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    hanakagari_km

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    hanakagari_km

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    ヒュ・エル・フレン フレンは可憐な少女だった。道行けば誰もが振り返る、そんな美人ではないが、一度目にしたのなら彼女の儚く可憐な様子を記憶するだろう。
     淡い翠の髪は肩から胸元にかけて緩く回り、その細糸だけで繭を作っているようにも見える。
     制服を腰裏で大きく結上げ、蝶の羽のような遊び紐は、フレンの歩みに合わせてふわふわと揺れる。
     その様子を見るだけでも癒しだと、教団に所属する騎士は言った。
     華奢な体に幼い顔立ち。桃色の頬を朱に染めてみたい。小さな唇が紡ぐ天使のよう声で名を呼ばれたいと夢想する者のなんと多い事か。
     男は優しくされると気があるのではと欲を抱き、女は甘い声音に媚を決めつけ軽視を抱くのだが、彼女の兄は、そのどちらもを蹴散らした。ある意味、そういった不埒な心を持たぬ者の接近しか許容していなかった。
     兄、セテスは教団の中枢人物であるから、その時間の多くを仕事に割いているのだが、ガルグ=マクが誇る一〇〇〇年の歴史、その壁、天井、果ては床にすら目を持つのではと疑うほど、フレンのことに関しては耳ざとかった。包丁で怪我をしただけでも血相を変えて全力競歩してくる。稀にみるシスコンである。
     そのシスコンを全力でお断りするのがフレンだ。年ごろの女には兄に知られたくないことが、山と言わず星の数ほどあるのだから。
    「確かに、困ったことがあれば相談してとは言ったけれど」
    「お兄さまから逃げおおせる妙策など、ご存じありませんこと?」
     エーデルガルトは喜々と身を乗り出すフレンを前に、困っていた。
     自分より年上の従者をちらりと見れば、彼は口を出す気がないらしく、だが確実に面白そうなことの結末を知りたがっている。
    「ヒューベルト、答えたそうね」
     一人で楽しそうにする様子が気に食わないエーデルガルトは、ヒューベルトに回答権を放り投げた。
    「おや、私ですか? 貴方様がお望みとあればセテス殿に仕掛けるのもやぶさかではありませんが」
    「仕掛けるとは、具体的にどのようなことですの」
     案があるならどんなものにでも縋りたいと、そういった声の響きだった。
     エーデルガルトもきょうだいはいるが、行動に制限をかられたことはない。
     セテスの兄として、年上の者として、守るべき相手のすべてを把握しておきたい気持ちも理解できる。同時に好きなことを好きな時にしたいとも思う。後者は四六時中熱い視線で観察してくる、後方のヒューベルトが原因だ。
     もはや慣れて、彼の視線は空気の一部となっているが、まだ幼い時には煩わしく感じたものである。
    「まずはセテス殿の飲み物にこちらを仕込んではどうでしょう」
     懐から取り出した小袋に入っているのは、強力な睡眠剤だ。スプーン一杯で魔獣が三日は寝込む代物である。
     フレンは翠の瞳を煌めかせ、ヒューベルトが取り出した小袋を見つめた。
    「それは何ですの?」
    「睡眠薬です。スプーン一杯で快眠が約束される代物ですな」
    「眠るお薬。ですが、それではお兄さまから逃げおおせることが」
     できないのではないかと不安気にヒューベルトを見たフレンに、長身の彼は殊更ゆっくり首を振る。
    「一杯で快眠なのですから、二三杯、色を足して五杯仕込めば、少しばかり寝すぎるやもしれません」
     少しではなく、二度と目覚めぬ危険性すら孕んでいる。
     慎重なセテスが、ヒューベルトの望む量を含有したモノを口にするとは思えない。だがその差出人が、盲目的に愛する妹からならば、ためらわず飲み込む様子も想像できる。
     おずおずとフレンが差し出す手のひらに、ヒューベルトは小袋を置いた。
    「これで、お兄さまを」
    「ええ、楽にしてあげてください」
    「ありがとうございます。わたくし、さっそく試してみますわ!」
    「決行日は是非、私にも連絡を」
     どうして? と澄んだ瞳が訊ねるので、ヒューベルトが困った顔を作ってみせた。
    「効果のほどを知りたいのです。忙しいセテス殿に時間を割いてまで訊ねるのは忍びありませんので」
     どの口が忍びないと言うのか。エーデルガルトは小袋に夢中になっているフレンを確認し、頭上の愉快犯を睨んだ。
     犯人は主の視線を浴びて、慇懃無礼と礼を執る。
     この男、楽しんでいると判断したエーデルガルトの推理は間違っていない。
    「エーデルガルト様も、ご入用ですかな」
     先生にどうですと出される二つ目の小袋。エーデルガルトはヒューベルトの手のひらから、それを持ち上げ握った。
    「使わせてもらうわ。言うことをきかない相手に」
    「それはそれは。困った相手ですな」
    「ええ、本当に。厄介よ」
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