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    @t_utumiiiii

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    「純粋と神聖をもって生涯を貫き医術を行う。」(ヒポクラテスの誓い)/リディア・ジョーンズが「特別なサービス」を行うことなくリディア・ジョーンズ診療所を運営できたので指名手配されることもないし荘園にも来ない・リサを途中で投げ出して逃亡もしないifルートのリディアとリサ 若干恋愛をイメージした描写があります

    完治(医師遡及時空のリディアとリサ) 毎週水曜日の午前中、ジョーンズ医師はホワイトサンド・ストリート59号の精神病院にて診察を行う。それは彼女の中で、医療という能力を持つ機会を得た者が行うべき、当然の奉仕活動だった。
     彼女がボランティアでの診療を行うホワイトサンド精神病院は、元は孤児院から改築された児童精神病院を母体としていることもあってか、年端もいかない年齢の収容患者が少なくない。しかし、治療と言うよりは、時に懲罰的な趣さえある水浴や電気椅子といった、もっぱら「精神病に対する治療法」を行わなければ「手に負えない」ような症状を呈する子供というのは、その中でもほんの一握りに過ぎない、というのがリディアの考えだった。
     リディアの目から見れば、殆どの子供は、親という庇護を失い、幼いうちから厳しい現実と向き合う必要から、年頃にしては大人びが過ぎて、それが「過度に」反抗的な態度として現れていたり、それ以前にそもそも大人に対する信用の心というものを一切失っていたりといった、心理的な症状を示している程度にしか見えず、確かに「健康」な状態からは程遠いと言っても、その兆候から「これは精神病だ」と診断するのは、リディアに言わせてみれば短絡的が過ぎるというものだった。まして相手は子供で、まだ発達段階の過程にあるものだ。誰しもがこの手の気難しい時期をやり過ごして今に至る筈なのに、皆喉元を過ぎれば、その頃の気持ちの熱さというものを、すっかり忘れ去ってしまうらしい。
     とはいえ、ホワイトサンド精神病院にボランティアとして週に一度訪れるだけのリディアは、医師として「この診断は少々短絡的すぎるのではないか」という程度の助言をすることこそあれ、この病院の方針を全く変えさせるということはできなかった。あまり口うるさく言えば、かえって自分が遠ざけられるだけ、という、組織の性質というものを彼女はよく理解していたので、リディアは折に触れて「治療の成果を見る」形での再診断を求める程度で、それ程口うるさく方針に口出しをすることもなかった。

     そうやって「聞き分けのいい態度」を保っていたリディアが、ある日突然、無理を通して一人の小さな患者を連れ出したのは、ホワイトサンド精神病院の治療方針によって、患者の容態が目に見えて悪化していると感じたからだった。
     その患者の名前は、リサ・ベイカーと言った。14歳の彼女は、リディアが定期的に診療を行う患者のひとりで、元は孤児院に収容されている孤児の一人だった(と、カルテの備考欄に記載がある)。孤児院に収容された時の彼女の年齢は、7-8歳と大まかに書いてあるだけで、他にカルテからわかる彼女の来歴は何もない。
     しかし彼女の態度は、ホワイトサンド孤児院出身とされる多くの子供とは異なり、彼女はまだ、大人への信頼感らしいものをうっすらと持っており、そして多くの孤独な子供らしく、他人の関心と愛情を受けることを強く願っていて、けれども、それを自分の非行によって引き寄せることはできない、ということを、それとなく理解しているような雰囲気が、落ち着いている時の言動の節々から見て取れた。
     そのように、どちらかと言えば物分かりが良いと言えるタイプの子供であり患者だったリサは、「置いて行かれる」ことをひどく恐れているようで、その週の診療時間を終え、リディアが片付けを始めるのを見るとそのたびにパニックを起こし、リディアの手を必死に握る子供の手を、電気ショックで緩めることはできても、彼女の感じた恐怖の感情の残骸までを消すことはできない――一週間ごとに置いて行かれる恐怖を再現されるリサの状態は、みるみるうちに悪化していった。
     最初は「今日の診療はこれまでよ」と伝えるリディアに、固い面持ちで表情を曇らせる程だったリサの状態が段々と悪化し、ついに恐怖に打ち震えながら、すっかり血の気の引いた顔で、悲鳴も上げられないまま手を伸ばし、自分に縋ってきたのを見た時、リディアは当初、自分が彼女に踏み込み過ぎたのか、と感じもした。しかし、小さな子供の患者が必要としているのは愛着と関心であり、何より症状の改善にあたって必要なものは、医師と患者の間にある信頼関係だとリディアは考えている。
     それに、通いの医師であるリディアに限らず、リサの日々の面倒を見るスタッフは必ずいる筈で、彼女はそれらのスタッフに対しても心を開く余地のある程の心優しく大人しい、利口な子なのだ。異常なのは、「置いて行かれる」恐怖に怯えるリサに対して聞き取りもしないまま、「問題行動」への対処――叫ぶのであれば、猿轡を噛ませる、攻撃或いは自傷に走るのであれば、拘束衣を着せて落ち着くまで鎮静剤の投与を続ける――しかしない、病院側の「治療」だった。

     その日、診療開始時間から五分遅れて、スタッフの押す車椅子で運ばれてきたリサは青白い顔で、その一週間に起きたことを日付ごとに思い出していくこともできないどころか、ぎょっと顔が強張りそうになるのを堪えながら、リディアが「リサ、おはよう」と話しかけてみても、ただぼんやりと、虚ろな目で宙を見つめていた。
     そうやって、彼女がこのまま、この薄暗く、何かと人手の足りていない精神病院の一室で、その小さな心が壊れていくに任せ、ただそれを、週一で見舞いながら、カルテにあからさまに必要以上の投薬治療の記録がされているのを見ても、深刻そうに顔を曇らせるだけで、彼女の話を聞いたつもりになって、少しでも進行を遅らせている「フリをする」ような怠惰を、リディアはこれ以上、自分自身に許すことができなかったのだ。

     その日の内にほとんど一方的に通告する形で話を付けると、ナースキャップを被り白い看護衣に身を包んでいる――リディアとしては「結局のところ、これが一番便利」だから身に着けているに過ぎないが、その姿を見る者の多くは、彼女を「看護婦」と誤解する――彼女は、彼女の小さな患者が寝かされている固い病床にやってくると、「リサ、荷物をまとめられるかしら」と声を掛けながら、おそらく朝に過剰に受けたのだろう投薬の影響で、まだぼんやりとしているリサの額を優しく撫で、切りっぱなしの前髪を指で梳く。
    「違う病院に行きましょう……大丈夫、あなたの病気は必ず治るわ」
     それに擦れる程の声で、「せんせいもいっしょ?」と聞いてくるリサの頬に残る涙の痕を見るに心を痛め、リディアが少しだけ深刻そうに眉を寄せながら頷くと、リサは酷い気怠さの中でも驚くように目を瞠り、「夢みたい」と言って少し笑った。


     リディア・ジョーンズ診療所には入院患者用ベッドを数床備えていたものの、リディアはリサのベッドを診療所に置かず、隣接した自分の生活スペースの中で、知らず知らず物置にしていた部屋を片付けると、そこをリサの部屋にした。リディアが思うに、リサの精神にとって重要なことは、「何物にも脅かされることのない安心感」であって、それは何かと慌ただしい診療所スペースに用意することは難しいだろうと考えていたからだ。
     しかし、そうして作られた「リサの部屋」に実際にリサのベッドが置かれるのは少し先のことで、リサを引き取ってから一年ほどの間、リディアは自分の寝室にリサのベッドを置き、就寝後にもある程度目を行き届かせることで、彼女の夜驚症や夢遊病に近い症状が、投薬に拠らず落ち着くことを期待した。
     かくしてリディアは、診療所に入院患者がいる時には、その見回りを行う前に、そして、診療所に入院している患者が他にいないときには、自分の眠り支度を整えてから、リサが眠るまで横で彼女の話を聞き、時に子守歌を歌ってやるのが、多忙な日々の日課の一つとなった。

     リディアが半ば強引に「転院」措置を取ってからというもの、それまで骨が浮く程痩せていたリサの健康状態は瞬く間に改善し、見ると心が痛む程にやつれていた頬は、ふっくらと丸みを帯びつつあった。心の傷に起因する身体症状は兎も角、栄養状況の改善の速さは目を瞠る程で、それどころか、日に日に少しずつ背が伸びていくリサに、流石に子供の回復力は違うものだと、リディアは何かと嘆息しきりだった。
     着用者が精神病院の入院患者であることを声高に主張する、擦り切れた青縦縞の病衣をいつまでも着せておくわけにはいかないと、リディアが買い与えたエプロンドレスのサイズの調整も、当初はリディアが見様見真似でやっていたものの、それから半年も経たない内にリサは「自分でできるわ」と言い出し、リディアから裁縫道具を貰い受けると自分の手で裁縫を始め、いつしか自ら集めてきたハギレで、エプロンの縁に可愛らしいフリルを縫い付けるようにまでなった。
     教えてもいないことをすっかり習得している彼女の手腕に目を丸くするリディアに、リサは「お父さんに教えてもらったの」と、はにかむように笑いながら、秘密をこっそり教えてくれる時のような小声でこそこそと言った。

     育てられた環境の――リディアは、リサがホワイトサンド精神病院に収容されている時のものしか知らないが――状態の悪さもあってか、カルテに記載されている年齢よりもどこか幼く見えるリサを、診療所を訪れる患者のほとんどは「ジョーンズ先生の子供」だと違和感なく思っているようだったし、雇っている看護師もリサを「先生の娘さん」と呼んだ。
     手元に引き取るまでの何かと経緯が入り組んでいることや、そうやってわざわざ説明することで、リサに「自分が疎外されている」と思わせるべきではないと考え、リディアはその誤解を聞いたところで、敢えて否定することもなかったのだが、リサはひとたびそれを耳にすると、気分を害したようにはっきりと顔を顰めながら、声高に否定した。曰く、「リサは先生の一番の患者さんなの!」だと。腰に手を当てながら一丁前に怒って見せるリサを面白がった老年の患者が「じゃああんた、先生の診察を受けているのかい?」というと、リサは頬を膨らせながら「勿論よ!」と胸を張る。

     それは、確かに事実だった。リディアは一緒に住むようになってからも、かつて通いで診察を行っていたときの習慣から、定期的にリサの診察を続けていた。そしてこの頃は、以前のような記憶や意識が混濁する様子の少なくなったリサは、診察の一環である「おしゃべり」の中でも、はっきりとした受け答えが続くようになり、年頃ということもあって、まだ不安定なところも多い気分の浮き沈みを自覚することもできていて、何より、極端な記憶の混濁や人格の交代がない状態の中で、話題によっては幾度も快活に笑うようになったリサの姿に、リディアは一つの手応えを感じていた。
     心が目に見えない以上、精神病に「完治」という言葉を使うのは望ましくない。しかし、今のリサの姿は、あの病院の中で閉ざされていた時よりは、少なくとも望ましい、あるべき姿に、健康な状態に、戻りつつあるのではないかと――丁度その頃、リサは診療所とリディアの生活スペースを結ぶ短い渡り廊下の脇にある小さな中庭で薬草を育て初め、親指の爪を齧る癖が再発し、今は一人でお団子が作れるほど伸びてきた自分の髪を、しきりに指で弄んでは、時に毟るといった行動を始めた。

    「最近少し、気分が落ち込んでいるようだけれど、……」
     リサの今の「診察日」である土曜日の午前、朝食の後に暖かな紅茶を囲みつつ、彼女に何か、良くないことがあったのでは――そして、自分が何かを間違えたのではないかと思う心から、細面の白い顔を少々不安げに曇らせながら尋ねるリディアに、リサは力ないながらに明るく笑う顔を作り、「ううん、なんでもないの」と、取り繕ったように二度言い返してきた。
     しかし、リディアがここでさらに質問を重ねるべきか、或いは、いったん引いてみるべきかを思案しているのを数秒じっと、今では明るく輝くこともある緑色の円らな目で見つめると、そこでようやく一つ腹を割るつもりになったのか、少し神経質な趣のある浅いため息を吐く。
    「……先生、リサ、まだびょうきなの……」
     そう言って、エプロンの胸元に自分で縫い付けた可愛らしい花飾りを搔き毟るように握ったリサに、リディアはふと、直近の診察日の話題を思い出した。「将来の夢」を聞いたのだ。

    『勿論、今すぐ、と言う訳ではないけれど、これから先、これをやって生活をしていきたい、というような、希望はあるかしら?』
    『リサ、貴女もいずれ大人になるわ。私はそれを応援したいの』
    『これから、一緒に考えていきましょうね』

     少々の心当たりがあって思い出したとはいえ、リディアはその話題が、リサには早すぎることだとは思わなかった。あれから二年経って、今のリサは十六歳になっている。自分の将来を考えるにあたって、決して早すぎるような年頃ではない。一方で確かに、彼女が傷つき、成長の足を止めていた期間を考えれば、この話はまだ、時期尚早だったと考えることだって十分にできる、とは言えた。
     その上でリディアが、敢えて、リサを相手にこの話をすることを選んだのは、彼女自身が今の状況を、能力としては十二分に飛び立つことのできるカナリヤを鳥籠に入れたまま、歌声と可愛らしい仕草を楽しんでいるのと全く同じことではないのか、と、懸念していたからだ。劣悪な環境に見切りをつけ、自分の手で引き取り、治療を続けた患者を、何か不安要素があるからと言って、独り立ちの心構えもさせずに自分の手元に置き続ける行いは、とても、まっとうな治療行為とは呼べない。
     医師である以上、患者に優劣をつけるべきではないけれど、過ごした時間が長ければ長い程、その存在に特別な重みが出てくるのは、何ら奇妙なことではない、という自覚はリディアにもあった。可愛らしく健やかに育ったリサは、今やリディアにとって愛する家族も同然だった。そうね、愛する家族と違う道を選ぶというのは、勿論、寂しいことよ。
     けれどそれ以上に、彼女は私の患者だ、ということが、医者であるリディアが一番に考えることだった。彼女は家族ではなく、患者なのだから、他でもない医師が、彼女が選ぶ道を絆して阻害する、なんてことは、あってはならないのだから。

    「リサ……あのね、」
     思考を整理するように、振り子めいた規則正しさでゆっくりと視線を動かしていたリディアは、アルトの気配がある柔らかく美しい声で呼びかけながら、誠実なブラウンの眼差しで、真直ぐにリサを見つめる。
    「私は自分の判断で、あなたが治ったと思って、外に放り出したりなんかはしないわ。まず、これを信じて頂戴」
     隙なく口紅を塗られたリディアの唇が、そうやって言葉を紡ぎながら動くのを見つめるリサは、心なしか苦し気にうっすらと眉を寄せ、円らな瞳を伏せがちにしながら、息を浅く吸ったり、吐いたりを繰り返している。
    「けれど、あなたの状態は少しずつ、健康に――医師なしでも問題ない状態に近づきつつあるわ。だから、自分の行きたいところにいって、したいことをしてほしいの。それで疲れてしまったら、また、私のところを尋ねてきてくれればいい……」
     「つまりね、私の言いたいことは――」と、リディアがまとめに入ろうとしたところで、自分の胸元を強く握るまま、今やすっかり苦し気に口で息をしていたリサは、ついに堪えきれないといった様子で身を乗り出し、顔を近づけると、出し抜けに顔を寄せられたリディアが驚いているのをよそに、彼女の口紅を塗られた隙の無い唇のすぐ横に、自分の柔らかい唇を一瞬強く押し付けると、離れて、吐く息で「私は」と擦れるように、しかしはっきりとした声で「先生の傍にいたいの」と続けた。
    「私をあそこから助け出して、一緒にいてくれた貴女の傍で、貴女を助けながら、ずっと暮らしたいの」
    「私が、患者じゃなくなっても、側においてほしいの」
    「ねえリディア、あなたは……リサとずっと一緒にいてくれる?」

     今にも泣きだしそうな程濡れた声で、聞くそばから痛む程切実に紡がれる言葉は、今もリディアが水曜日の午前中に通い続けているホワイトサンド精神病院の一室で、リサの身体を電気椅子に縛り付けながらも『大丈夫、治療を受けたら、具合も良くなって、そうしたら、ここから退院するのよ』と言い聞かせるリディアに、十四歳だった彼女が投げかけてきた言葉と同じだった。
    『ねえ、せんせい、あなたは……リサとずっと一緒にいてくれる?』
     リディアはその時、『ええ、勿論!』と、年端のいかない患者を安心させるための笑顔を口元に、ひとつ約束をした。
    『あなたの病気が治るその時まで、私はずっとずっと、リサと一緒にいるわ』
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    @t_utumiiiii

    DOODLE公共マップ泥庭

    ※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定
    一曲分(泥庭) 大勢の招待客(サバイバー)を招待し、顔も見せずに長らく荘園に閉じ込めている張本人であるのだが、その荘園主の計らいとして時折門戸を開く公共マップと言う場所は、所謂試合のためのマップを流用した娯楽用のマップであり、そのマップの中にもハンターは現れるが、それらと遭遇したところで、普段の試合のように、氷でできた手で心臓をきつく握られるような不愉快な緊張が走ることもないし、向こうは向こうで、例のような攻撃を加えてくることはない。
     日々試合の再現と荘園との往復ばかりで、およそ気晴らしらしいものに飢えているサバイバーは、思い思いにそのマップを利用していた――期間中頻繁に繰り出して、支度されている様々な娯楽を熱狂的に楽しむものもいれば、電飾で彩られたそれを一頻り見回してから、もう十分とそれきり全く足を運ばないものもいる。荘園に囚われたサバイバーの一人であるピアソンは、公共マップの利用に伴うタスク報酬と、そこで提供される無料の飲食を目当てに時折足を運ぶ程度だった。無論気が向けば、そのマップで提供される他の娯楽に興じることもあったが、公共マップ内に設けられた大きな目玉の一つであるダンスホールに、彼が敢えて足を踏み入れることは殆どなかった。当然二人一組になって踊る社交ダンスのエリアは、二人一組でなければ立ち入ることもできないからである。
    5388

    @t_utumiiiii

    DOODLE※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定

    マーサが香水使ってたらエブリンさん超怒りそう みたいな
    嫌いなもの:全ての香水の匂い(広義のウィラマサでエブマサ) チェス盤から逃れることを望んだ駒であった彼女は、空を飛び立つことを夢見た鷹の姿に身を包んでこの荘園を訪れ、その結果、煉獄のようなこの荘園に囚われることとなった。そこにあったのは、天国というにはあまりに苦痛が多く、しかし地獄というにはどうにも生ぬるい生活の繰り返しである。命を懸けた試合の末に絶命しようとも、次の瞬間には、荘園に用意された、自分の部屋の中に戻される――繰り返される試合の再現、訪れ続ける招待客(サバイバー)、未だに姿を見せない荘園主、荘園主からの通知を時折伝えに来る仮面の〝女〟(ナイチンゲールと名乗る〝それ〟は、一見して、特に上半身は女性の形を取ってはいるものの、鳥籠を模したスカートの骨組みの下には猛禽類の脚があり、常に嘴の付いた仮面で顔を隠している。招待客の殆どは、彼女のそれを「悪趣味な仮装」だと思って真剣に見ていなかったが、彼女には、それがメイクの類等ではないことがわかっていた。)――彼女はその内に、現状について生真面目に考えることを止め、考え方を変えることにした。考えてみれば、この荘園に囚われていることで、少なくとも、あのチェス盤の上から逃げおおせることには成功している。
    8097

    @t_utumiiiii

    DOODLEクリスマスシーズンだけど寮に残ってる傭兵とオフェンスの象牙衣装学パロ二次妄想ですが、デモリー学院イベントの設定に準じたものではないです。
    the Holdover's Party(傭兵とオフェンス ※学パロ) 冬休み期間を迎えた学園構内は火が消えたように静かで、小鳥が枝から飛び立つ時のささやかな羽ばたきが、窓の外からその木が見える寮の自室で、所持品の整理をしている――大事に持っている小刀で、丁寧に鉛筆を削って揃えていた。彼はあまり真面目に授業に出る性質ではなく、これらの尖った鉛筆はもっぱら、不良生徒に絡まれた時の飛び道具として活用される――ナワーブの耳にも、はっきりと聞こえてくる程だった。この時期になると、クリスマスや年越しの期間を家族と過ごすために、ほとんどの生徒が各々荷物をまとめて、学園から引き払う。普段は外泊のために届け出が必要な寮も、逆に「寮に残るための申請」を提出する必要がある。
     それほどまでに人数が減り、時に耳鳴りがするほど静まり返っている構内に対して、ナワーブはこれといった感慨を持たなかった――「帝国版図を広く視野に入れた学生を育成するため」というお題目から、毎年ごく少数入学を許可される「保護国からの留学生」である彼には、故郷に戻るための軍資金がなかった。それはナワーブにとっての悲劇でも何でもない。ありふれた事実としての貧乏である。それに、この時期にありがちな孤独というのも、彼にとっては大した問題でもなかった。毎年彼の先輩や、或いは優秀であった同輩、後輩といった留学生が、ここの“風潮”に押し潰され、ある時は素行の悪い生徒に搾取されるなどして、ひとり一人、廃人のようにされて戻されてくる様を目の当たりにしていた彼は、自分が「留学生」の枠としてこの学園に送り込まれることを知ったとき、ここでの「学友」と一定の距離を置くことを、戒律として己に課していたからだ。あらゆる人付き合いをフードを被ってやり過ごしていた彼にとって、学園での孤独はすっかり慣れっこだった。
    5375

    @t_utumiiiii

    DOODLE象牙衣装泥庭二人とも怪我してるみたいで可愛いね🎶という趣旨の象牙衣装学パロ二次妄想(デモリー学院イベントの設定ではない)です
    可哀想な人(泥庭医 ※学パロ) 施設育ちのピアソンが、少なくとも両親の揃った中流階級以上の生徒が多いその学園に入学することになった経緯は、ある種“お恵み”のようなものであった。
     そこには施設へ多額の寄付したとある富豪の意向があり、また、学園側にもその富豪の意向と、「生徒たちの社会学習と寛容さを養う機会として」(露悪的な言い方になるが、要はひとつの「社会的な教材」として)という題目があり、かくして国内でも有数の貧困問題地区に位置するバイシャストリートの孤児院から、何人かの孤児の身柄を「特別給費生」として学園に預けることになったのだ。
     当然、そこには選抜が必須であり、学園側からの要求は「幼児教育の場ではない」のでつまりはハイティーン、少なくとも10代の、ある程度は文章を読み書きできるもの(学園には「アルファベットから教える余裕はない」のだ)であり、その時点で相当対象者が絞れてしまった――自活できる年齢になると、設備の悪い孤児院に子供がわざわざ留まる理由もない。彼らは勝手に出ていくか、そうでなければ大人に目をつけられ、誘惑ないしだまし討ちのようにして屋根の下から連れ出されるものだ。あとに残るのは自分の下の世話もおぼつかないウスノロか、自分の名前のスペルだけようやっと覚えた子供ばかり――兎も角、そういうわけでそもそも数少ない対象者の中で、学園側が課した小論文試験を通ったものの内の一人がピアソンだった。
    12853

    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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