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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【目覚め】

    機械🦚を拾った🧂の話

    このバグが直される日を いつも思う。次にこの目を開く時、一体どれだけの年月がたっているのだろうか。だって必ず明日に目が覚めるなんて保証はないのだ。人とは違うこの身体は何十、何百、何千と生きていられる。けれど自分で目を覚ませなくなることだって多かった。オーバーヒートを防ぐために自ら設定したスリープモードの最中、誰かの手によって電源自体を落とされてしまうことだってよくある話なのだから。
    「……よし、どうだ? 身体は動くか」
    「……?」
     幸運なのは、まだ目を覚ます機会を与えられているということだろうか。目覚めたときに身体の一部が欠けていることこそあれど、それが補填できなかったこともない。まぁよくも分からないままに落ちていたパーツをくっつけたせいで、片足は曲がらなくなったし目も太陽光に弱くなってしまった。目については、これもそこらへんに落ちていたサングラスをかければどうにか凌げるようになったけれど。
    「おい、僕の声が聞こえるか?」
     さて、ここはどこだろう。スリープにする前はどこにいたんだっけ。記憶媒体の中を漁って、ひっくり返して、その記録を掘り起こして―――――そして、決してこんな廃屋の中ではなかったはずだと思い至る。確か、そう、エネルギー不足とオーバーヒートでぶっ倒れたのだ。炎天下で歩き回りすぎたのだろう。うまく動かせない足はこの身体を動かすには酷く不便で、ひとつとなりの街に行くだけでも人の数倍の時間がかかる。では、どうしてこんなところに。
    「聴覚が機能していないのか? それとも……言語設定か? 僕の言葉が分かるか」
     まぁきっと物珍しさに誰かが見付け、ここまで運び込んだのだろうけど。だって人型のアンドロイドなんてそうあるものじゃない。ところどころに不備があるとはいえ、五体満足のままに放置されているものを見付けられるのは幸運だろう。ばらしてその作りを確認するもよし、適度に改造して日々の生活補助ができるようにすることも、兵器にすることもよし。今回はどうだろう。身体に、眠る前にはなかった何かがついているということはなさそうだけれど。
    「おい」
    「っ!?」
     ぱぁん、と、何かが破裂するような音がした。発砲音とは違う、もっと大きな、空気をびりびりと振動させるような音だ。その音源へと目を向ければ鉄の塊がひしゃげていた。アルミ缶、だろうか。視覚から得られた情報をもとに、それの元の形をメモリ上で構成していく。うん、間違いないだろう。ではなぜそれが破裂したのか。
    「聴覚は問題なさそうだな。君、僕の声を無視しているのか」
     飛び散っているのはアルミ缶の破片と、それから何らかの液体だろうか。液体由来の爆発物は数多にあるけれど、匂いはそんなにしない。何だろう、混ぜ合わせたりすることで爆発するのだろうか。であれば飛び散っている液体は危険物質ということになる。一応この目でスキャンすればそういったものの判断ができるはずなのだけれど、どうしてかそれが反応しない。壊れたのだろうか。それとも、あれは危険物質ではないのか。
    「『僕の言葉が理解できるか』。……駄目か」
     危険を察知できないようでは少し困る。だってこの身を守ってくれる何かなんて自分自身しかない。今はこの身体をメンテナンスしてくれる人もいないし、でも自ら廃棄処分になりに行くこともできない。いや、でもそういう危険があるなら、この身体に組み込まれた『幸運』だって少しは目を閉じていてくれるのでは。
    「っわ、え?」
    「……どうだ」
     そんな風に思考をぐるぐると巡らせて、巡らせて、そんな希望を抱いたりして。だから目の前に差し出された一枚の金属板に反応が遅れた。ずい、と迫ったそれに反射的に身を引けば、しかしそれが追いかけてくる気配はない。ただそこに鎮座している。この目には、その板がひとりでに浮いているように、見える。
     ―――――あぁ、そうか。この現象を知っていた。ちょっと前にこの身体を改造した人が酷い人嫌いで、それでいて依存癖があって。だからこの目に、主人とした人以外を写せなくくしたのだ。この身体を拾う人はその設定盤を見て自分を登録するから問題はなかった。けれど。
    『僕の言葉が分かるか』
     板に書かれた文字はそれだった。綺麗な字だ。その人の勤勉さ、そして気難しさを表したような文字。問われているのだから答えなくては。
    「うん、分かるよ」
    「ではなぜ返事をしない」
    「あー、えぇと。僕は今、主人と設定された人の声も姿も認識できない状態なんだ。これを見せてくれている君は学者かな……この身体を開いたなら、割とわかりやすいところに設定盤があったと思うんだけど」
    「……」
     がり、がり。一度目の前から退いた金属板にまた文字が刻まれて戻ってくる。きっと了承か何かだろう。そして次は、今これを書いている人が主人になるのだ。ちょっとくらいは楽しく会話できる人だといいな。だって、その人以外は見えないままなのだし。つまりこの身を置く世界に存在するのは自分と、そしてその主人の二人だけだ。
    『今から見る』
    「え、あちょ、っとま……ッ!」
     すり、と項部分に何かが触れる。待って、本当に待って。スリープするから。だってそこはあまり触れられたくないのだ。内部をかき回されるような感覚がして、だからいつもは意識を落としたうえで設定を変えられていた。いや、でも主人の設定を変えるなんて一瞬か。なら、我慢すればいい、のか。
    「ぅ、ぁ……ッな、ふ、ぅく、」
    「……面倒だな」
    「ァ……っ!? な、なに……っそこ、かんけい、な、ぁ!」
     そう思ったのに、その場所での作業は一向に終わらない。逃げたくて身体が跳ねて、でもそれはきっとしてはいけなくて。ぎゅう、と身体を抱きしめる。気休めだ。けれど、何もしないよりはましだろう。
    「は……ぁ、ぅ、」
    「悪趣味にもほどがある……というか、なんでこうも冗長なプログラムを組んだんだ。保守性の何もあったものじゃ……いや、書き換えさせないという点では、理にかなっているのか」
    「……? おわ、り?」
    「あぁ、終わった。僕が分かるか?」
    「ぁ……えっと、ちょっとま、って……再起動しないと、だめ、だから、」
    「っおい!?」
     繋がれていた管を引き抜かれる感覚。それと同時に自動で再起動が走る。意識が落ちていく感覚。再起動というけれど、それの最中にエラーが発生して起きたのが数十年後だったこともある。次に目を開ける時、今傍にいる人を見ることができるのだろうか。何かに抱きとめられる感覚を感じながらもその意識は飲まれていった。

     そして、今。目の前にはベージュのマントを羽織った綺麗な人がたたずんでいた。この手にはしっかりと鉄の板を持たされていて、そこに書いてある言葉は『僕が見えるか』。
    「見える……」
    「ならよかった。声は?」
    「きこえ、る」
    「であれば正常だな。他の人に会わせない限り僕が『主人』ではないということの証明が難しいが……まぁ、それはこの先に機会はあるだろう」
    「いや……君が僕の主人じゃないことは、わかるよ」
    「……ほう?」
     だって彼の名前が分からないのだ。主人として登録されていたのなら、その本名、もしくは呼称がこの身体に埋め込まれるはずだった。それが、ない。なんて呼べばいいのかもわからない。そもそも、どうして主人でもないはずの彼が今、この目に映し出されているのだろう。
    「君のプログラムを、勝手ながら書き換えさせてもらった。これで君は主人以外の人を認識できるし、声も聞こえる」
    「主人、以外?」
    「そうだ。僕は君の主人ではない。……ここに運び込んだ時に足も直したが、動きはどうだ」
     言われるままに両足を持ち上げ、地面に下ろす。曲がらなかったはずの片足に一切の違和感がない。すごい。ずっとぎしぎしいっててそれがばらけるのはいつだろうとも思っていたのに、それもない。
    「僕を動けるようにして、君は僕に何をしてほしいんだい?」
    「……」
    「ここらは抗争地帯だろう。兵器にしたいなら、主人として僕を使う方が理にかなっていると思うけど」
    「無意味な抗争に参加するつもりはない」
     何をしてほしいか、と言ったな。その問いに首をかしげながらも首肯する。まぁ確かに抗争なんて、市民からしたら嬉しいことなど何もないだろう。それに貢献すれば巨万の富が手に入るだろうけれど、そんなものは必要ないということだろうか。アンドロイドひとつあれば一応、夢ではないはずだけれど。そしてアンドロイドを修理、改造できる頭脳を彼は持っているのだし。
    「この地に未練はない。だからここを抜け出したい……が、監視網を抜けるのに手間取っている」
    「……オーケー。その手助けをしろってことかな」
    「概ねその通りだ」
    「いいよ。僕は使われてこそ価値があるアンドロイドだし、この身体を整備してくれた君の役に立てるのなら光栄だ」
     攻撃性能はあまりないけれど、良くも悪くも鉄の塊だ。盾くらいにならなれるだろう。そう口にすれば了承が返されて、だからその役割を果たすためのシュミレーションをして。
     あれ。そうやって考えていたのに、返されたのは無言だった。無言の肯定だろうかとその人を見上げれば、美しいかんばせの中心に皺が寄っている。これは、不快を表す人の顔だ。間違えた、のだろうか。正常に動いているはずの回路が間違いを導き出したということか。何故?
    「え、っと」
    「僕はここから抜け出すために、君の援助を得たい」
    「うん……そうだよね? だから僕は、」
    「そして別の町に移り住んで、そこで君と生活するのも悪くないと思っている」
    「は……?」
     なんだ、それ。いや、それってつまり、この身体も保持したまま次の街に行きたいみたいじゃないか。そんなことをすれば盾になれなくなる。つまり彼を守り通せる確率がぐんと下がる。駄目だろう。彼は人なのだから。アンドロイドで代わりのある自分より、もっと価値のある人なのだから。
    「……人型アンドロイドは、『人』と同等のこころを持つ。それは立証されているし、だからこそ君を道具として扱うことはできない」
    「い、いや、大丈夫だよ? だって今までも、」
    「今までがそうだからといって、それをなぞる必要はない。……抗争がなければ、君たちは孤独な人々の『友人』として生きていくはずだった。そのために、作られたはずなんだ」
     だから僕は、そうする。彼は何を言っているのだろう。だってそんなの、無駄だ。彼の頭がいいことはこの数分で十分に理解できた。だからきっと、どこへ行っても彼の力を借りたいという人が現れる。十二分に価値のある人だ。だったらこんながらくたは捨ておいて、新しい街で綺麗なアンドロイドを買った方がいい。
    「僕は自分の意見を曲げるつもりはない」
    「……変人って、言われないかい」
    「はっ!」
     そこには悲観も、後悔も、何もなかった。ただそれを口にした人を馬鹿にするような顔。あぁ、まぶしい。何となくそう思った。彼の瞳が赤くて太陽に見えるからかもしれない。この目は、太陽光には弱いから。
    「変人なのだから、アンドロイドを人として扱うのだって普通だろう」
    「そういうもんかい、それ」
    「そういうものだ。人は初めて会う相手に、まずは自己紹介をする……僕はベリタス・レイシオ、好きに読んでくれ」
    「……レイシオ?」
    「あぁ、それでいい。君は?」
     三十五番。そう言えば、レイシオは酷く嫌そうな顔をした。でも仕方がないだろう。この身体は作り物で、個体の識別番号さえあればよかったのだから。それ以外の呼び方だと『あれ』とか『これ』とか『機械』とか『アンドロイド』とか。
    「……まぁ、いい。新しい名前を付ければいいだけの話だ」
    「別になくても、」
    「僕がつける。そうだな」
     あ、話を聞いてくれない感じだ。いや、まぁいいのだけれど。だって言われたことは絶対で、人に逆らうことは許されない。そんなつもりもない。
    「では、アベンチュリンと」
    「宝石の名前だろ、それ。なんで?」
    「君の足の固定に使われていた。適度な大きさの石、程度の扱いだったがな」
    「あぁ……あれ、そうだったんだ」
    「他に希望があれば言うといい。ただ、その話はここを抜け出した後にしよう」
     それって街に辿り着いた時、だろうか。その時この身体が、残っている保障もないのに。
    「新しい街で、君のようなアンドロイドの修理を担うのもいいかもしれないな」
    「ふぅん。まぁ君ならできそうだよね」
    「一番最初の患者は君だろうがな」
    「……患者って」
     人に使う呼称だろう。頭がいいのに馬鹿みたいだ。でもまぁ、好きに言わせておこう。彼を守ることだけを考えればいいのだ。彼がアンドロイドを直す生業をするというのなら、それはその街のアンドロイドたちには願ってもないことだろうし。
     そうやって成り行きのままに了承したこの指示がずっと続いているなんてどんなバグだろう。目を閉じてスリープするのが怖くなるなんて、でも絶対に彼なら起こしてくれると安心するようになるなんて。彼と一緒にいたいと願う、なんて。
     あぁもう、バグだ。これを嫌だとも思わないのだから、きっとこの基盤は既に壊れてしまっているのだ。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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