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    jbhw_p

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    jbhw_p

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    いつか本にしたいな~……と思っているポメガバパロのジュン茨の冒頭部分です。設定も中身もふわっとしているので雰囲気でお楽しみください。こじらせているジュン→茨の片思いから始まるドタバタラブコメディ(予定)です。

    #ジュン茨
    junThorn

    ふわふわたいむ! 必死に動かした足が縺れそうになる。それでもオレは同僚からのたった一言のメッセージが届けられた端末だけを握りしめて、夜の街を駆けていた。
     今日は久しぶりのオフだったし、その間にやりたいことが溜まっていたから一日中、寮に引き篭もっていた。積み本になっていた漫画を読んだり、共有スペースで開催されていたゲーム大会に顔を出してみたり……我ながら充実した一日だったと思う。あとはぎっちぎちに詰め込まれた明日からのスケジュールを再確認して眠るだけ……そう思ってベッドへ潜り込もうとしたところで、私用のスマートフォンが短く震えた。SNSの通知が届いた証だ。テーブルに伏せたままだった端末を拾い上げ、画面を点灯させる。
    「茨……?」
     差出人はユニットのメンバー兼プロデューサーである茨からだった。改めて画面に表示された時刻を見るとすでに日付を変わりそうになっているところだし、そもそも茨からこのように私用の端末へメッセージを送ってくることは滅多にないのに。表示された画面には新着のメッセージが受信されたことを知らせるポップアップ。画面のロックを解除して該当のメッセージを表示させた。
     それを目にした瞬間、居ても立っても居られなくなった。思うが早いか、オレは起き上がって軽く身支度を済ませる。そのまま外へ飛び出していこうとすると、サクラくんがちょうど仕事から戻ってきたところだった。勢いあまってぶつかりそうになるけど、どこか慣れた様子でそれを避けてくれる。
    「えっ、ちょっとジュンはん!こないな夜中にどこ行くん?」
    「すんませんサクラくん、今日はもう戻らないと思うんで先に寝ててください」
     オレのただならない気配を感じ取ったのだろう、尋ねてくるサクラくんに端的な返事だけをしてそのまま駆けだした。後ろからオレを呼ぶ声がしたけれど、今ばかりは立ち止まってなどいられなかった。
     茨、茨。頭の中がたったひとりでいっぱいになる。ロックを解除して開いた画面に表示された『たすけて』の四文字に、額を嫌な汗が伝っていく。それでも頭の中はどこか冷静で、茨が寮以外に仮宿としているマンションへの道を迷うことなく走っていけた。
    万が一の場合を考慮して預けてもらった鍵でオートロックを解除して、すぐには降りてきそうにないエレベーターを見かねてオレは、すぐ横にある階段を二段飛ばしで駆け上がる。10階、南向きの角部屋。キーを翳すと軽い電子音と共にロックが解除される音が聞こえる。すかさずドアノブに手をかけて扉を開いた。
    「茨!」
     家主の名前を呼んでみるけれど返事はない。玄関の先、居間に電気がついているから茨はそこにいるはずだ。疲れて休んでいるのか、はたまたそれ以外の理由で返事ができない状態にあるのか。後者ではないことを祈りながら、慌てて靴を脱ぎ捨てて家に上がる。
    「茨……?」
     そうっとリビングの扉を開いて中の様子を伺う。室内はしんと静まり返っていて人の気配がなかった。もともと物数が少ない部屋は相変わらず殺風景で生活感がまるでない。茨が寮を出て一人暮らしを始める際に「仕事の合間に寝泊まりするだけの場所にそこまでこだわりを持てる方が不思議です」なんて言っていたのをぼんやりと思い出す。
     って、そんなことはどうでもよくて!
     切羽詰まっているときほど、どうでもいいことばかりを考えてしまうのは、それによって冷静さを取り戻そうとしている証なんだと思う。ぶんぶんと頭を振ってからもう一度部屋の中を見渡した。とりあえず荒らされた形跡はない。家具の位置が大きく変わっているわけでもなければ、なにか物色したような感じでもなかった。
    「……ん?」
     室内を一周していると、寝室への道すがらに茨の服が脱ぎ捨てられているのを見つけた。普段よりも私生活がほんの少しだらしない茨のことではあるが、さすがに服を脱ぎ捨ててそのまま眠ってしまう……ということは考えずらい。場所も寝室の目の前だし、わざわざ部屋の外で服を脱いでからベッドに上がるというのも妙な話だ。
     とりあえず服を拾っておいてやろうと近づく。距離が縮まると、その服の塊がもぞもぞっと動き出して、思わずひぃっと声を上げながらその場で飛び上がってしまった。
    「ななな、なんすか一体……?!なに、が」
     もぞもぞと動き続ける服の塊。その下に隠された得体のしれないものに戦き、暫く身動きが取れなくなってしまう。それでも今この場でオレにできることといったら、その正体を確かめることしかない。それが茨への手掛かりになるかもしれないし。オレはしゃがみこんで、そうっと服を持ち上げる。すると、なにかふわふわとしたものが茨が最後に見たときに着ていたシャツの隙間から見えた。
    「……犬?」
     そう、それは紛れもなく小さな子犬だった。まるくてふわふわしていて、毛色は熟れたての苺のように赤い。服の下から抜け出し四本足でその場に立ちたがると、そいつはじっとオレを見つめた。その瞳に見覚えがある。光が届きにくい海の底のような深い藍色の瞳。世の中すべてを憎んでいるような視線の鋭さ。
    「いばら……?」
     つい、そう呼びかけていた。オレが発した三音にぴくりと反応を示したそいつは、ぐちゃぐちゃになった服の山から抜け出して、オレの膝元へ近づく。そっと頭を撫でてみた。ああ、これにも覚えがある。茨の丸い後頭部。寝ているときにこっそりと髪を撫でたことがある。柔らかくて、なめらかで。あのときのおなじ手触りだった。
    「いやでも、こんなちんちくりんが本当に茨なわけ……っイッテェ!!」
     いくら見た目がちょっと似ているからといって断言するのはどう考えたっておかしな話だ。茨が動物を飼っている話なんて今の今まで一度も聞いたことがなかったけれど、もしかしたらタイミングが掴めずに言い出せなかっただけかもしれない。これが茨本人だなんてそんな非現実的な話がまかり通るわけでもない。そう思って冗談を口にした矢先、頭を撫でていた手に思い切り噛みつかれた。
     まるでこちらの(冗談のつもりだったけど)悪口を理解しているかのようだ。そいつはオレの足元から離れ、服の下に隠れていた茨がプライベートで使用しているスマートフォンを口に咥えて持ってくる。誰かに連絡してほしいのかと暫くその姿を見守ってみたけれど、驚いたことにそいつは自分の前足を使って画面のロックを解除したではないか。
     そのままSNSのアプリを立ち上げ、器用にフリック入力で文字を打ち込み始める。あまりに現実離れした光景にオレは声もなく驚いて、その様子を眺めることしかできなかった。オレのスマートフォンの通知が鳴る。茨とのトーク画面を開くと、ひらがなばかりではあったけれど、メッセージが送られていた。
    『おどろいているところもうしわけないのですが、もとにもどるためにきょうりょくしてもらえませんか』
    「……やっぱり茨なんですか?」
     その場に胡坐を掻いて座り直しながら尋ねると、またもや両手(というかこの場合は前足か)で画面を操作する茨らしき子犬は、文章を打ち込んでいく。普段とは異なる感覚で変換するまでが面倒なのか、全てひらがなだったが『ざんねんながらそうです』とオレの問いに対する答えが返ってきたことで、本当に目の前でふわふわと毛並みを揺らしながらがんばって端末を操作する小動物があの茨であることをあらためて実感した。感覚的には実感させられたという方が強いけど。
    『まったく、じぶんのたいしつにはこまったものです。こればかりはかいぜんするよちがないので、じぶんでこんとろーるするにもげんかいがあることは、じかくしていたつもりだったんですが』
     そう、この世界には性別の枠を超えた第二の性が存在する。それがα(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の三種だ。生まれたときの男女の性別とは別にその三つのどれかに該当し、なかでもΩ(オメガ)と診断された場合は、一定の条件を満たすと身体にある変化が訪れるのだという。それが、目の前ですっかり小動物と化しているこの現象だ。
     おふくろがαだったから(だから親父と番になったわけだし)この現象については別段驚いてはいないけれど。何を隠そう、あの支配者然として男性性を強い売りにしているAdamに所属する茨がΩだなんて、にわかには信じ難かった。
    「茨、前に聞いたときはたしかβだって」
    『そういうことにしておいたほうがいろいろとつごうがいいので。げんにいま、こうしてこまったことになっているわけですし。これをりようしてはんざいにまきこまれるかのうせいだって、なきにしもあらずなんですよ』
    「……犬化することがですかぁ~?」
     正直オレにはΩが人生においてどんな苦労をするのか、完璧に理解することは難しい。オレ自身は何の変哲もないβだし、Ωの体質がどんなものか情報として知ることはできても、当事者にならない限りはその弊害を根本から分かち合うことはできない。
    『いぜんはこのすがたになったあと、なんとかしていえにかえろうとしたら、そのどうちゅうでこどもにつれさられそうになりました』
    「子供?」
    『くびわをしていなかったので、のらいぬだとおもわれたのでしょう。”おかあさーん!このわんちゃん、かってもいい?”と。だっこまでされて、ていこうもできず』
    「……ふ、」
     その光景を想像しては微笑ましくなり思わず頬が緩んでしまうと、助走をつけて飛び上がった茨犬の短い後足がオレの横顔にめりこんだ。でもあの短足とぷにぷにの肉球だ。正直、蚊に刺された程度の威力しかない。しゅたっと華麗に着地を決めた茨犬は怒った様子で文章を打ち込んでいる。
    『わらいごとではありません!つれさられてだれにもれんらくできなくなるかもしれないし、そのあとにもとのすがたにもどったら、じぶんのしょうだいがばれるところだったんですよ!』
    「す、すんません」
     確かにそれはおおごとだ。オレはせめて反省しているふりをしようとその場に正座をし直した。
    「素人知識で申し訳ないんですけど、Ωの人って普段は抑制剤?を飲んでるんですよね。なるべくそのかわいらしい姿にならないために」
    『やっぱりあなたばかにしてますね?でも、そうですよ。じぶんもふだんはしんようのおけるいりょうきかんをじゅしんして、くすりをしょほうしてもらっています』
    「その薬はいまどこに?」
    『……いそがしくて、きらしているのをわすれていて』
    「なるほどねぇ……」
     たしかにここ最近はライブや撮影が絶えず組み込まれていた。おまけに茨はその管理を任されているプロデューサーだ。二足の草鞋はオレが想像する以上に苦労が絶えないのだろう。いくらワーカホリックな茨でも(もしかしたら本人さえ自覚なく)ストレスや疲労が溜まっていく。こいつと一緒にいるようになってまだ二年ほどしか経っていないけど、そういうときの息抜きの仕方なんて知らないように思えた。
    「それで、オレにできることは?」
    『じぶんがつういんしているいりょうきかんのばしょと、かかりつけいのなまえをおおしえするので、くすりをもらってきてください。きょうはもうおそいので、あしたのあさにでも』
    「了解っす」
     それくらいならお安い御用だ。オレが二つ返事で了承すると、茨のしっぽがゆるやかに横に揺れた。かわいい。オレは正座した太腿の上で拳を握りしめて、躊躇いがちに口を開く。
    「茨、あの~……協力する代わりと言っちゃなんですけど、お願いが……」
    『なんです?こんかいはじぶんのふてぎわできょうりょくをようせいしていますからね。あるていどのことならかなえてやりますよ』
     茨がここまで素直に誰かのお願いを聞き入れる姿勢になっているのは珍しい。ここにきてからのやりとりが文章だけだから実際のところはどうかというのはわからないけれど。最初に送られてきた『たすけて』の四文字が、それを物語っているような気がした。そんな茨に自分の欲を押し付けるのは些か憚られる、が。どうしても、我慢できない。
    「……すこしだけいいんです。だっこ、させてもらえませんか」
     先ほどまで機嫌よく揺れていた茨の尻尾の動きがぴたりと止まった。上向きのまま動かないそれにい茨の不機嫌を読みとり「無理にとは、」と言いかけた矢先、茨がぴょんっとオレの膝の上に乗り上げた。そのままそこに座り込む。「好きにしろ」とでも言いたげにふんぞり返る姿は、目の前の愛くるしいそれがやはり茨なのだという実感を強くさせた。
     毛並みに沿ってゆったりと頭を撫でる。茨の反応を見ながら、極力丁寧に触れるようにした。暫くするとぴんと張り詰めていた茨の尻尾から力が抜けていくのがわかった。そこをじっと見つめながら、確かめるように撫でる手の位置を変えていく。
     頭、顎の下、背中。しっぽがゆらゆらと左右に揺れる。やはり頭を撫でられる時が一番、反応がわかりやすかった。いつのまにかオレに全身の力を預けている茨の瞳を見つめる。それがゆるりと細められるのをオレが見逃さなかった。
    「……いい子、いばら」
     気づいた時には声に出していた。いつも飼い犬に接しているのと同じか、それ以上にトーンで発された音は、確実に茨の耳に届いていただろう。ぴん、と耳が立ち上がった次の瞬間、あたりが白煙に包まれた。膝に伸し掛かる体重があきらかに変化し、オレはたまらず後ろに倒れこむ。
    「はっ?え……?なん……、は、……?」
    「……明日の病院は、自分で行きます」
     すっかり元の姿に戻った茨は一糸纏わぬ姿のまま、オレの上に乗り上げていた。それを目にしたオレがそのまま数分気を失うことになったのは、言うまでもない。
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