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    @t_utumiiiii

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    「この歌劇では正義よりも慈悲が重んじられるのだ」(三文オペラ)/「ホワイトサンド孤児院にリサは収容されていたが、ピアソンは顔を覚えていなかった」という前提で、ピアソンさんがたまたま懐具合に余裕があったのでリサを病院に売らず手元に置いたifルートのピアソンさんとリサ ※暴力・虐待を連想する描写があります

    乞食王(泥棒遡及妄想時空のピアソンとリサ) いっときはホワイトサンドストリートに建てた「自分の王国」から追放されるという憂き目を見たものの、出獄後の通りすがりでたまたますれ違った紳士の財布を元手に始めた私的な金貸しの副業が大当たりしたピアソンは、今や、ある意味で裏路地を取り仕切る顔役となっていた。食い詰めたよそのものが住処を追い出されて流れてきて、ここらの地べたに座り込み哀れみを乞うには、「乞食商会」を束ねる彼への「届け出」と「許可」、そして、稼ぎの半分を上納金として納めることが必要だった。
     王は王でも「乞食の王」という身分は、彼がかつて肩書きにしていた“慈善家”と比べれば、社会的な地位としては雲泥の差だ(と、ピアソンだけがそう思い込んでおり、実態としてはどちらもそう大差ないのだ)が、何であれ、自分を長に据えた居場所があり、自分が汗水だけに留まらず、時に血を垂らしながら何かとあくせくしなくとも、他の乞食どもの上前で酒を飲むぐらいはできるのだから、まあ、それなりにいい身分ではあった。

     夏の盛りと比べれば日が傾くのが早くなってきたが、まだ空も青く、随分と明るい秋口の夕方のことだ。その日も「他人のあがり」で酒を飲んでいたピアソンが、かつての自分の王国を懐かしむような心地から、ホワイトサンドストリートをぶらぶらと歩き、煉瓦の建物の屋根から屋根を滑るように視線を泳がせていると、何かにどんとぶつかられた。子供のやるスリの常套手段だ。ピアソンが、彼の鳩尾に向かって、額を擦り付けるように飛び込んできた子供の、垢の滲んだ襟首をがっしり掴んで見下ろしてみると、裾の擦り切れた縦縞の病衣を着せられた子供は、靴を履いていなかった。
    「ピ、アソン、さ、……」
     自分の襟首をがっしりと捕まえた男の顔を見上げた少女は、この世の終わりを見たように青白い顔をしながら、緑色の目を見開いて恐々に彼の名前を口にする。一方でピアソンは、そのそばかす顔にはこれといって見覚えがなかった。ホワイトサンド孤児院の経営者はピアソン一人しかいなかったが、一方で、ピアソンから見れば孤児というのはそれこそ掃いて捨てる程居り、自分が手ずから拾ったり、良い顔をしながら引き取って来たりしたものは兎も角、自分が留守にしている間に神父に預けられたような子供は、その後神父から名前を口頭で聞かされるか、数の多いときにはリストを渡されるだけで、結局、どの名前がどいつのものなのかさっぱりわからなかったのだ(とはいえ、子供の名前がわからなかろうが大して困ることはなく、彼らはそれらの名前がわからない子供を呼ぶときには、「おい」とか「お前」と言って、適当に呼びつけていた)。
     しかし、こうやって面と向かって呼ばれたからには、これも、前に自分の子供だった奴だろうか、と、見覚えのないその顔をしげしげと覗いてみたピアソンの、それまで帽子の鍔で遮られていたものの、左右ではっきりと色の違う目を見るにつけて、いっそう何かの確信を得たらしい彼女は、ピアソンが(やっぱりよくわかんねえな)と思って子供を放り出すか、それとも病院に連れて行って管理不行き届きを指摘するかを決めるよりも早く、何か一つ心づもりを付けたのか、不安げに揺れていた瞳を数度瞬かせると、ピアソンに向かって真っすぐに向けた。少女はさらに、震える細い手を恐る恐る伸ばして来ると、薄汚い身なりをした男の、擦り切れて濡れた犬の臭いを放つ上着の裾を掴んで、「わたし、病院には、戻りたくないの」と細い声で言う。
    「お願い、ピアソンさん、助けて!」
     押し殺した声でそう続けながらピアソンに縋った裸足の少女は、病院からの追手を気にしているのか、後ろを振り向くのも怖がっているようにびくびくと肩を竦めながら、背後が気になるようだが思い切って後ろを振り返ることもできない、という風におどおどとしている。しかし、ピアソンが見る限り、かつての孤児院であった建物――今はホワイトサンド児童精神病院――の入口付近では、犬連れの警備員が走り回っているわけでもなく、ここに収容患者が脱走していることに気付いた様子もない、全くのどかなものだった。

     助けを求められると咄嗟に手を貸してしまうのは、ピアソンの悪癖の一つだった。いかにもその場しのぎらしく適当に頷くピアソンの態度に、それまで緊張から唇を鎖しがちだった彼女が、安堵からかふっと頬を緩ませ、「ほんとう?」と零すと、それから、綻ぶようににこりと、可愛らしく微笑みかけてきた時には、ピアソンは(これは厄介なことになったんじゃないか)と、一瞬頭を過るものはあった。とはいえ、ある意味で一角の人物となっていた彼の懐具合には今や多少の余裕さえあり、教会裏手の泥棒市で靴を見繕ってやるところから始まるその少女に対する出費も、些細とまでは言わないが、多少節制をすれば看過できる程度のものだった。
     それどころかピアソンは、ホワイトサンドストリートを病院からは反対方向に向かって連れ歩きながら「ところで、その、おお、お前、な、なんて名前だったっけか?」と聞いたピアソンに向かって、信じられないとでも言いたげにぎょっと目を見開き、しかし、それにも大して失望もしていないような、力の抜けた呆れ顔で目を細めながら「リサ」と名乗った少女が欲しがるものは、無論値段に多少のケチを付けつつも、ある程度見映えのするものを揃えてやり、自分の身なりはそこそこに、彼女が身綺麗にしているよう、よく気を付けているようにも見えた。
     手勢の乞食連中からそれを指摘されると、「お、女の、女ものの方が、あ、後で、高く売れるだろう」と言って、不機嫌に顔を顰めながら首を竦めるピアソンの腹の内には一つの算段があり、それは、丁度手元に転がり込んできた、そしてじきに年頃になるであろうリサを、「自分の娘」として上流の連中に売り込むことで、ホワイトサンド孤児院という「王国」を失い失墜した自分の社会的な地位を高めるとともに、礼金をせしめるというものである。
     とはいえ、ピアソンはリサを上流階級の連中と知り合わせるために具体的に何か行動をとったかと言えば、大したことはしなかった。というのも彼自身“慈善家”として一応の肩書があったその時ならば兎も角、乞食を束ねる王と上流階級の接点は絶無だったからだ。強いて言えば、警察の関係者と顔を合わせる必要がある時には、リサを連れて行くことが多かったと言えなくもない。しかしピアソンがやったことと言えば、それぐらいのことだった。

     彼が引き連れている手勢の乞食の何人かは、かつてピアソンが孤児院の「院長」だったことを知っており、彼は子供を育てるのが趣味なのだろうと考えており、ピアソンの過去を詳細には知らない残りの者は、リサが彼の妻だろうと勘違いしていた(そして、ピアソンがリサを「自分の娘」だというのは、「そういう趣味」があるのだろうと理解していた。)。
     ピアソンは、他人から「あの娘は何だ」と聞かれるようなことがあれば、リサを「自分の娘」だと言った(実際のところ、彼らの年齢はそこまで離れていなかったが、リサは実年齢よりも年若く、反対にピアソンは実年齢より老けて見える顔立ちをしていたので、それは無理があるだろうと言われることもなかった)が、彼はリサを自分の娘と偽りながら大切に扱うというよりは、むしろ率直に「自分の所有物」、ないし「使える手駒のひとつ」として使い、必要に応じて自分の悪事の片棒を担がせることもした。手持ちの「資源」は最大限有効利用するべきだというのはピアソンの持論であり、それは等しくリサにも適用されていた。
     一方で、手勢の乞食とはまるで違って、路上で一人で生きてきたわけでもない――ピアソンがぽいと放り投げれば、そのまま身ぐるみを剥がされて死にそうな程「弱く」見える――リサを、彼はさながら自分の身体の延長にあるものとして、なるべく庇護してやるべきだという感覚を持っていた。そして、売る前に少しでも値打ちものに見えるよう宝石の表面を、ボロ布で磨く時のように撫でてやれば、その分だけ明るく、時に頭のネジが外れるのか、声を上げて笑って喜ぶ所有物を、彼は面白がるというには少なからず大事そうに――さながら自分の傷口を庇い、世話をし、時に無為に瘡蓋を剥がすような仕草で、兎も角手元に置き続けていた。

    「い、いいか、リサ」
     ピアソンは事あるごとに――例えば彼女の背がいくらか伸びて、背中の留め金が嵌らなくなった「よそいき」の服の仕立て直しを注文する時や、よそいきに合わせた靴のサイズが合わなくなり、爪先を庇いながら歩くのは不格好だと言って新しいものに買い替えてやるような時に、いつかとはまた別の紳士の懐から頂戴した革財布を片手に握りながら、「お前は、わた、私が、助けてやったんだ」と執拗に繰り返した。
    「だ、だからさ、お前も、ク、クリーチャーをさ、助けるんだぞ。わた、私たちは、こ、この世で、たった二人の、か、家族なんだから、そういうものだ。」
     リサは彼らの家に呼びつけられた仕立て屋のメジャーをウエストに巻かれながら、ぶつぶつ言っているピアソンの顔を見遣ると、いかにも承知している風、というにはぼんやりとした、しかし彼好みではある、従順なぐらいの、柔らかい笑い方をする。

     リサは自分に「本当の家族」がいたことを覚えており、さらにピアソンは彼女を自分と同じ――つまり、親の顔を知らない上、そもそも家族らしいものの形も知らない天性の孤児と思い込んでいるらしいことを察してはいたものの、彼に向かって「あなたとは違うわ」などという言葉を投げつけてやろうとは思わなかった。それには勿論、ピアソンの手引きによって自分の生活が保障されていること、そして彼の悪事に自分が加担させられており、この男に傷がつけば自分だって無傷ではいられないことを承知していたから、とも言える。
     また、リサは彼をある程度好ましく思っていた、というのも要因としてあった。穏やかな性格とはとても言えない癇癪持ちのこの男は、機嫌が悪ければリサに当たり散らして手酷く虐げ、服に隠れて見えない腹や背に痣を作ることはあったが、それは、彼女が病院で受ける電気椅子の虐待――それ以上に、誰も自分のことを気に掛けていないということが――ただ一人リサの手を握ってくれた暖かな天使の手さえ、彼女を冷たい、さながら監獄のようなあの病院に置き去りにして遠くに行ってしまって、彼女を気に掛ける人など、この世には全くいないということをあからさまに、少しも隠そうともしない、耐えがたい孤独の苦痛――と比べれば、いくらか我慢のできるものだった。
     リサは、ピアソンが纏うどぶ板を踏み抜いたような体臭や、リサを鏡の前に座らせ、髪を櫛で梳かして色々な髪型を作ってみた(この男はその身なりや顔に見合わず案外器用だ)かと思うと、「女の髪は金になる」と言って、髪を上げればそこだけ短いことが目立たなくなるような部分を選んで、リサに許しを請いもしないで髪を切り取っていくさもしさを憎んでいるし、彼の引き連れている手下連中の垢じみた顔や下品極まる振る舞いにも辟易している。しかし、病院から逃げ出してきたあのとき、彼が自分の手を取り、病院に送り返さずに、自分の手元に置いて、それから何くれとなく「助けて」くれたことには感謝していた。
     この男は、間違っても善人ではなく、全く救いではないし、それどころか、何かと「女らしいこと」を求められるこの暮らしはリサにとって、いいことよりも嫌なことを数えるほうが余程多いけれども、あくまで「親」を自称し、リサの腕を掴んで歩き、リサが痛いと言って「離して」と頼んだって、その手を決して緩めもせず、少しも離そうとしないこの男の態度に、どこか救われている部分があることは、リサも否めなかった。この人は、「リサのため」と言っても絶対に離れようとしないだろう。そこは、ごめんねと言ったきりいなくなったお母さんとも、お父さんとも、先生とも違うところだった。この男はあの人たちと違って、リサのためにリサを離したり、まして逃がしたりすることなんて、きっと、たぶん、絶対にしない。

    「お、お前、へらへらしやがって……わ、わかったのか? 本当に?」
     リサが少しぼんやりとしていることを見咎めてか、不機嫌に低くなったピアソンの問いかけに、リサはいくらか鷹揚な、ゆったりとして上品な仕草で頷いて見せた。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE背景推理や荘園の記憶がない弁護士ライリーさんがエミリー先生の顔を見て凄い引っかかるものを覚えたのでナンパしてみたらうまくいったのでプロポーズまで漕ぎ付けるような仲になったんだけど……という二次(現パロ弁医)
    restoring the balance(弁護士と医師)※現パロ 世間における一般的な理解として、事前の内諾があることを前提にした上でも、「プロポーズ」という段取りには何らかのサプライズ性を求められていることは、ライリーも承知していることだった。彼は弁護士という所謂文系専門職の筆頭のような職業に就いていることを差し引いた上でも、それまでの人生で他人から言い寄られることがなく、また、それを特別に求めたり良しとしたりした経験を持たなかったが、そういった個人的な人生経験の乏しさは兎も角、彼はそのあたりの機微にも抜かりのない性質である――つまり、そもそも万事において計画を怠らない性質である。
     その上で、彼は彼の婚約者に対して、プロポーズの段取りについても具体的な相談を付けていた。ある程度のサプライズを求められる事柄において、「サプライズ」というからには、サプライズを受ける相手である当の本人に対して内諾を取っておくのは兎も角、段取りについての具体的な相談を持ちかけるということはあまり望ましくないとはいえ、実のところ、彼女がどういったものを好むのかを今一つ理解しきれておらず、自分自身もこういった趣向にしたいという希望を持たないライリーにとってそれは重要な段取りであり、その日も互いに暇とはいえないスケジュールを縫い合わせるようにして、個人経営のレストランの薄暗い店内で待ち合わせ、そこで段取りについてひとつひとつ提案していたかと思うと、途中でふと言葉を止め、「待て、もっとロマンチックにできるぞ……」と計画案を前に独りごちるライリー相手に、クリームパスタをフォークで巻き取っていた彼女は、見るものに知的な印象を与える目尻を緩め、呆れたような気安い笑い方をしてそれを窘めてから、考え事を止めたライリーが彼女の顔をじっと見つめていることに気付くと、自分のした物言いに「ロマンチストな」彼が傷付いたと感じたのか、少し慌てる風に言い繕う。いかにも自然体なその振る舞いに、彼は鼻からふっと息を漏らして自然に零れた微笑みを装いつつ、「君の笑顔に見惚れていた」といういかにもな台詞をさらっと適当に言ってのける。雰囲気を重んじている風に薄暗いレストランの中、シミ一つないクロスを敷かれた手狭なテーブル――デキャンタとグラス、それに二人分の料理皿を置くと手狭になる程のサイズ――の中央に置かれている雰囲気づくりの蝋燭の光に照らされている彼女は今更驚いた風に目を丸くすると、柳眉
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    @t_utumiiiii

    DOODLE弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
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