チューした後。
我に返った暁人がKKに詰め寄る。
「よ、嫁って何!!???」
「そのまんま。お前は俺の嫁」
「い、いや、だから!!!嫁って!?僕、男だけど!!!??」
「それがどうした。俺が決めたからそうなったんだよ」
「KKが決めたって!?まず、僕達友達じゃ…」
「元から娶るつもりだった」
「………僕、7歳ぐらいだったよね」
「おう」
「…………ショタコン?」
「俺からすれば今も昔も変わんねぇよ。俺、神だし」
「……………かみ」
「そう。雨を司る龍神。龍神ぐれぇなら聞いた事あんだろ?」
「……」
「ほれ。ウロコ」
KKが腕を捲ると、手首までウロコが表れる。暁人はそれをジッ…と見詰めたあと、頭を抱えた。
「…………ごめん、キャパオーバー。ちょっと待って」
「時間はたっぷりあるしな。落ち着いて考えろ」
「うん…」
KKは注いだビールを飲みながら笑う。
暁人は分からない事ばかりで混乱しかない。あーでもないこーでもない。と考え、KKを見やる。
あの時と変わらぬ風貌に、確かに人間ではないと言わざるおえない。歳を取らなさすぎる。
それはいいとして。いや、全く良くないのだが。それよりも『嫁』と言われたことが、暁人の頭の中を占めていた。
だって、そもそも自分は男だし。誰かに嫁ぐことなど考えたことも無かった。まだ結婚なんて思ってもみなかった。
「…KK」
「ん?」
この、柔らかい表情を向けてくる男に嫁ぐかもしれない事実が、ちょっといいかな…なんて思うのは、きっと、ずっと会いたいと思っていたから。その気持ちが、混乱して少しだけ違う気持ちに転換しただけ。そうだ、きっとそうなのだ。
そう暁人は結論付けるが、そんな訳あるか。と彼の友人なら言ってくれるだろう。今は居ないが。
「僕、KKの事、なんにも知らないよ」
「……今から知ってけばいいだろ」
「う〜ん…それから決めてもいいの?」
「……決めてくれんのか?」
「え?」
「え?」
それぞれの驚きに顔を見合わせる二人。
「良かったら、俺の嫁に来てくれんのか」
「…………」
「おい、暁人」
「………別に、いいよ」
少し恥ずかしそうに、そっぽを向きながら暁人は呟いた。それに、KKは思わず彼を抱きしめた。
「わ!??」
「絶対惚れさすからな!!」
「うぇ!?え、ちょっと降ろしてよ!」
「少しくらい良いだろ。前もやってやったろ?」
「それ、いつの話だと思ってんの!?」
既に恋人のようにはしゃぐふたり。神の御前で愛を誓い合う日は遠くない。
というか、暁人は気付いているのだろうか。
今、二人がいる場所が居酒屋では無いことに。
ぽっかりと夜空に浮かぶまん丸の月。舞い散る荘厳な枝垂れ桜。見渡す限りの湖面。そこにポツンと佇む木造の日本家屋。遠くには、真っ赤な鳥居がひとつ。
俗世と切り離されたそこは何処までも神秘的で。
人はそこを神域と呼び、そして、神域に連れ去れることを、神隠しと呼ぶのだが。
「……暁人が良い子で良かった」
神は笑う。
「ん?KK、何か言った?」
「何も?それより、まだ飲むだろ?」
「うん!KKの奢りね!」
「は!?」
約束された悲願が叶う時を思って。
暁人くんが選択肢を間違えると、BADEND一直線。
居酒屋で飲んでたら神隠しにあって、一生外に出れないってことが起こっていた未来。