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    傘っこの猫かわいいよね
    完成したのは支部→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18997511

    #マイエマ卍

    梵天マイキーと猫のエマクリスマス寒波の影響で、東京も雪がちらついていた。外は色とりどりに彩られて、恋人たちや家族がはしゃいでいるのが見なくてもわかる。
    そんな中、不健康な顔をした白髪の青年が1人で歩いていた。関東一帯の裏社会を牛耳る反社会組織梵天の頭、佐野万次郎だ。
    すれ違う人々はそんな脅威のトップの顔なんて知らないため気にもとめない。
    キラキラと輝く世界で、彼だけがモノクロだった。
    雪なんて降らなければいい。雪が降ると思い出してしまうから。
    数年前、そろそろ10年にもなろうか。2月22日、佐野万次郎は最愛の1人をその背中で失った。そして、もう1人の家族も。その日の夜は雪が降り、兄になれたはずの彼から溢れる鮮血の中に溶けていく様をよく覚えている。失ったものを思い出すのは、どうしようもなく哀しい。
    さて、裏社会のトップが1人で街を出歩くなんて有り得ないはずなのに、どうして彼は1人で歩いているのだろうか。答えは簡単、出てきたから。世間様はクリスマスだとはしゃぐ中、彼らはせっせと働いていた。薬の取引や、地上げなどなどの交渉の場に彼も連れて行かれたのだが、出番がなかったため暇だったのだ。だから周りの目を盗んで1人飛び出してきた。
    けれど、イルミネーションは闇の中で生きる彼にとってあまりにも眩しすぎた。その明るさに眩暈を覚え、路地裏に逃げ込んだ。
    「さむ……」
    北風が吹いて首元を撫でる。防寒着がコートだけなのだから寒いはずだ。ポケットに手を入れて、スマホを取り出す。迎えを呼んでもう帰ろう。自分の居場所はここにはない。
    すると、足元で何かが動いた。
    ゴミだろうかと薄暗い路地で目を凝らすと、それは1匹の猫だった。茶色っぽい長い毛並みの猫が彼の脚に擦り寄っていたのだ。
    「何やってんの」
    問いかけるとこちらを見上げてキョトンとした顔で小首を傾げる。かと思えばニッと笑ってにゃんと一声鳴くのだ。
    「離れろ」
    「にゃー」
    少し蹴るような仕草を見せても、簡単に避けてすぐ擦り寄ってくる。
    別に小汚い野良猫1匹死んだところで誰かが悲しむわけでも、自分に不利益があるわけでもないのに、なぜかこの猫から目が離せない。
    「……お前、家は?家族いんだろ」
    血の繋がりはなくとも、一緒に生きていくと決めた家族がお前にはいるはずだ。1人、いや1匹で生きていけるほど世界は優しくない。そう聞くと猫はまたキョトンとしてにゃーんと鳴く。やはり人の言葉はわからないかと万次郎は乾いた笑いをこぼした。
    スマホが通知を告げる。三途だ。交渉が無事に終わったため迎えに来るらしい。もう少しわかりやすいところで待つために路地裏から出ようと明るい方に一歩踏み出す。
    「にゃん」
    路地裏で猫が鳴く。目だけ振り返ると猫は心配そうにこちらを見上げている。
    「……なんだよ」
    猫はそろりと万次郎の足に近づいて、擦り寄る。にゃんにゃんと小さく鳴くその猫が、なぜか泣いているように見えた。
    「マイキー、車持ってきましたよ」
    やってきた三途の手には、降りた時に車に置いてきてしまった白いマフラー。新しい人間の登場に少し身構えた猫の瞳がそのマフラーを見てキラめき、一目散に三途の胸、いやそのマフラーへ飛び込んだ。
    「おい!?なんだおま、汚れんだろ!」
    三途は大きな声で怒鳴るが、マフラーが破けるのが怖くて猫を降り落とせない。それをいいことに猫は器用に三途の腕の中に落ち着いた。
    「マイキー悪い。これクリーニングに出すし、コイツは処分、」
    「猫って何食うんだろうな。たい焼き?」
    「は?」
    三途の腕の中で丸くなっている猫が耳をピンとさせる。それを覗き込む万次郎がふわりと微笑う。その姿を見た三途は驚いて動きを止めた。
    「お前、俺の家族になれ」
    「にゃん!」
    マフラーから離れようとしない薄汚れた猫を抱いて、三途が乗ってきた車に乗り込んだ。
    連れて行った動物病院での検査結果は至って良好。性別はメスで、まだまだ子猫だということがわかった。
    猫は水を嫌がるものだと思っていたが、この猫は気持ちよさそうにしていた。洗った猫は茶色ではなく、金色っぽい毛並みであることも発覚した。シャンプーのせいか甘くて優しいいい香りがする。
    万次郎の部屋は広いがエアコンのおかげでどこにいても暖かい。はずなのに、どうしてか寒く感じてしまう。これはあの頃からずっとだ。マフラーを巻いてくれる彼女がいなくなってから、ずっと。
    マフラーの巻き方は、一番上の兄貴が教えてくれた。結びやすくて解けにくい巻き方。それを最愛に教えたのは自分だったけれど、いつの頃からか最愛が自分に結んでくれるようになっていた。巻くときに一瞬触れる冷たい指先、巻き終えて満足げに笑うその顔、お揃いのマフラーその全てがどうしようもなく好きだった。
    あぁ、やはり冬は嫌いだ。こうして同じ地獄(幸福)を思い出してしまうから。
    ソファに座って額を押さえる。
    すると、部屋を回っていた猫が寄ってきて万次郎の足元に近づいてきて静かに鳴く。
    「よく鳴くなお前」
    少し不機嫌そうな顔をして、また鳴く。猫はこんなに鳴く動物だっただろうか。
    そうだ、お前お前と呼ぶのも微妙だし名前をつけよう。
    「お前、名前は?」
    色々候補を出すがツンとして反応を示さない。何がいいんだよコイツは。
    名前からあだ名を考えるのは得意だったが、名前をつけるのは得意じゃないんだ。そういうのが得意なのは最愛の彼女。
    「……えま」
    「にゃんっ!」
    「え?」
    ツンとしていた猫が嬉しそうに返事をした。何かの間違いかと思ってもう一度呼んでみると、猫は万次郎の膝の上に飛び乗って前脚を万次郎の胸に置いた。
    「エマなの?お前」
    「にゃーん」
    「ハハッマジか。エマ、エマ……あははっ」
    もう一度最愛の名前を呼べることに喜べばいいのか、呼んでいたはずの彼女はもう居ないことを悲しめばいいのかわからず、大粒の涙をボロボロ零しながら笑った。猫は何やら慌てて万次郎の頬に前脚を伸ばし、近づいて、こぼれた涙をなめとった。
    「なに、慰めてくれんの」
    心配そうな顔で万次郎の瞳を覗き込む猫を抱きしめて万次郎は微笑った。
    「エマ、俺と家族になろう」
    その言葉にエマはにゃんと返事をした。
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