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    レイチュリ
    ワンウィーク【筆跡・初恋】

    dom/subユニバース
    ケアとして筆跡で命令を出す🧂と、それをこなす🦚の話

    そのノートは今、彼の宝物となっているらしい 酷く、生き辛そうなSubだと思った。
    『システム時間で今日の夕方八時、技術開発部まで迎えに来てくれ』
     小さなメモ帳を手渡したのは今日の朝だった。先に家を出る彼にそれを渡すのはいつものことで、ストックしていたメモ帳の束がもうすぐ底をついてしまう。それを買い足さなければならないから、明日はそれを頼むのもいいかもしれない。
     そんなことを思案しながら、一人残された部屋の中で彼を待つ。律儀な彼のことだから既に近くまでは来ているのだろう。そして、時間になるのを今か今かと待っているのだ。髪を整えたりサングラスを整えたり、帽子をかぶるかかぶらないかを思案したりして。まぁその時を今か今かと待っているのはレイシオも同じなのだけれど。
     アベンチュリンがSubであると知ったのは、レイシオからしてみればただの偶然だった。戦略的パートナーとしての仕事は多々あったが、今思えば彼はかなりうまく隠していたように思う。Domであるレイシオと共に仕事をしていても、多少のGlareを撒かれた環境にいても不安定になっていると感じたことはなかったし、そもそもSubなのではと察するようなことすらなかった。それほどまでにうまく隠されていたのだ。だから道端に落ちていた彼を、『堕ちて』いた彼を見付けて、一瞬思考が止まってしまった。
     それから、ずっとこの奇妙な生活は続いている。療養のためにと家に招いて、それからずっとコマンドを出してはそれをうまくこなした彼に『褒美』を与えて。ここまで時間がかかるとは思っていなかったのだ。多少の不調ならある程度のプレイで落ち着くと思っていた。レイシオの読みが外れた、と言えばそれまでなのだけれど。
    「レイシオ、迎えに来たよ」
    「……あぁ、もう時間か」
    「うん」
     へら、と笑って扉を開けた彼に「ありがとう」と告げる。ほぅ、とまるで呆けた顔をするようになったのはつい最近だった。そう、生き辛そうだと思ったのだ。Subでありながらうまく『褒美』を受け取れず、そもそも他者とのプレイさえままならない。なのに仕事柄、立場柄、Glareには常に晒されて、落ちないようにずっと気を張って。
    「今日の夕飯は何なら食べれそうだ」
    「うーん……ちょっと仕事で食べてきちゃってて」
    「何を?」
    「軽食だったよ。サンドイッチと紅茶だったかな……あ、薬は入ってなかったから安心してくれ」
    「入っていた場合は僕ではなくジェイドに報告するべきだ。前にも言っただろう」
    「だから、ジェイドに報告するような事態は起こってないって言ってるんだよ」
    「ならいい。果物くらいならどうだ?」
    「……ちょっと、なら」
    「分かった」
     奇妙な生活。それはレイシオが朝方に手書きのメモを彼に渡すことから始まる。お互いに忙しい身であり、プレイの時間を定期的に取るのは不可能だ。そもそもアベンチュリン自身、直接コマンドを受けるだけで落ちかけるという状態でもあった。トラウマにも近いものだったのだろう。Subとして害されて、搾取されて、そんな自分を守るためにコマンド自体を受け付けなくなってしまっていた。だから、レイシオはコマンドに近い指示を書き記すことにしたのだ。電子的ではなくレイシオが自ら書きつけた、アベンチュリンもビーコンを通さずに辛うじて読み取れる共通言語。それをDomからのコマンドとして、しかし直接口に出されるコマンドよりは強制力のない命令として認識させた。通常のプレイよりSubとしての欲の発散量は少ないものの、今の彼にとっては十分な処置と言えた。ずっと飢餓状態であり、暴力的なDomのそれしか知らないアベンチュリンにとっては。
    「でも君は何も食べていないだろう? 別に僕に合わせなくても、」
    「僕は僕の食事を君に押し付けたいわけじゃない。君が会合や接待でものを口にする機会が多いのだって分かっている」
    「ん……じゃあ、さ、レイシオ」
     君が食べている間は、一緒にいてもいい? それは唐突に、ぽつんと落とされた声だった。何をするにもずっと遠慮して「レイシオがしたいなら」「レイシオが望むなら」「レイシオがやりたいなら」とずっと口にしていた彼が、初めてその心の中の声を、口にした。小さな、小さすぎるわがまま。それがどんなに大きな衝撃を与えたかなんて誰にも分からないだろう。分かってたまるか。ここまで、ようやくたどり着くことができたのだ。
    「だ、駄目ならいい、んだけど。君の言う通り食べてお風呂に入ってすぐ寝る、し、」
    「駄目な訳がないだろう」
     DomはSubを害するものだ。Domは自分の欲の発散のためならSubを道具としてしか考えないものだ。そんながちがちに固まった先入観を、ようやく少しだけ紐解くことができた。信頼の表れと称してもいいのかもしれない。
    「君がしたいことをしてくれ。僕もそれが嬉しい」
    「……そんなこと言うの、Domじゃなくても君だけだろう」
    「どうだろうな。だが少なからず、これは僕の本心だ」
    「ふぅん」
     半歩後ろで警戒しながらついてくるだけだった彼が、ぽつりぽつりと会話をしてくれるようになった。今では隣を歩いてくれるようになって、帰った後のことを話してくれるようになって。その信頼に応えたいと思うのだってDomの、そしてレイシオの本能でもあるのだけれど、それを言ったらまた逃げられてしまうだろうか。
    「アベンチュリン」
    「うん?」
    「明日の指示を今伝えても?」
    「っ、」
     隣の彼が息をのむ。止まった足と一緒に歩みを止めれば、口を引き結んだ彼がそこにいた。特徴的なネオンが不安げに揺れている。揺れていて、しかしその中に不安以外の感情が宿っているのだって見えていた。これが恐怖ならすぐに撤回するつもりだったのだけれど。
    「決して、君を害する内容ではないと約束しよう」
    「……そ、れは、疑ってない、」
     ただちょっとだけ、怖くて。それは決してレイシオに向けた感情ではなくて。今レイシオの言葉に素直にうなずこうとした自分が、怖くて。だってDomなのに。『彼ら』と同じ、Domのはずなのに。
     その言葉を、葛藤を聞いてレイシオが何を思ったのか。そんなのは言語化するまでもない。他のDomではなく、レイシオだからだ。その自覚がアベンチュリンにあるのかどうかは分からないが、事実としてそうなのだ。伝えたら逃げられてしまうだろうか。そうかもしれない。だから、レイシオは彼からの言葉を促すために口を開いた。『恐怖』ではなく、『期待』に染まったその瞳を見つめながら。
    「セーフワードは?」
    「……『アベンチュリン』、」
    「そうだ。……君には尊重されるべき『君』が、今ここにある」
    「う、ん」
     ゆら、ゆら。視線が泳いで、揺らいで、そしてゆっくりと持ち上がる。ネオンが美しいかんばせの、そこにはめ込まれた一対の赤をとらえた。視線が交わる。美しいふたつの色が、絡んでいる。
    「言って、れいしお」
    「……あぁ、ありがとう」
     もうこれが、彼からの最大限の信頼なのではないだろうか。直接的なコマンドではない。代表的とされる『お座り』でさえ命じたことがない。ただの子供のお使いのような、そして口にすらしない、ただ書きつけただけのDomからの指示。お願い、と称したほうが近いかもしれない。けれどそれを口にすることが許されたのだ。不安と期待に満ちた彼によって。
    「……君に渡しているメモ用の紙がもうすぐなくなりそうなんだ。買ってきてほしい」
    「わか、った」
    「君にも予定はあるだろうし、あくまで予定は予定でしかない。店が開いている時間に仕事が終わらないなら、明日中ではなくともかまわない」
    「うん、」
    「だから時間があるときに、君が選んで、買ってきてくれ」
     それを買って、またレイシオにそれを書く権利を、許可を与えてほしい。これはそういう意図を含んだお願いなのだと、きっと言わなくても彼には分かるだろう。それくらいには一緒にいたのだ。束になっていたメモ用紙が、もうすぐなくなってしまうくらいには。
    「帰ろう、アベンチュリン」
     ふたつの足音が静かに響く。彼はいったいどんなものを買ってきてくれるのだろう。小さな紙でも、大きな紙でも、少量でも大量でも構わない。それがきっと彼がレイシオに抱く期待の形になる。それを渡されるのがいつになったって、それは彼が悩み考えてくれた結果なのだと思える。
     だから数日後渡されたそれに目を見開くことになるのだ。ノート状のそれ、一ページ目に書かれた彼の文字。その日は突如ピアポイントに顔を出したレイシオに、予定なんてなかったはずなのにとその場が騒然とすることになる。まぁ、今のレイシオからすればまだ起きていない未来の話なのだけれど。

     ―――――『最近君と話していると心臓が痛くて落ち着かないんだ。お医者様である君なら、この理由が分かったりするのかな』
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    Replies from the creator

    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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