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    レイチュリ
    ワンウィーク【Trick or ???】

    セフレの🧂🦚が少しだけ前に進む話

    甘いお菓子に代わるもの ぽや、とした頭のままに身体を起こした。隣にあったはずの体温はすでになくなっていて、ぼやける視界のままに部屋を見渡してみても誰もいない。そして、今ここにはアベンチュリンしかいないのだと知る。ーーーーー寂しい。そんな感情が、心を埋める。
    「……はぁ、女々しいなぁ」
     当たり前だろう、そんなの。昨日の夜を共にした彼はセフレでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。それに昨日はその約束だって取り付けていなかったのだ。たまたま成り行きでここに転がり込んだだけで、たまたま成り行きで身体を重ねただけ。アベンチュリンは今日の仕事をキャンセルしてあったけれど、彼はそうとも限らない。

     昨日、アベンチュリンは身体に星核を有した開拓者に呼び出された。そこで途端に言われた言葉は「Trick or Treat」。どこぞの星系で根付いている催しだ。収穫を祝いつつ悪霊を追い出すための祭りが少しずつ転じて、今は子供たちが仮装してお菓子を貰う形になったもの。
     仕事終わりに駆けつけたアベンチュリンがお菓子なんて持っているわけもない。それならばと悪戯と称して仮装させられ、今度はお菓子を貰う側へと回された。いい歳してカンパニーで仕事をしている『アベンチュリン』が、お菓子を貰う側。確かにいい悪戯である、とその時は思った。
     けれど同じ理由で彼が呼び出されていると知った時、その考えは一転した。これは一種の幸運であると確信したのだ。だって隠してはいるものの、そんな状態でセフレという関係に落ち着いてはいるものの、アベンチュリンは彼のことを好いていたので。ばれてはいけないと思いつつも、彼に会えるのだと内心で喜ぶ位は許して欲しい。
     それに彼だって、レイシオだってこちら側だろうと思った。お菓子なんて持ち歩くような人じゃない。糖分補給として研究室に飴くらいなら置いてあるかもしれないけれど、それを持ち運ぶことはないだろう。だから開拓者が声高々とその言葉を放った時、赤色が見開かれてしめた、と思ったのだ。それを理由にすれば、『悪戯』ということにすれば、少しくらいは彼の時間を貰えるのではないか、と。
     しかしそれは簡単に打ち砕かれた。呆れたようなため息と取り出された飴。それがころころと開拓者の手の上に転がされて山を作っていく。満足か、と言いたげな赤色。まぁ、開拓者は満足だろう。アベンチュリンに持ち合わせがないと知った時は本当に残念がっていたし、どれだけ多くのお菓子を貰えたか、を重要視しているのかもしれない。
     『悪戯』がしたかったけれど、『お菓子』が与えられてしまうのなら意味が無い。それに、よく考えればセフレであるだけの人間が彼の時間を奪っていいはずもない。今日は約束だってしていないのだから。そう思って口を噤んで、喜ぶ開拓者の隣でただ置物に徹することにする。
     しかし彼はアベンチュリンに「君はいいのか」と問うた。仮装をさせられていたからそっち側だと思われたのだろうか。そんな遊びに現を抜かすような人間だと思われているのか。そう呆れはしたものの、そんなことで噛み付くほどのプライドなんてない。だからただ笑って「僕はいいよ」と、当たり障りのないことを返した。
     それで会話は終わるものだと思っていたのだ。だって話すことなんて、ないし。しかし聞こえてきた言葉に唖然とした。だって彼が、あのべリタス・レイシオが、まさかこの催しの常套句を口にするなんて思ってもいなくて。
    「お菓子がないなら悪戯、だな?」
     そう笑った彼の顔は、今でも思い出せるくらいには脳裏にこびりついている。

     そして、今に至る。『悪戯』と呼ぶには確かに相応しい行為だった。「どこが気持ちいい?」「これは好きか?」「自分でも触ってみるといい」「ほら、気持ちがいいな」なんて、アベンチュリンが何に羞恥を感じるか分かっているからこその言葉たち。あぁまずい、思い出したらまた羞恥で茹だってしまう。
     全部知られていたのだ。アベンチュリンが何をされるのを嫌がって、何をして欲しくて、どこまでそれを焦らしても許されるのか。いつもはさりげなくその境目で責め立てられるのに、昨日は『悪戯』という名目があったからかあからさまだった。いっそ『お菓子』と称しても許されるくらいには甘くて、甘くて。胸焼けする位の優しい行為。
    「……帰らなきゃ、」
     そんな記憶に浸って、また夢の中へと落ちていきたかった。けれどそれは過ぎた願いだろう。だってただのセフレだ。アベンチュリンは彼にこの心の内を伝えてはいないし伝える気もない。そして彼がアベンチュリンを好いているなんて万一にも有り得ない。幸い、あんなに溶けるような行為をした後でもこの身体に不調はなかった。腰も関節も喉も、怖いくらいに。
    「僕も飴くらい、貰っておけばよかったかなぁ」
     畳んで置いてある服はいつも通り。誰もいないのもいつも通り。この心にすきま風が入り込むのも、それを無視するのもいつも通り。ばさり、ジャケットが虚しく音を立てた。それ以外の音がないからか酷く煩わしい。
    「もう帰るのか」
     だから、幻聴が聞こえたのかと思った。静かすぎて欲しい声を、聞きたい声を記憶の中から引っ張り出してきたのかと。でもその扉を開いた人はそこにいて、だから一瞬、開いた口が仕事を放棄した。まずい、動かさないと。
    「っや、あ」
     おはよう、レイシオ。誤魔化せただろうか。大丈夫、きっとできたはずだ。昨日のあれは『悪戯』だっただけ。勘違いなんてしてはいけない。問題ない。ちゃんと分かっている。
    「もう帰るよ。長居してごめんね」
    「こんなに早く帰る必要があるのか? 仕事は無いと聞いたはずだが」
    「……誰に?」
    「昨日の君に。……その様子では覚えていないらしいな」
    「っ、お陰様でね!」
     あぁもう、不覚も不覚だ。仕事のことをペラペラと。確かに昨日の最後の方は記憶が曖昧だ。自分が何を口走ったのかすらすぐには思い出せない。だとして、それでも自分が不利になるようなことは口外していないはずだけれど。
    「休みなら時間はあるだろう」
    「……それが何?」
    「朝食を準備してある。一緒に食べよう」
    「………………はっ?」
    「これも、昨日の君が言ったことに起因している」
     いや、意味が分からない。本当に分からない。今日が休みであることと朝食を共にすることにどんな関係があるというのだろう。ついていくべきか、無視して帰るか。いやでも、昨日のアベンチュリンが言ったとはどういうことだろう。それに明日だって仕事で顔を合わせるのに、今日のこれのせいでうまく会話さえ出来なくなってしまったら。あぁもう、選択肢なんて二つに一つではないか。
    「……昨日、僕が何を言ったか教えてもらいたいんだけど」
    「本当に何も覚えていないのか」
    「うるさいなぁ」
     君のせいだろ。そう言えたらどんなに良かっただろう。ついていった先、綺麗な所作で朝食を口に運ぶ彼は、どこを切り取っても絵画みたいだった。それにならってアベンチュリンもそこに並んだものを口に運ぶ。暖かいスープ、柔らかいパン。彼の作る料理は、いつも優しい味がする。
    「これは『お菓子』代わりだ」
    「はぁ?」
    「昨日、君は僕に『Trick or Treat』と言った」
     そしてその時僕は『お菓子』を持っておらず、しかし君にも『悪戯』をするような体力は残っていなかった。淡々とレイシオが言葉を紡ぐ。だから問うたのだと。『お菓子』の代わりにするなら何がいいのか、と。
    「君は、僕の作る食事が好きなようだからな」
     ばれて、いる。レイシオの手料理なんて数える程しか食べたことがないはずなのに。だって、セフレだ。一緒に食卓を囲むような甘やかさなんてない。なかった、はず。
     でもこの口ぶりってつまり、バレているんだろうか。早めに着いたときに一口だけと貰う夕飯も、一夜を共にした情で準備されていたであろう朝食も、食べるようにと作り置かれた昼食も。あたたかさの滲む料理が全部、どうしたって好きなことを。
    「……こんなのじゃ『お菓子』にならない、って言ったら?」
    「ならそこにあるものを持っていくといい。飴とチョコレートなら常備してある」
     第一、時効だろう。当たり前の顔をしてまた一口、彼がそれを口へと運ぶ。何も響いていない。こっちは、彼の一挙手一投足でこんなにも乱されているというのに。
    「それに菓子とは言わずとも、『甘さ』なら十分に与えたつもりだが?」
    「は、」
    「それも記憶が無いというのなら、もう一度与えるのもやぶさかではない」
     甘さ。彼が意図するそれを理解して、その瞬間かっと熱が上がる感覚がした。そんな俗な発言を彼がしているという事実と、その『甘さ』に思い当たってしまう自分に気付いたからだ。目の前で咀嚼しながら、彼が小さく笑うのが見える。あぁもう、くそ。
    「あんなの、『悪戯』以外のなんだっていうんだよ!」
     こんなことなら飴のひとつくらい、ポケットに忍ばせておけばよかった。
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    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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