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    @t_utumiiiii

    @t_utumiiiii

    ・オタクの二次
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    リサちゃん(6)がライリーおじさんと一日お出かけする二次(弁護士と庭師)

    お花が好きじゃない人(弁護士と庭師) リサは、お父さんのお友達と一緒に、お出かけをしたことがある。「お父さんと二人で、よくお話をしないといけないから」といって、お母さんが、そのお友達の人に、一日、リサの面倒を見るようにお願いしたの。それから、お母さんはリサに、「いい、フレディさんの言うことをよく聞くのよ」って言い聞かせた。
     お父さんのお友達のライリーさんは、スーツを着て髪をピカピカに固めた若いおじさん。いつも親切で、尋ねてくる時は、お花を持ってきてくれる。普段は疲れた顔をしてるお母さんも、彼が持ってきてくれる綺麗なお花を見ると、元気が出るみたいで、そのお友達の人の前では、よく笑ってる。お母さんはきっと、お花が好きなのね、だから、リサもお花が好き。

    「今日は、お花を持ってきてないんですね。」
     ぱりっとしたスーツにネクタイを結んで、手にはお仕事の鞄(ブリーフケース)だけをぶら下げているライリーさんに聞いてみると、彼は訝し気に眉を寄せた。
     ライリーさんがそんな態度を取るところを――つまり、普段の感じのいい微笑みを浮かべもしないで、相手を疑うような目で不躾に見るところを、これまでに見たことがなかったリサはそれに驚いて、(私、何か悪いことを言ってしまったかしら)って、リサがそうやって考えている内に、ライリーさんは、ともすれば睨んでいるように細めた目でリサを見下ろしているかと思えば、ふっと、口元だけで嫌味っぽく笑って、何か言った。
     その時に、彼が何を言ったかは、表通りを行きかう様々な人の足音や、車道を走る馬車の車輪がレンガを叩く音に紛れて、何も聞こえてこなかった。けれど、そうやってあからさまに、笑いたくもないところで無理やり笑うような顔をしているライリーさんは、普段からお花が好きで、だから来客の度に綺麗なお花を持ってきてくれる人というわけではないし、元々親切な人だから、お母さんや私たち家族に、親切に見えるように振舞っている訳じゃないんだな、ということはわかった。

     ライリーさんはその日、「したいことがあったら、何でもいいなさい」とリサに言った。
    「普段、ご両親も忙しくしているんだろう。あまりかまってやれていないから、よく見てやってほしいと、君のお母さんから聞いている。」
     彼は柔らかいものの表面を撫でるような気を遣う声で、「お金のことは心配しなくていい。」と優し気に言う。その一方で、眼鏡の奥の彼自身の目は、決してリサを見なかった。それでいて、普段のように笑って見せると、愛嬌のあるようにも光る(彼は服装に隙が無い分、気取らずに笑うと目立つ前歯が、親しみに近い可笑しみを抱かせる性質の顔立ちをしていた。)彼のブラウンの目は、トカゲめいた冷血な温度のまま、それでも「心配そうに目配せをする」フリが、いっそ巧妙な程に上手なので、かえって、輪郭を上滑りしていくような、その不自然さが目についた。

     ショーウィンドーが並ぶ通りの雑踏の中で、これほどの人込みを一人で歩くのには慣れていないリサは、自分の両手を硬く握りしめながら歩いた。
     最初、人込みを歩くなら、はぐれないようにした方がいいんじゃないかと思って、ライリーさんに「手をつながないんですか?」と聞いたら、ライリーさんは、眉間に寄った皺を隠すように、眼鏡の鼻宛てを押し上げて、その位置を直しながら、「必要か?」と、逆に聞き返してきた。
    「君がそうする必要があると言うなら、勿論そうしよう。何せ、君のことは、君のお母さんから、くれぐれもよろしくと言われているからな。」
     そこまで言うと、ライリーさんは少し肩を竦めて「でも、随分しっかりしているようだから、そういう子ども扱いは、かえって失礼かと思ってね。」と、口元に苦笑いを浮かべて付け加えた。
    「……わたし、六歳なの。」
    「そうだな。その年でそんなにしっかりしてるのは、立派なことだと思うよ。」
     まるでリサを褒めるみたいなことを言いながら、眼鏡の奥の目を細めて、ライリーさんは笑っているフリを続けている。
    「……はい、大丈夫です。」
     だから、リサは彼にどうにかしてくれるように頼むより、ここではぐれないように自分の方で神経を尖らせることにした。もしも、ここに人さらいが来たらどうするの? でも、薄い膜を張ったように距離を取りたがり、うっすら拒むように眉頭を寄せて不愉快そうにしているライリーさんに、「人さらいに遭ったら怖いの」と言って、手をつないでほしいというのはちょっと勇気のいることだったし、手をつなぐことを許してもくれない大人のズボンの裾を握るのは、もっと勇気のいることだった。第一、彼のぴしっとしたスラックスに触ることを、この、物腰ばかりは柔らかいけれど、どこかで神経の糸をぴりぴりと張り詰めている気配のあるおじさんが、リサに許してくれるようには思えない。それに、流石にそんなことが――人さらいが来るようなことがあったら、大人のライリーさんがどうにかしてくれるんでしょう。

     通り沿いを歩いている間、ライリーさんは、リサが横を歩いていることなんかまるきり忘れたような、しらじらとした顔で歩いていたけれど、リサが少し躓きかけたりすると、顔色ひとつ変えないながらに、傾いたリサに手をそれとなく添えて、リサが転ばないように止めはしてくれた。彼はそれから、「気をつけなさい」というでもなく、リサの肩を掴んだ手をすぐに離すと、自然な仕草でハンカチやスラックスの布地で手を軽く拭いながら、自分のすべきことは果たした、と言いたげな様子で前に向き直る。
     今になって思えば、あの時のあの人は、他人の子供(それも異性の子供)を持て余していたのかもしれない、と思う。あの人が好きなのは、お母さんだけだった。お父さんのことはお友達と言って騙してカモにしたし、その彼からすると、リサは「お母さん(マーシャ)の子供」というよりも、「お父さん(レオ)の子供」に見えていたんだと思う。それはそれで構わないわ、と私は思う(だって、お母さんが選んだのはライリーさんで、結局私たちは捨てられたんだもの!)。けど、あの時のリサに、そんなことはわからなかった。
     これは、ライリーさんとどこかに行く途中なのか、それともこのあたりをぶらぶらしたいだけなのか、リサは疲れたと言っていいのか、これからどこに行くのか聞いてもいいのかしら? ライリーさんは、リサが何かを言えば、たぶん聞いてくれるけど、それでも、見るからに機嫌のよくない(しかも、それを隠そうとする)大人は怖い。平坦な声で、興味もなさそうに冷たい目をしていて、それを取り繕いもしないのに、態度ばっかり、親切な振る舞いの表面をなぞっているライリーさんは、どこかちょっとでも触ると、そのまま張り詰めた糸が、キリキリと金切声を上げそうな不穏さがあった。

     その内に、ちょっと疲れて、なんだか歩くのがばかばかしくなってしまったリサが、ふっとその場に立ち尽くして、歩くのを止めてしまうと、ライリーさんは、二歩三歩と先に歩いてから、ぴたりと足を止めて、リサの方を振り返った。
     その時、振り向いた大人の顔を、リサは怖くて見れなくて、自分の足元――お母さんが綺麗に磨いてくれたよそいきの靴――ばかりを見ていた。
    「どうしたんだ」
     そこに、ライリーさんの平坦な声が降ってきた。リサにそう聞きながら、ライリーさんは仕事鞄の持ち手を几帳面に握り直していて、もしかすると彼は、ちょっと怒っているのかもしれない。だって、リサが変なところで立ち止まったりなんかしたから。
     (怖いな、)と思って、リサが、リサの正面にやってきたライリーさんの、よく磨かれてはいるものの、少し草臥れている革靴から目を逸らすと、その先にあったショーウィンドウには、揺り籠やベビーベッドと一緒に、白くてふわふわのウサギのぬいぐるみがいくつも飾ってあった。
    「……欲しいのか?」
    「ううん」
     だいじょうぶです、と、リサが平坦な声を慎重になぞると、ショーウインドウの方に目をやっていたライリーさんは、「不思議そう」というには、やっぱり訝るように眉を動かしながら、リサを横目に首を捻ったけれど、リサは本当に大丈夫だった。
     だって、それが欲しくって立ち止まった訳じゃない。ずっと気を張っていたから、ちょっと疲れちゃっただけなの。それに、疲れたって言っても仕方がない。今出来ることといったら、この、お花も子供も好きではなさそうな、「お父さんのお友達」との時間を、出来るだけ穏便に済ませるということだけ。


     それからどうやって、日が沈むまでの時間を潰したか、今の私はもう覚えていない。
     ショーウインドウの前をゆっくりゆっくりと数往復してから、どこかのお店に入って、ご飯をごちそうになったかもしれない。その時には、彼も多少砕けた話し方をして、私もそのお話に、少しは笑ったのかもしれないし、ライリーさんは相変わらず、子供の相手をする気はないままで、リサも、特に何もしゃべらなかったのかもしれない。第一、食べている途中におしゃべりをするのは、あまりお行儀の良いことではないし……。

     でも、覚えていることが一つある。その日の別れ際のこと。ライリーさんは、リサのお家のドアをノックする前に、リサに一匹のウサギのぬいぐるみを持たせた。それは白くてふわふわの、ショーウインドウの中にいた子で、リサはそれに、「わあ!」と驚いて、何なら嬉しそうに笑いながら、「ありがとうございます!」って、すぐに言わなきゃいけないのに、そのぬいぐるみがあまりにも急に、彼の平たい仕事用の鞄から、まるで手品みたいに出て来たから、そっちの方にびっくりして、何も言えないでいるうちに、相変わらず、あくまで立ったまま、上からリサを見下ろしてくるライリーさんは「リサ」と、初めて私の名前を呼んだ。
    「お前は、これが欲しかったんだろう?」
     彼は続けて、有無を言わせない程の落ち着いた声で、ゆっくり、リサにも聞き取りやすいようにそう言うので、リサは、彼が何をしたがっているのかすぐにわかって、自分のするべきことを――きちんと頷いて、口答えをしなかった。
    「よし、」
     そうやって物分かり良く頷くリサを見たライリーさんは、これで一仕事終えた、という風に呟いた。そして、続いてリサに「帰ろうか」と言い、踵を返すと、リサの家の呼び鈴を鳴らした。
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    Replies from the creator

    @t_utumiiiii

    DOODLE公共マップ泥庭

    ※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定
    一曲分(泥庭) 大勢の招待客(サバイバー)を招待し、顔も見せずに長らく荘園に閉じ込めている張本人であるのだが、その荘園主の計らいとして時折門戸を開く公共マップと言う場所は、所謂試合のためのマップを流用した娯楽用のマップであり、そのマップの中にもハンターは現れるが、それらと遭遇したところで、普段の試合のように、氷でできた手で心臓をきつく握られるような不愉快な緊張が走ることもないし、向こうは向こうで、例のような攻撃を加えてくることはない。
     日々試合の再現と荘園との往復ばかりで、およそ気晴らしらしいものに飢えているサバイバーは、思い思いにそのマップを利用していた――期間中頻繁に繰り出して、支度されている様々な娯楽を熱狂的に楽しむものもいれば、電飾で彩られたそれを一頻り見回してから、もう十分とそれきり全く足を運ばないものもいる。荘園に囚われたサバイバーの一人であるピアソンは、公共マップの利用に伴うタスク報酬と、そこで提供される無料の飲食を目当てに時折足を運ぶ程度だった。無論気が向けば、そのマップで提供される他の娯楽に興じることもあったが、公共マップ内に設けられた大きな目玉の一つであるダンスホールに、彼が敢えて足を踏み入れることは殆どなかった。当然二人一組になって踊る社交ダンスのエリアは、二人一組でなければ立ち入ることもできないからである。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定

    マーサが香水使ってたらエブリンさん超怒りそう みたいな
    嫌いなもの:全ての香水の匂い(広義のウィラマサでエブマサ) チェス盤から逃れることを望んだ駒であった彼女は、空を飛び立つことを夢見た鷹の姿に身を包んでこの荘園を訪れ、その結果、煉獄のようなこの荘園に囚われることとなった。そこにあったのは、天国というにはあまりに苦痛が多く、しかし地獄というにはどうにも生ぬるい生活の繰り返しである。命を懸けた試合の末に絶命しようとも、次の瞬間には、荘園に用意された、自分の部屋の中に戻される――繰り返される試合の再現、訪れ続ける招待客(サバイバー)、未だに姿を見せない荘園主、荘園主からの通知を時折伝えに来る仮面の〝女〟(ナイチンゲールと名乗る〝それ〟は、一見して、特に上半身は女性の形を取ってはいるものの、鳥籠を模したスカートの骨組みの下には猛禽類の脚があり、常に嘴の付いた仮面で顔を隠している。招待客の殆どは、彼女のそれを「悪趣味な仮装」だと思って真剣に見ていなかったが、彼女には、それがメイクの類等ではないことがわかっていた。)――彼女はその内に、現状について生真面目に考えることを止め、考え方を変えることにした。考えてみれば、この荘園に囚われていることで、少なくとも、あのチェス盤の上から逃げおおせることには成功している。
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    @t_utumiiiii

    DOODLEクリスマスシーズンだけど寮に残ってる傭兵とオフェンスの象牙衣装学パロ二次妄想ですが、デモリー学院イベントの設定に準じたものではないです。
    the Holdover's Party(傭兵とオフェンス ※学パロ) 冬休み期間を迎えた学園構内は火が消えたように静かで、小鳥が枝から飛び立つ時のささやかな羽ばたきが、窓の外からその木が見える寮の自室で、所持品の整理をしている――大事に持っている小刀で、丁寧に鉛筆を削って揃えていた。彼はあまり真面目に授業に出る性質ではなく、これらの尖った鉛筆はもっぱら、不良生徒に絡まれた時の飛び道具として活用される――ナワーブの耳にも、はっきりと聞こえてくる程だった。この時期になると、クリスマスや年越しの期間を家族と過ごすために、ほとんどの生徒が各々荷物をまとめて、学園から引き払う。普段は外泊のために届け出が必要な寮も、逆に「寮に残るための申請」を提出する必要がある。
     それほどまでに人数が減り、時に耳鳴りがするほど静まり返っている構内に対して、ナワーブはこれといった感慨を持たなかった――「帝国版図を広く視野に入れた学生を育成するため」というお題目から、毎年ごく少数入学を許可される「保護国からの留学生」である彼には、故郷に戻るための軍資金がなかった。それはナワーブにとっての悲劇でも何でもない。ありふれた事実としての貧乏である。それに、この時期にありがちな孤独というのも、彼にとっては大した問題でもなかった。毎年彼の先輩や、或いは優秀であった同輩、後輩といった留学生が、ここの“風潮”に押し潰され、ある時は素行の悪い生徒に搾取されるなどして、ひとり一人、廃人のようにされて戻されてくる様を目の当たりにしていた彼は、自分が「留学生」の枠としてこの学園に送り込まれることを知ったとき、ここでの「学友」と一定の距離を置くことを、戒律として己に課していたからだ。あらゆる人付き合いをフードを被ってやり過ごしていた彼にとって、学園での孤独はすっかり慣れっこだった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE象牙衣装泥庭二人とも怪我してるみたいで可愛いね🎶という趣旨の象牙衣装学パロ二次妄想(デモリー学院イベントの設定ではない)です
    可哀想な人(泥庭医 ※学パロ) 施設育ちのピアソンが、少なくとも両親の揃った中流階級以上の生徒が多いその学園に入学することになった経緯は、ある種“お恵み”のようなものであった。
     そこには施設へ多額の寄付したとある富豪の意向があり、また、学園側にもその富豪の意向と、「生徒たちの社会学習と寛容さを養う機会として」(露悪的な言い方になるが、要はひとつの「社会的な教材」として)という題目があり、かくして国内でも有数の貧困問題地区に位置するバイシャストリートの孤児院から、何人かの孤児の身柄を「特別給費生」として学園に預けることになったのだ。
     当然、そこには選抜が必須であり、学園側からの要求は「幼児教育の場ではない」のでつまりはハイティーン、少なくとも10代の、ある程度は文章を読み書きできるもの(学園には「アルファベットから教える余裕はない」のだ)であり、その時点で相当対象者が絞れてしまった――自活できる年齢になると、設備の悪い孤児院に子供がわざわざ留まる理由もない。彼らは勝手に出ていくか、そうでなければ大人に目をつけられ、誘惑ないしだまし討ちのようにして屋根の下から連れ出されるものだ。あとに残るのは自分の下の世話もおぼつかないウスノロか、自分の名前のスペルだけようやっと覚えた子供ばかり――兎も角、そういうわけでそもそも数少ない対象者の中で、学園側が課した小論文試験を通ったものの内の一人がピアソンだった。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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