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    k0510_o0720

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    ☆quiet follow

    フォロワーさんのイラストを元に書いたレイチュリ
    待つのがそんなに嫌では無い🧂の話

    今、君の隣にいる 事実、腹いせではあった。
    『ごめん、撮影が押してて』
     今月に入って四度目になる、全く同じ文言。それを見るやいなやすぐに是を返せば、既読マークだけがついて音沙汰がなくなった。それがだいたい一時間前だろうか。集合場所にずっと立っているのも馬鹿らしいからとカフェに移動したけれど、一人で飲むコーヒーは何とも味気ない。話し相手が居ないせいで持参した本に集中してしまって、読み終えてしまいそうなそれとは裏腹にカップの中身はまだ半分以上残されていた。
    『今終わった。どこ? そっち行く』
     最後のページ、奥付までしっかりと読み終えて、ついにやることがなくなってしまった時に入った通知。緑色の無地の画像という、傍から見ればスパムアカウントとも思えそうな彼のアイコンからしゅぽん、とそんな言葉が吐き出されていた。そのアイコンがなんの詮索もされないから丁度いいのだと聞いたのはいつだっただろう。随分と前だったように思う。いっそ初対面だったのかもしれない。アイコンひとつに意味を探すなんて変な人。そう言われて、笑われて、思えば第一印象はお互いにあまり良くなかった。
     方や今をときめくアイドル、方や大学で教鞭を執る教授。そんな二人の接点はとあるバラエティ番組だった。堅苦しい問いの解説にたまたま呼ばれて、その出演者のひとりだったというだけの関係。それがまさかこんなことになろうとは、あの時の自分に言えば鼻で笑われそうである。
     まぁ、つまりこの忙しさは彼の人気に比例しているものであって、今が売り時ということなのだろう。若いだけ、顔がいいだけ。それだけではやっていけないことなんて彼はとっくに理解していて、だから撮影やライブの合間に色々なことを身につけようと足掻いていた。歌やダンスのスキルアップはもちろん、演技や文芸、そして勉学にまで。泊まりに来た日の夜に、隣で教材を開いた彼に質問攻めにされたことだってある。
     要約すると、結局のところ彼の遅刻に関してはなんとも思っていないのだ。そうなる可能性を見越して本を持参していたし、そんな時間が無くなってしまったとしても今日の終わりは家まで来てくれると知っている。そんな疲労困憊の彼を労るのだって、それなりに楽しいと思っているのだ。何せ、人生で初めて自ら望んだ恋人である。
     ただ、ちょっとした悪戯心が芽生えた。仏の顔も三度までという言葉があるように、何度も繰り返されれば限界はあるのだ。いや、他人がそうであろうと、今の自分には一切そういったものは無いのだけれど。でも一種の意趣返しくらいなら許されるだろう。本をしまってコーヒーが残ったカップを手に持って、もう片方の手で集合場所を送信する。ここからそう遠くもない、ただの看板の前だ。
    『駅前に大きな広告看板があるだろう。今の広告は僕も気に入っているんだ』
     きっと忙しすぎる彼は知らない。顔が知れているのだから電車なんて、駅なんて使えないだろうし、移動はもっぱら車だろう。そして急いで向かってきてくれているのだから、そこに今何があるのかなんて調べる余裕も無いはずだ。
     ふ、と緩んだ口元を隠すように、手元のカップに口をつけた。冷めても風味のなくならないいいコーヒーだ。席もそれなりに区切られていたし、今度は一緒に来るのもいいかもしれない。彼も、毎朝飲むくらいにはコーヒーが好きなようだから。

     怒ったような彼がふくれっ面で声をかけてくるまであと五分。看板のそれと見比べて、実物の方がいいなと再確認するまであと六分。二人きりになれるまでだって、そう長くはかからない。
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    Replies from the creator

    k0510_o0720

    DOODLEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【パートナー、ハッピーエンド】

    夢にまで見た終わりの話
    「全然、なんか思っていたのと違うっていうか」
    「……嫌なら言ってくれと再三伝えていたつもりだったんだが。いや……、ようやくそれを僕に言えるようになった、ということか? 君の信頼を得ることができたと喜ぶべきなのか、これは?」
    「あはは、何一人でぶつくさ言っているんだい、君」
     誰のせいだと。多少の苦言も含めてその頬をつついてやれば、くつくつと喉の奥で笑うような音が聞こえた。そしてまるで安心しきった顔でその手に頬を寄せてくる。そこには嫌悪や忌避感は見当たらなくて、柄にもなく息が漏れた。
     つまり彼は、今は別に不快な訳ではないのだろう。ではあれはどういう意味だろうか。既に身体を重ねた回数は両手じゃ足りなくなっていて、というか足の指を足したって足りないだろう。レイシオとて凡人である。好意を寄せる相手に向ける欲だって人並みなのだ。そして彼もそれを拒まなかったし、望んでいるようにも見えて。いや、そういう思い込みこそがよくなかったのだろうか。レイシオが「したい」と言ったそれにただ、彼が否を返せなかっただけだとしたら。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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