロの姿。
「なしな?共ポ、ポコ?フガ、セレナーデ!ゆーちゃん、ゆーちゃん!」
みんなの名前を必死に呼びかけるが返事が返ってくることはない。
ふと自分の足元を見る。
プリキュアの力を使った際に出るはずの緑の葉がふわりと地面に落ちていた。
「私が……みんなを?」
なんで、どうして︎︎ ︎︎ ︎︎わたし ︎︎ ︎︎が?
『あなたが弱いから。』
私が巻き込んだから、私が弱いから。
『今度こそ守るって決めたのに。』
誰かの声が聞こえる。
私のせいで?大事な仲間を、大切な人まで。
格好つけて、見栄を張って結局誰も守れなかった。
また?
「ああああ!」
悲痛な叫び声をあげるクレソンの目を隠すようふわりと手を回され後ろから誰かに抱きしめられる。
「大丈夫、そんなつらいコトなら全部忘れちゃいませんか?弱くて可哀想などんなあなたも︎︎ ︎︎ ︎︎"私達"なら大事に大事に愛してあげます。だからほら。」
あぁ、ごめん、ごめんなさいきっともう私あなたの隣にいられない。
1つの色に小さく小さく黒い雫が落ちて混ざっていく。
何か大事なものを落としてしまったような音がした。
でもなにかもうわからない。
その想いは強い雨音にかき消されていった。
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降り始めた雨は止むことなく何日も続いて暗い雲が空を覆っていく。
「わかちゃん何度連絡しても電話に出ないんです!皆さんならなにか知ってるんじゃないですか。」
ユーロがこれまでに無い強い口調でなしな達へ言葉を荒らげる。
「実はワタシたちもわかめだと連絡が取れなくて探してるの…それに……。」
「それに?」
なしなはユーロにプリキュアとしての事情を話すべきか悩んでいる。
「ユーロも当事者、話さないと決めたのはわねかだだけど本人が姿表さないなら不公平ネ、我が説明するアル。」
そのなしなの前に立ち共ポジが覚悟を決めた瞳と言葉をユーロへ向ける。
「うそ……そんなの、わかちゃんなんで私に話してくれなかったの…。」
「きっと大切だったからこそ話せなかったんだよ、わかめちゃんと次はちゃんと話し合お?私達も一緒にわかめちゃんを探すから!」
セレナーデの優しい言葉に涙を流さないよう必死に我慢しユーロがお礼を言おうとしたその時。
「皆様お揃いで、ご機嫌よう、今日は私の可愛い大切なおトモダチのパリンちゃんと新しいお人形さんを紹介しに来たんです。」
「カキン!カキン!」
突如姿を表したのはプリキュア敵対している闇のプリキュアであるウヅゥ。ウヅゥは錠前が最後に見た焦燥溢れる感情は一切無くいつも通りの冷たい氷のような笑みを浮かべている。そしてその仲間であると紹介された艶やかな黒髪をツインテールにし、熟れた林檎のように赤い眼鏡をつけた少女とatmが隣に立つ。
けれどその3人へよりも先に錠前と共ポジが大きく声をかける相手がもう1人。
「わかめだ?今までどこいってたの!みんな探してたのよ!!」
「ソイツらは敵ネ!はやくこっちに来るアル!」
3人の数歩後ろにはいつもの服とよく似た形をしてはいるが鮮やかな緑色とは対象的に暗く、赤のストライプの入った衣装に身を包まれたクレソンが生気なく立っていた。
「……?」
なしなと共ポジがクレソンへ呼びかけるが何を言っているかわからないと言った表情でクレソンがただこちらを見つめる。
「あんなやつらと話なんかしなくっていーの、あなたの大切な人はアタシとお姉ちゃんのただ2人、そうでしょ、ね?」
「うん、わかってるよ。」
楽しくてたまらない、その感情を隠すこともないパリンがクレソンに話しかけ、それに愛おしそうにクレソンが答える。
その様子を見たセレナーデが疑問を大きく口にする。
「わかめちゃん?何言ってるの、あなたの大切な人はユーロちゃんでしょ!」
「わかちゃん!」
「ゆーろって誰?」
ユーロがわかめだの名前を呼ぶ。
クレソンの瞳はそれをうつさない。