既に同棲済みである『ドームでのライブが決まった『十の石心』の皆さんに、一言ずついただきたいと思います!』
テレビの中で、キャスターらしき女性がメンバーそれぞれにマイクを向けている。『十の石心』。それは話題沸騰中のアイドルグループだった。男女合わせて含む十人組のグループであり、それぞれの個性が光るような楽曲が売りだ。そしてそのとがった個性の楽曲ひとつひとつのパフォーマンスに、各々が合わせられるくらいの力量がある。
最初は一番身長の低いオパール。彼が名実ともにリーダーであるのだから当然だ。その後にジェイド。彼女はアイドルというよりは女優、モデルという印象の方が強い。ファッション誌の表紙を飾ることも多く、その発言の節々に強要の高さと彼女の審美眼が垣間見える。その隣のトパーズはバラエティー番組の出演が多いだろうか。クイズ番組では暗算をするような問題の解くスピードが尋常ではないと話題になり、動物番組では小動物と戯れる姿が話題になった。
そしてまた一人、また一人。その全員がありとあらゆる分野で活躍する芸能人だ。そんな逸材ばかりのグループの人気が出ないわけがない。しかしドームライブにこぎつけたのはそのプロデュース力のおかげでもある。個々の力量だけではどうにもならないのがグループ活動なのだから。
などと、レイシオはテレビを眺めながらそんなことを考えていた。レイシオとてこの業界で名を馳せる有名人である。ジェイドとはいくつかのドラマで共演をし、トパーズとはクイズ番組で一緒になることが多いだろうか。他のメンバーも特別番組などで顔を合わせたことがある。
『僕の曲では本当にダイスを振るから、その出目も見てくれると嬉しいな』
そんなことを口にした彼も、顔を合わせたことがあるだけのうちの一人だった。決して番組内で言葉を交わしたことは多くなく、そもそも出演するもののジャンルが違う。たとえ二人にドラマのオファーが来たとしても、レイシオは刑事もの、アベンチュリンは学園ものだろう。被ることなんてほとんどない。
そんな彼の言葉を、レイシオは今真剣に聞いていた。外向けであろう作られた笑顔に、作られた定型文。その全てがファンのために作り上げたものだというのに、それを目に焼き付けるようにして。
「ただいま~。……あれ、レイシオ? 何見て……は!?」
「あぁ、おかえり」
「なんでそんなふっるいの見てるんだい!? ちょ、おい!」
伸びてきた手がリモコンを奪おうとして、それをさらりとかわしていく。とはいえこのインタビューももう終わりなのだ。初々しくもぎこちない彼はもうここにしか残っていない。ライブ映像にもこの時期の彼は映っているのだが、やはり間近でその様子をとなるとインタビューに軍配が上がるのだ。
「あぁもう!」
ぶつん。ついにはテレビの電源が落とされた。数年前の彼が画面から消えて、顔を真っ赤にしながら毛を逆立てている彼がその前に立っていた。
「ほんっとうに、なに、してるんだよ」
「……真っ赤だな」
「質問に答えろって!」
そう吐き出したアベンチュリンに少しの笑いをこぼす。画面の中で作っていたそれとは比べ物にならないくらい、『彼』を感じる表情だった。
「いや、次のドラマがそういう設定だったんだ」
「……そういう?」
「長年寄り添った恋人の、過去と出会う話だ」
ぱちん、と彼のネオンが瞬いた。そして、なんとも難しそうな顔をする。これはどういう感情のときに出るものだろうか。そう考えるのは職業病なのかもしれない。
「次、恋愛ドラマなんだ」
「そうだな」
「オファー、受けたんだ」
「……仕事に関しては不干渉であるべきだ。そう言ったのは君だったはずだが」
ころり、ころり。数分前には真っ赤な顔をさらしていたとは思えないくらい、その表情が移り変わる。彼だって数シーズン前ではキスシーンだってあったし、もうひとつ前にはベッドシーンもあった。さすがに実際にやってはいないだろうが。
「……別に、そうだけどさ」
「面倒な男だな、君は」
「うるさいなぁ!」
もう寝る! まだそこまで遅い時間ではない。そして彼は帰ってきてから風呂も、食事もしていない。なのにそんなことを言って部屋に引きこもってしまった。いつもならそれを咎めただろうが、しかし今回はいいだろう。
「相手役のオファーはまだだったらしい」
そのオファーを受け取るのはいつだろう。それを受け取って悲鳴が上がるまであと十秒。そしてそれに耐えきれず、レイシオが笑うまであと十五秒。