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    フォロワーさんの誕生日にささげる体調不良レイチュリ
    🦚が体調不良(貧血)

    ※作者に医学的な詳しい知識はありません。ご了承の上お読みください。

    この世で最も安全な場所 あ、まずい。そう思ったのは商談の最中だった。相手はとある工場を運営する若社長で、この星での五本指に入るほどの権力者だ。カンパニーに対して友好的ではあるものの虎視眈々とその足元を狙ってる気配もあり、だからこそボロが出ないようにレイシオまで呼び出したのだ。彼であれば、技術的な会話でも引けを取ることはないだろうから。
     けれどボロを出しそうなのはアベンチュリンの方だった。ぐら、と視界がゆがむ。なんだ、毒か? 薬や毒の類であればそれなりに耐性があるはずで、そもそも同じものを出されているレイシオは何の問題もなさそうに会話を続けている。ではこれは。
    「……? 、その件については、」
     そんなアベンチュリンの様子に、目ざといレイシオは気付いたみたいだった。しかし視線のひとつでこちらの意図は伝わったらしい。耳朶を打つ低い音に集中して、ぎゅう、と手のひらを握りこんだ。レイシオが話している間にどうにかこの気持ち悪さをやり過ごして、正常に会話ができるぐらいにはしておかなければ。ぐらりと揺れた頭に息を細く吐き出して、黒くかすんだ視界は瞬きで追いやって。
    「とても有意義なお話ができました。あのレイシオ教授との会話がこんな形で実現するなんて」
    「こちらこそ。今後ともご贔屓に」
     立ち上がって、また頭が揺れて。それでも顔の皮の厚さだけは折り紙付きである。いつも通りに微笑んでやれば、目の前の彼は何の疑問も持たないようだった。背中を向けて部屋を出て、向かうのは宿泊する予定のホテルだ。そこまで行けばこの虚勢も脱ぎ捨てることができる。大丈夫、まだ、ちゃんと立てる。
    「……少しだけこちらに体重をかけろ」
     しかしそう思っていたのはアベンチュリンだけのようだった。くらりくらり、ふらりふらり。すでにまっすぐ立つこともできなくなっていたらしい身体に、大きな手のひらが触れた。誰に見られても言い訳が聞くように、しかししっかりと支えられている。
    「君がいいなら抱えて歩くが」
    「だ、め」
    「だろうな。……ホテルのロビーを超えるまで、行けるか」
     静かな問いにこくん、と肯定を示して、彼にとってはゆっくり過ぎるくらいの歩幅で目的地を目指す。ホテルはカンパニーの息がかかった場所だ。この星の中で最も安全であると言っても過言ではないはずで、だからそれ以外に立ち止まれる場所なんてない。
     視界が黒に塗りつぶされる。大丈夫、まだ、大丈夫。回された手に少し体重をかけて、ふらつきそうな足元をなんとか押しとどめた。そうすればこちらの状況を察したのか、導くかのように背中が押される。
    「そのまま、まっすぐ」
    「ん、」
    「ゆっくりでいい」
     足元がまるでクッションかスポンジになってしまっているみたいだ。どう頑張っても足をとられてたたらを踏みそうになって、そのたびに彼の手に縋った。導かれるままに進む。これでもし、ホテルではなく別の場所へと導かれていたのなら。それでもレイシオが向かう場所なら、それはきっと安全な場所なのだろう。

     たどり着いた小さな部屋で、問答無用のままベッドに寝かされた。まだ着替えてもいないのに。そんな訴えを口にできる訳もなく、取り繕った顔が全部剥がれ落ちていく。横になったというのにまだ、世界が揺れている感覚がする。
    「少し触れるぞ」
     じん、とその声が響いて、でもうまく理解できなかった。低く響く心地のいい声。それと一緒にあたたかな指が目の下に触れて、少し引っ張られた感覚の後に耳元まで移動していった。チョークを持つ彼の、少し硬い皮膚。それでいてやわらかい手つき。無意識のままにほう、と息を吐き出した。
    「……貧血だな。君、食事は?」
    「たべたら、はく」
    「分かった。まともな食事を最後にしたのがいつかなのは、君が回復してから聞くとしよう」
     なんだそれ、ただの説教の事前報告じゃないか。そう思っている間に足元に枕が入れられて、瞼越しの部屋の明かりが絞られていく。
    「……れいしお、」
    「多少はましになるはずだ。そのまま目を閉じて、寝れそうなら寝てくれてかまわない」
     するり、髪が揺れる感覚に、その原因である彼の手を追いかけた。暗がりの中ではよく見えないから手を伸ばしてみる。嫌がられたら、やめないと。
     しかしレイシオは、手を洗うことすらしていないアベンチュリンに好きなようにさせてくれた。きゅう、と握っても、その指先をつまんでも。暖をとるように抱え込んでも。しまいにはほとんど開いていない瞳の上に、もうひとつの手のひらを置いてくれて。
     目が、顔が、頭があたたかい。揺れていたそれらがましになったのは視界に何も映らなくなったからだろうか。それとも、この温度のおかげだろうか。何も言わない彼の呼吸音とその手つきが優しくて、心地よくて。
    「君の安全は僕が守ろう。安心して眠るといい」
     きっとレイシオは、この言葉がどれだけアベンチュリンを安心させたのかなんて知る由もないのだろう。でも今この星で、いや星系で、もしかしたら宇宙のどこを探してもここ以上に安全な場所はない。そんな馬鹿みたいなことを考えながら、アベンチュリンは忍び寄る睡魔にその身を預けることにした。

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    Replies from the creator

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    DOODLEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【パートナー、ハッピーエンド】

    夢にまで見た終わりの話
    「全然、なんか思っていたのと違うっていうか」
    「……嫌なら言ってくれと再三伝えていたつもりだったんだが。いや……、ようやくそれを僕に言えるようになった、ということか? 君の信頼を得ることができたと喜ぶべきなのか、これは?」
    「あはは、何一人でぶつくさ言っているんだい、君」
     誰のせいだと。多少の苦言も含めてその頬をつついてやれば、くつくつと喉の奥で笑うような音が聞こえた。そしてまるで安心しきった顔でその手に頬を寄せてくる。そこには嫌悪や忌避感は見当たらなくて、柄にもなく息が漏れた。
     つまり彼は、今は別に不快な訳ではないのだろう。ではあれはどういう意味だろうか。既に身体を重ねた回数は両手じゃ足りなくなっていて、というか足の指を足したって足りないだろう。レイシオとて凡人である。好意を寄せる相手に向ける欲だって人並みなのだ。そして彼もそれを拒まなかったし、望んでいるようにも見えて。いや、そういう思い込みこそがよくなかったのだろうか。レイシオが「したい」と言ったそれにただ、彼が否を返せなかっただけだとしたら。
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    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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