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    Sarururu

    @Sarururu00

    FFTとFF16ほかの二次小説書き。こそっとぽいっと時々置きます。
    FFT:ディリータ、オーバル
    FF16:テラディオ、クラジル

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    Sarururu

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    「過去を知らぬ者」の続編。ほぼテランス視点です。
    これもテラディオと言い張らせていただきます…!

    #テラディオ
    #FF16

    続・過去を知らぬ者 ──もう何度目になるのだか。
     扉を勢いよく閉め、テランスは盛大に溜息をついた。あの歴史学者見習いが訪なってくるたびに同じようなことを思う。七……八度目だったか、よくは覚えていないが、扉を閉めた拍子に彼が指を骨折したらしいことは知っている。あちらが悪いのだから、と自分は大して気にも留めなかったのだが、とある声は自分を咎めた。
     その声は今日はまだ聞こえない。気配もない。
     聞きたい、とぼんやり思いながら、テランスは書斎へと向かった。適当に片付けてある書斎の本棚から数冊の冊子を取り出す。内心で暗雲が垂れ込めたが、声が命じるのだから仕方がない。机に置いて、椅子に座る。良質の紙を数枚取り出し、羽根ペンとインクの準備もした。
     冊子──その昔、自らが日記代わりにつけていた備忘録だ──を開き、薄目でその内容を読む。できれば読みたくない本心と、読まなければ書けない現実とがない交ぜになって渦を巻く。今日のうちに書いてしまおうと思っているところまで斜め読みすると、テランスは備忘録を閉じた。
     一度大きく深呼吸する。これも、ひとつの儀式。すると、耳元で囁く声があった。
    <そのように構えずともよいのに>
     笑みを含んだ声と間近に感じる気配に、テランスは肩の力を抜いた。構えますよ、と独り言で応じ、溜息をつく。以前から溜息をついてしまう癖はあったが、独りになってからその回数は増え──、あの歴史学者もどきが来るようになってからは指数級数的に増えた。
    <「資料」は揃っているのだから、好きに書けばよい>
     机に出した冊子が見えぬ力で勝手に動く。パラパラ、と頁は捲られていったが、とある頁で動きは止まった。
     テランスが覗き込むと、その頁には自らの心情と「彼」への思慕の念が縷々綴られていた。若い筆致はほぼ殴り書きで、何処かに書き留めておかなければ溢れ出てしまいそうになっていたからだろう。未だ「彼」と結ばれていなかった、雛の頃の話だ。
     気配が揺らぐ。開いた頁の内容を読んだのか、ふふ、と笑い声が聞こえた。


     初めて、その声を聞いたのはいつのことだったか。

     オリジン崩壊後、テランスは懸命に生きた。
     世は大混乱の真っ只中、キエルを保護するために動いていたテランスは、少女を保護して安全な場所へ送り届けた。直後にオリジンが崩れ落ち、終わりと始まりを知った。自らの最も大切な存在が消えた瞬間だった。膝から力が抜け落ち、ただ茫然としていたのはどれくらいの期間だったのだろう。事情が分からないなりに励まし続けてくれたキエルには感謝の言葉を尽くしきれない。彼女は、自分がぽろりと零してしまった騎士団の名から関係者に連絡を取った。どうやって取ったのかは今も「ヒミツ」と言って教えてくれないが、そうこうするうちに騎士団がテランスの元へやって来て、復帰を要請した。騎士団内も混乱に陥っていて統制が取れない、主だった幹部だけでは足りぬ、あのお方でなければ騎士団は成り立たないが、方向性だけでも固めてくれないか。その懇願にテランスは折れ、はじめはヴァリスゼアの秩序を保つため、そして騎士団解体に至る最後まで付き合った。
     その頃にはテランスの才を認める者も増えた。引き続きヴァリスゼアのために動いてくれないか、そういった声もあったが、それはすべて断った。自分がすべき仕事ではないと思ったからだった。戦後処理は当事者がしなければならない。しかし、そこから先にしゃしゃり出るつもりはなかった。
     カンベルの大学を出て薬学研究に没頭しているキエルに繋ぎをとり、手頃な家を用意してもらった。独りで住まうのに程よい家。完全な隠遁を望んでいたわけでもないから、住みやすい街の端にある邸を彼女は手配してくれた。
     それからは、持ち込まれる困り事に手を貸したりすることもあったが、基本的には緩やかな日々を過ごしている。
     そう、緩やかに。心穏やかに。

     きっかけは、この家に来て数日後のことだった。
     特に使用人を雇わなかったから、食事を作るのも自分の役目となった。少し失敗したかな、と思い、そのうち雇おうと考えながら雉肉を焼いた。
     戦場に在った頃は、食事当番が回ってきたこともある。肉を焼いたことも。だが、それはクリスタルを使っていたから、直火で焼く経験はあるようで、なかった。
     火を熾し、鉄鍋に肉を入れて焦げ目がつくまで強火で焼いた。まあ、これでいいだろう。
     そう思って、近所のパン屋で買ってきたバゲットに挟んで食べようとしたとき。
    <肉が生煮えではないか?>
     声が降ってきた。忘れかけていたけれど、聞いてしまえばぶわりとすべてが蘇るようなその声音に、テランスは辺りを見回した。
     勿論、誰もいなかった。誰も、いない。──それなのに、あの気配があった。
     空耳にしては悪趣味だ、とも思った。その考えを察知したのか、気配が笑う。
     ぼんやり、テランスは声の主の名を呼んだ。

     何故、そんな日々が始まったのかは分からない。「声」も語らない。
     声は、毎日聞こえてくるわけではなかった。気配も然り。
     時折、数言呟いて、時には会話をして、一言だけのこともあった。気紛れな猫のような按配なのが、また声の主らしくて、テランスはしばらくしてから笑った。


     その頃には、歴史学者もどきはもうやって来ていた。
     うんざりしていたテランスに、声が言う。<よいではないか>と。
    『嫌です』
     テランスは即答した。<どうして>と続けた声に、テランスはかぶりを振った。
     どうしても嫌だった。彼のことを話したとしても、受け取り手がどれだけ誠意のある者だとしても、事実は真実ではない。ときに歪められ、都合よく扱われる。
     あの歴史学者もどきがどう扱うかは分からないが、彼の事実を話す相手には相応しいとは思えなかった。
     そして、もうひとつ。これは、今は和らいでいるから良いが──。
    『話をするたび、心が擦り切れていく』
     そう答えたテランスに、気配は消えた。呆れただろうか、とテランスが自己嫌悪に陥って眠れぬ夜を過ごした次の日、声が言った。
    <では、お前が書け>

     ……そうした経緯で書斎へ籠る日々となった。そればかりだと体が萎えてしまうから、適度な運動は欠かせないが、基本的には机に噛り付いている。
     彼のことを、書く。それは、テランスには思ってもみないことだった。彼を知るのは自分だけでよいと、本心から思っていたから。それ以外の──表面上の──彼を知る者は多くいるのだから、知りたいのならば彼らから聞けばよいだけのことだ、と。
    <私がどのような人物だったか、お前ならば書ける>
     全幅の信頼を寄せる声音で、声は言った。瞬間、テランスは涙が自らの頬を伝うのを感じた。
     実家から取り寄せた私物に入っていた備忘録と書き損じの手紙と彼から贈られた手紙やカードに目を通し、内容の構成を決めた。私事については書かないと決めた。声の主の愛を知る者は、それこそ自分だけでよいと思った。
    <誰も読まんぞ、それでは>
     呆れた声音に、テランスは「いいんです」と言った。
     そうして、テランスが「彼」について書き始めてからも「もどき」はやって来た。勿論、テランスが書を書き進めていることなど知るわけもなく、邪気のない様子で「彼」の話を聞きたがった。そのたびに扉を閉めるテランスに気配が揺らいだ。声はなかったが、<仕方がない奴め>とでも言っているかのようだった。
     やがて、手が震え始めた。仕方がない、自分ももう結構な年だ。健康なほうだが、最近は目も霞みがちで、食欲も落ちた。
    <根を詰めるなよ>
     声音は若い頃のままで変わらない。一方、とテランスは思う。……まあ、この命が無事尽きて再びまみえることができるのであれば、そのときは同じ年頃の姿でありたいが。あの日々の。

     ──そして。

     鈴の音を聞き、扉を開いた。久々に訪ってきた「もどき」の外れた青年に、テランスは一冊の本を渡した。
    「これで、すべてだ」
    「え……」
     戸惑う青年は、それでもテランスが書いた本を受け取った。
    「私の知る、ディオン・ルサージュのすべてだ。そのなかから取捨選択し、お前が史書を編纂するのは構わない。だが、元は此処にあると──それだけは頭に刻んでおけ」
     そう言うと、若き歴史学者の返答を待たずにテランスはいつものように扉を閉めた。



     その夜、青年は表紙を開いた。
     冒頭にはこう綴られていた。

     ──親愛なる、我が光へ。
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