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    @t_utumiiiii

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    💎6巻以降 ラピフォス(ラピスとフォス)

    unmei(ラピスとフォス) 「運命」という言葉をラピスラズリが使った。正確には、「運命という言葉を使うのは好きではないんだ。」と言った。
    「それは、自分たちの力を超えた“何か”の存在を感じさせるだろう。知覚できないものの存在を仮定することはひとつの思考の技術だが、そこに信を置きすぎると、視野は瞬く間に狭くなる。」
    「はぁ……」
     浜辺で膝を抱えて座り込むフォスフォフィライトは頭の出来が良い方ではない。西の浅瀬の色をした頭が、いかにも注意力散漫に揺れる――あれ、この色を見るのは随分久し振りだ。そもそも僕はこうなるまで、ラピスの顔を忘れていた。僕の知る限りで、僕は、他人の身体の上についているラピスの顔を見たことがない――つまり、そういうことだ。また疲れる夢を見ているらしい。
     目の前にいつもの黒い制服を着て立っているラピスは、ゴースト(とカンゴーム。その時はまだその名前じゃなかったけれど)の相棒だった。すごく頭が良かった、らしい。彼の天才を借りることになってから、僕は物事が気持ち悪いほどよく見えるようになった。逆にこうなるまで、自分はあんなに大雑把に物事を見ていたのかと、愕然としたくなるぐらい。
     その一方で、段々と、僕は、僕が「どうしたい」のかを、あまり考えなくなったような……いや、そうじゃない。むかしの僕は、あまりにも物事が見えていなさ過ぎた。事実は得られる情報によって姿を変える。僕は正しい。しかし今、それはあまり関係ない。だって夢だ。正しいもクソもない。
     白い浜に、透き通った浅瀬の波が寄せては返している。ざざん、ざざん、ざぶざぶ、それだけ。水平線の向こうは雲一つ無い青空だ。ラピスはまるでそれを見上げるように顎を上げ、腰まである長い髪を掻き上げながら「だが僕は、君の頭になったことには、らしからぬ偶然を感じているんだ。」と続けている。
    「無論、月からの介入があったと考える方が自然だろう。作為があることを運命というには滑稽だ。これはあくまで、僕の視点からはそのように感じられるというだけのことなんだけどね。」
    「ほへぇ……」
     早速話に退屈し始めている(これほど自分の考えが濁っていてよくわからないように感じるのは久し振りだった。知らない単語が多すぎる。)フォスが、手近に拾った貝殻の切れ端で砂の上に線を描き始める。ラピスの怜悧で切れ長の眼差しはそれを見咎めるでもなく、むしろ、その児戯めいた振る舞いに寛大な微笑みを浮かべながら、白粉を塗りつけることによって――ここでは誰もが同じことをしている――飽くまでも白く、すべらかな手を伸ばし、薄荷色に光るフォスの真ん中分けの髪を撫でた。
     そんな風に気安く素手で触れられたのに僕が割れないのは、ここが夢だからだ。ついでにいうと、ラピスの置かれている状況は貝のアゲートと同じで、僕がだれかから借りている一部、実質僕の一部ってことで、言ってしまえば(ゴーストとカンゴームには悪いけど)、インクルージョンと同じようなものだから。
     でも、僕はインクルージョンの夢を見たことはない。いや、わかんないや。もしかしたら、見たことがあるのかも? わからない。でもとにかく、インクルージョンと違って、ラピスがラピスの顔をして、僕の知らない僕の声で喋りながらこうやって夢に現れるのは、彼のインクルージョンが見せている夢なのか(じゃあやっぱり、僕も僕のインクルージョンの夢を見てるのかな)、他人の自我を持つインクルージョンは自分のそれと違って、それが混ざってもあくまでも違うってことかな。なんかよくわからなくなってきた……。
    「知りたいだろう?」
     ラピスは、考えがこんがらがっている僕の薄荷色の頭を割らずに、お淑やかな手付きでよしよしと撫でながら(ゴーストやカンゴームにもこんな風にしたのかな。起きたらカンゴームにやってやろ。)、聞いていると少しぽーっとなるような、それでいて、何だか気分が張り詰めるような、穏やかでいて挑んでくるような、不思議な声で囁いた。
    「それを知ったら、全てがひっくり返ってしまうかもしれない。みんながやさしく、時折喪うかなしみを負いながらも、永く穏やかに続けていた暮らしすべてがひっくり返って、全部台無しになってしまうのだとしても、知りたいだろう?」
     この世界がどう成り立ったのか。僕らはどうしてここで、永い日々を繰り返しているのか。僕らはそもそも何者なのか。
     重ねられる問いかけにフォスはぴんとこない様子で、しばらく薄荷色の頭をきらきらとさせながら首を傾いでいたものの、紺青の眼差しがうっとり笑うように細められながら、「月人の目的は何なのか、と言い換えれば響くかな?」と続いたそれに彼は思わず顔を上げ、つぶらなばかりの浅瀬の色をした瞳で、美しく智慧のある紺青の眼差しを、真っ直ぐに見つめ返すことになる。(底が見えないな)と思う。月が明るい夜みたい。
    「知りたい」
     しかし、見返さないことには始まらない。フォスはラピスの顔を見上げながら、はっきり答えた。
    「先生は……あの人は、何かを隠している。僕は、あの人が隠している本当のことを知って、みんなを助けるんだ」
     湿った海の気配がある風が草原まで吹き抜ける音に混ざって、ラピスラズリの「ふふふ」という笑い声が聞こえる。
    「知らないほうがいいことだってあると思うよ、フォスフォフィライト。」
     ラピスは試すようにそう言うと、先刻告げた言葉と同じことを続けながら、フォスの髪を象る、葉のような形に整えられた薄荷色の輪郭を、やさしく指先でなぞる。
    「何も知らないから、やさしくいられることだってあるんだ。優しくも、易しくもね。」
    「でも、そんなのおかしいだろう!」
     話を遮って投げ込まれたフォスの小さな叫びに、彼は気を悪くするでもなく口を噤むと、口元を柔く引き上げながら、薄く透き通る緑の髪を触っていた手をしずしずと引っ込めると、話の順番を譲るようにフォスを見る。
    「……し、しらないままじゃ、このままじゃ、誰も、月から帰ってこない。それにシンシャも、夜に閉じ込められたままだ。約束したんだ。君に出来ることを見つけるって。だから、今のままじゃだめだ」
     静かに向けられた怜悧な眼差しに気圧されるように拙く切り出しながらも、しかしそう言い切ったフォスを称賛するように、彼の言葉を聞き届けていたラピスは、ほうとひとつ溜息を吐くと、「他のみんなを、巻き込んだとしても?」と、再び試すような口振りで問いかける。
    「僕がみんなを救うんだ。」
     問いかけられたフォスは、真面目くさったように眉間に皺を寄せて答える。その可愛らしいほどの、コミカルですらある物言いにラピスは軽やかに笑って返す。
    「知らないほうが救われることだって、あるんじゃないかな。」
    「そんなわけがない!」
     そうやって、何でもないように笑われたことが気に障った、とも言えるのかもしれない。弾けるように強く言い切ったフォスに、ラピスはまるで応じるように黙り込むと、砂浜の上に立ち尽くしながら、少し俯く。彼が俯くと、風に煽られて前に垂れてきていた鮮やかな紺青の長い髪が、彼の表情を遮って、何も見えなくなる。どこまでいっても月の明るい夜の色。
     咄嗟に強い語気で言い切った方のフォスの方は、今のこれがすべて夢の中であることも忘れつつあった。そして、相対するラピスが気を悪くしたのではないかというところに思い至ると、今更気まずげに彼の真っ直ぐに長い髪をじろじろ眺めた後、「えーと、その、ラピス?」と遠慮がちに呼びかけながら、簾のように彼の顔を遮っているその髪に触れて、彼がどんな表情をしているか覗くべきか触れないでおくべきか、そういえば彼は僕の内側にいるのだから、ここでこんな言い合って、あんまり気まずい関係になるのも嫌だし、ちょっとここは、どうにかしたほうがいいかな。いや、でもこれ夢だし。ゴーストとカンゴームとは違って、僕はラピスと話したりとかないし。別にいいのかな。
     フォスがそのように諸々を考え、これからのことを少し面倒に思い患い始めたところで、ラピスは「素晴らしい!」と零しながら顔を上げた。その髪の下では、ひどく満足げな微笑みを浮かべていた。
    「君は、僕が知ることのできなかったことを知るだろうし、あの易しい暮らしに少なからず泥んでいた僕にはできなかったことをやるだろう。」
     紺青の長髪を掻き上げながらそう続ける彼が、どうやら満足気にしているのなら、まあいいか、と、少しホッとしたフォスが、その長髪が陽の光を浴びて、浅瀬の海よりも濃い色の青できらめくのを眺めていると、ラピスが親しげに、不思議と気安い仕草で両手を伸ばしてきた。
     伸ばされてきた彼の手は、西の浅瀬の色をした髪と、可愛らしく円らな瞳を持っていた白皙の頬を撫で、ほっそりと整った顎のラインを両手でなぞり、首の割れ目に指を入れると、パキパキと細やかなひび割れの音を立てながら、浅瀬の色の頭をそっくり取り外すと、白粉を塗っていない内側が露わになり、薄荷色の内側を光が混乱するように乱反射する断面を、愛しげといってもいい仕草の両手で包み、瑠璃色の硬いくちびるをコツンとつける仕草さえした。
    「フォス、君なら、停滞はしているが穏やかには違いない日々を理由にして、ここに踏みとどまるようなことは、決してしない……だから、僕の天才を引き継ぐ相手が君で、良かったと思う。〝運命〟なんてものを感じる程にはね。」
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    Replies from the creator

    @t_utumiiiii

    DOODLE弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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