トーヤの背中を追い、たどり着いたのは廃ビルからほど近くの地下シェルター。
トーヤはテキパキと入口の虹彩認証、指紋認証を行ってコードを打ち込み、アキトをシェルターへと招き入れてくれた。正直無表情で何を考えているのかがさっぱり分からないがこうして何かと助けてくれる辺り根はいい人なのだろう。そう思う。
「しばらくは俺の部屋にいるのがいいだろう。ついて来てくれ。」
そうアキトに告げ先を歩き出すトーヤ。もとよりトーヤについて行くより他にあての無いアキトは言われた通りに従う。
シェルターの中は裸電球がポツリポツリと点っており、薄暗くはあるが想像していたよりは遥かに広い。コツンコツンと2人分の足音が反響してシェルター内に響いた。
そうして辿り着いた部屋は、持ち主の性格を反映したものか余計なものはほとんどなく、綺麗に片付けられていて少し殺風景な印象をアキトは持つ。
「持ち物はひとまずこの辺りにでも置いてくれ。」
そう言われトーヤを振り返るとトーヤはいつの間にかガスマスクを外して、アキトが初めて抱いた印象通りの整った顔を晒し出していた。
やっぱきれーな顔してんな、こいつ。そんなことを思いながら言われた通りにものを置かせてもらう。と言っても、ほぼ身一つで来たアキトの持ち物は、壊れかけの拳銃と常に携行しているナイフ、そしてさっきトーヤがくれたガスマスク、それだけだ。
「とりあえず、飯にでもしよう。アキトもそれでいいか?」
「オレも食っていいのか?」
「勿論だ。終わったらまたやつらを狩りに行くから、付いてくる気なら今のうちに食べておいてくれ。」
そう言ってトーヤがレトルトらしきパウチを差し出してくる。この状況下においては地上は殆ど鋼鉄の人形共に制圧されており、食事はもっぱら地下で生産された合成食料である。差し出されたそれはどうやらスープのようで、ありがたく頂くことにして、湯煎しておいてくれたのか温かいそれを啜る。
「…!これ、美味いな。」
「だろう?」
スラム街で普段食べていたものよりも断然美味い。アキトが思わずこぼした感想に、自分が作ったわけでもないだろうに何故か得意げな笑みを浮かべて同じものを食べているトーヤが答える。
「ここのレトルトスープはとても美味しいんだ。何せ、"本物"だからな。それに、栄養のバランスなどもきっちりと考えられている。手早く何かを食べたい時にはピッタリだ。」
「な、なんかよくわかんねぇけど…すげぇんだな。」
「あぁ。ところでアキトの装備のことだが、しばらくは俺の予備のものでもいいだろうか。」
「そこまでしてもらうつもりはなかったんだが…本当にいいのか?」
「あぁ。というかそんな格好してたらすぐに死ぬぞ。きちんとした装備は今は時間が無いから後にするが、それにしたって今の格好ではさすがにダメだ。銃もとりあえずは予備のものを渡しておくからそれを使え。使い方は知っているんだろう?」
「そりゃあ、さすがにな。一応今までも使ってきたし。」
「なら決まりだ。食べ終わったらそこに出しておくからそれを着てくれ。」
と言って一足先に食べ終わったらしいトーヤが奥の部屋に向かい、トーヤと色違いの、赤と黒の野戦ブーツと戦闘服を出してきた。素材の問題なのだろうか、見た目の割に軽いそれを見に纏う。蛍光色の赤は夜間の戦闘でもお互いの位置を把握できるようにするためのものなのだろう。人間同士での戦闘なら目立つのは厳禁だろうが、相手は機械だ。赤外線サーモグラフィーで体温を検知して接近するヤツらを相手に、迷彩は通用しない。
全て身につけた後、銃を腰へ、
「着られたか?」
「おう、これでいいんだろ?」