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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【オフィスラブ】

    出張前の🦚と見送りに来た🧂の話
    ※名前のないモブが出ます

     ぬぅ、と出てきた細い腕に、すぐ近くの部屋に引きずり込まれた。ほんの少しだけ開いていた扉は何かを監視するためだったらしい。抵抗すべきかとチョークを手に取る。そして、その腕の正体に気が付いて手放した。
    「……随分と雑なお誘いだな」
    「素直にこっち来てくれたってことは、了承してくれたってことだと思ってるんだけど」
     だって僕の力じゃ君を引っ張り込めないし。そう言った彼は首に腕を回して、背伸びをするようにして口付けてきた。ちゅ、とかわいらしい音を立てて離れていくそれを視線で追えば、薄い唇が弧を描く。
    「これから遠征だろう。こんなことをしている暇はないと思うが?」
    「そういう君はどうしてここにいるのかな。遠征に出る恋人を見送りに来てくれたんだって、ちょっと自惚れてたんだけど」
     つう、とまるで誘うように唇がなぞられる。手袋に包まれた細い指。捕まえて、噛みついて、そうすれば簡単に噛み切れてしまいそうな指。そんなことは絶対にしないけれど。
    「たかが三日だろう」
    「こっちではね。でも僕が行く先の星では三か月なんだよ」
    「それはつまり」
     君が寂しい、という話か。そう告げれば特徴的なネオンが瞬いた。遠くで「総監!」と彼を呼ぶ声がする。ほんのわずかな時間だって欲しい今、それを使って会いに来てくれたというのが恋人冥利に尽きるのは事実だ。レイシオとて凡人である。こんな健気な彼を見れたのは、ひとえに僥倖といえるだろう。
     しかしながら、それが他者に迷惑をかけているとなると話は別だった。彼だって石心という地位にいる幹部なのだ。上司が勝手をし過ぎると下の社員にまで影響が出るし、それに目をつぶれるほど馬鹿にはなれない。レイシオは心を鬼にしてでも彼を送り出す義務がある。それができないのなら、彼の恋人である権利すらないだろう。
    「早く行くといい。君の部下が待っているだろう」
    「……もうちょっとだけ」
    「アベンチュリン」
     諭すような声が出た。けれどこれはしなければならないことだ。恋という感情に馬鹿になるのは、まぁいい。けれど時と場合がある。二人きりの時間であればさておき、仕事中で、しかも彼に至っては遠征の直前なのだ。出発がほんの少し遅れるだけでそのスケジュールを大きく乱すことは、彼だって理解しているはずだった。アベンチュリンは学がないと自称することはあれど、決して馬鹿ではない。
    「抱きしめて、レイシオ」
    「……」
     そう言って背中まで降りてきた彼の腕を、やんわりと拒絶する。両腕を捕まえるように抑えて身体の前へ。手を握り締めればまるで、傍から見れば彼を拘束しているようにも見えるだろうか。
    「……駄目かな」
    「駄目だ。自分の立場をちゃんと理解しろ」
     ぴくり、とその腕が震えたのには気付かないふりをした。そもそも二人でこんな薄暗い部屋にいるのさえ問題なのだ。彼と恋人同士であることは公言してないし、お互いに立場がある以上下手に吹聴するわけにもいかない。それだって、彼の唯一になる時に決めたことだった。
    「三か月、君に会えないんだよ」
    「たかが三か月だ」
    「僕は、三日でも寂しいのに」
    「ではそれを理由に仕事を放り出すか?」
    「しない」
     ねぇレイシオ。そう言われて、身じろがれて。でも手を離すわけにはいかなかった。外で彼を呼ぶ声が聞こえる。この部屋の扉が開かれるのだって時間の問題だろう。その時に解放して、明け渡せばいい。さすがに部下がいれば下手な行為は控えるはずだ。殊更素直な彼を堪能できない、というのは少し惜しいけれど。
    「……僕、」
    「何だ」
     総監、という声が近づいてくる。これは聞いたことがある、彼の秘書の声だ。足音が近づいてくる。隣の部屋の扉が開く音がする。
    「君に抱きしめてほしくてさ、」
     ぱたん。扉が閉まる音。すぐ近くまで近付いてくる足音。潮時だろう。手を離して、ただ会話をしていたように装わなければ。
    「仕事を全部終わらせて、何分も早くここに来たんだよ」
     扉が、開いた。薄暗い部屋に光が差し込んでくるのを感じて、振り返る。そこには予想した通り彼の秘書がたたずんでいた。
    「レイシオ教授?」
    「どうした」
    「あ、いえ……アベンチュリン総監を探しておりまして」
    「……出発までの猶予は?」
    「あと三分ほどです。早めに執務室を出られたので既に到着しているものかと」
    「見かけたら探していた旨を伝えておこう。……まぁ、彼は遅刻などしないだろうが」
    「あ、はい。感謝します」
     一礼して去っていく彼をただ見送って、そして腕の中に閉じ込めた彼の心音を聞く。心地いくらいに早鐘を打つそれは何が理由だろう。レイシオの大きな身体だけでは隠れきれないと思ったからだろうか。だから見つかると、そう思ったからだろうか。それとも急に距離を詰めて、彼が求めたそれを与えたせいだろうか。
    「あと三分だそうだが」
    「わ、かってる」
    「そうか」
    「れいしお、ん……」
     少し身体を離して、屈んで、そして口付けを落とす。これも彼が欲しがったものだ。ほんの少しの時間を捻出して、来るかどうかも定かではないレイシオを待って。そんな健気な彼の願いをかなえたいと思うのは決して、絶対、間違いなんかじゃない。
    「ン、ぅ……ッ!」
     舌をいれて、絡めて、口の中をこれでもかというくらい堪能して、それでも遠征を控えた彼の負担にはならないように。息を整える時間を残して解放すれば、潤んだ瞳の彼がそこにいた。
    「れ……しお?」
    「出発前に会いたかった」
    「へ、」
    「遠目にでも君に会いたくて、だから仕事を残してここに来た。後続の作業はなく、今日中に終われば何の問題もないと判断しての行動だ。……今日は残業だな」
    「そ、れって、」
     君も、僕に会いたかったってこと? 分かりきったことを何故か不思議そうに聞いてくる。当たり前だろう。だって彼の言う通りなのだ。彼だから抵抗せずこんなところに引きずり込まれることを許容して、彼だから口付けだって拒まなかった。彼だから会いたいと思って、彼だからその健気さが愛しいと、思って。
    「僕たちの家で君の帰りを待っている、アベンチュリン」
    「……うん、待っててレイシオ」
     そう言った彼は、もう『アベンチュリン』に戻っていた。もったいないと思う反面、レイシオはこの彼だって嫌いではないのである。
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