38.4℃+36.6℃=37.3℃「はい、目ぇ瞑ってくださ〜い」
「……」
もあもあ湯気の立つ、男ふたりには若干狭いユニットバスにジュンの優しい声が反響する。2週間ぶりに訪れた穏やかな時間と真面なぬくもりが眠気を誘い、ん……だの、あいあい……だのと返事をするのも億劫だった。けれど、そのことにブツブツと何かを言われるでもなく、ぐらりと左に傾いた俺の顔面に、とろっとしたオイルが塗りたくられていく。手のひらのうちで温められたそれは、オフィスの冷房で冷え切っていた俺の頬をじんわり蕩かし、肌を滑るジュンの手も相まってホットタオルのような心地よさだ。目元と口元、額の生え際から顎先までを丁寧に辿った指先は、綺麗に短く切り揃えられた爪先で耳の窪みや裏側をくるくる擽ぐる。動かせない唇の代わりに、ふふふっ……と小さく鼻で笑うと、ほの明るい瞼の向こうで蜜色の瞳が柔らかく細まった気がした。
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