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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【こぼれ話】

    🧂が語る、取るに足らない話

     ひとつの大きな仕事が終わった。カンパニーに不利益を被らせた大罪人の処刑、という大きな仕事だ。今はもう死刑なんてボタンひとつでできるようになっていて、だからレイシオがやったことといえばそれを押すことだけなのだけれど。でも、やっぱり精神的にきているのかもしれない。だって大罪人とはいえ、死刑囚とはいえ、元奴隷とはいえ。ずっと一緒に仕事をしてきた人だったから。
    「にゃう?」
    「……すまない、朝食の時間だな」
    「にー!」
     みっつの生命体に急かされて、持ったままだったそれを皿に移してやる。食事をするようになったのは彼の影響らしい。彼らの面倒を見ていた彼、その処刑された死刑囚の彼は、なんとも美味しそうに食事をしていたのだとか。最初は得体の知れない棒状の何かを口に突っ込んだり、パックの口から何かを吸い上げたりするだけのところしか見たことがなかったのに。でもそんな彼がいつからか大切そうに抱えられるくらいの包みを持って帰ってくるようになって、それを楽しそうに開いて、その中のものを口元を綻ばせながら食べて。だからどうしても気になってしまったのだと。ビーコンで翻訳された彼らの言葉は、如実にそれを伝えてくれた。
    「……言ってくれれば、君たちの分も追加で持たせたものをな」
    「んに?」
    「量も、栄養素も計算していたんだ。君たちに分け与えていたとなるとそれにずれが生じる……はぁ、予定よりも改善に時間がかかったのはそのせいだろう」
    「なぁん」
     細かいこと気にしないでよきょーじゅ、なんて彼のような口ぶりで、小さな彼らが言葉を紡ぐ。共に暮らしていたせいで口調も移ったのだろうか。そうかもしれない。共に暮らせば似てくるとはよく言ったもので、それを証明する論文だっていくつもあるのだから。
     彼らがここに移り住んだのは、ひとえに彼の処刑執行されたからだ。処刑されたのだからあの家の主人ではいられなくなり、主人がいなければ借り続けることも出来ない。トパーズやジェイドが引き取る、もしくは主人として契約し家だけは残すという方法も提案されたが、今後も踏まえてこの家へ全員連れてきたのだ。べリタス・レイシオという、主人の処刑執行人かつ元恋人の家に。
     今ではすっかり、家の一角に彼ら用のスペースが出来上がっていた。運動不足にならないためのタワーとおもちゃ、必需品のトイレ、自動給水器、ベッド。食事用の皿は彼らの主人もお気に入りだったのだとか。
    「んに?」
    「……寂しいのか? まぁ……君たちはずっと、彼と一緒だったんだろうしな」
     すり、と彼らが寄ってくる。主人を殺したということを知らないままに、その一挙を担ったレイシオになんの疑いもなく。撫でてやればもっと、というようにくっついてくる。魔性だ。これは無意識だろうか。彼もこれを無意識でやるから、酷くたちが悪かった。しかもそれを指摘するとそれこそ猫のように飛び上がって離れていくのだ。気付かれないよう、さりげなく。レイシオからしたらわかりやすい以外の何ものでもなかったけれど。
     そんな彼が今、ここにはいない。
    「彼ほど寂しがり屋なのも珍しいと思ったんだが……君たちも大概だな」
    「んにぅ」
    「なん?」
    「……そうだな。僕も、大概だ」
     今日という日に、休暇申請を出してしまうくらいには。本来であればそろそろラボから離れられなくなる時期で、つまりは研究が佳境で、だからそろそろ本腰を入れなければならない。本来であれば彼らの引き取りも、世話も、別にレイシオが全てやらなくてもよかったはずなのに。でもどうしてか、彼らは彼との縁な気がして。
    「……なんでいるんだい? 仕事は?」
    「君を待っていた僕に、開口一番に言うことがそれか」
    「いや、だって本社まで君を探しに来てる人がいたんだよ」
    「僕の休暇はずっと前から決まっていたことで、それまでに僕の手が必要な処理を終わらせていなかった彼らが悪い。それに、そのためにラボのパソコンに手順書とデータは残してある」
    「ならそこにある、って一言くらい言ってあげればいいのに」
     ただいま可愛い子たち。いい子にしてたかい? そんな言葉をもって彼らに触れるその手は一週間ぶりのもので、いつも以上に優しいものだった。引越しを余儀なくされ、環境の変化を人の都合で強制された彼らへの労いなのだろう。
    「自分で思考し導き出さなければ意味がないだろう。ヒントがあるだけありがたいと思った方がいい」
    「君の教育方針には恐れ入るよ。そうやって言葉を使わないせいで、僕は君がくれた食事だって彼らに分けちゃってたのにさ」
    「添加物と味付けを控えめにしてあってよかったな」
    「まぁルアン・メェイの創造物だって話だし、犬猫ほど気にしなくていいとも言われてたけどね」
     おかえり、と彼らが鳴いた。思えば彼らと初めて会ったのはそれが理由だった気がする。彼が食事を彼らに与えていると知り、小さな彼らにそれは本当に問題ないかと問い、そして健康診断のためにと呼ばれたのだ。つい先日引き上げられた、彼の家に。
    「処刑ありがとう。こっちの処理もつつがなく終わったよ」
    「ふん」
     一週間前、彼の処刑がつつがなく行われた。ボタンひとつで終わるだけの簡単な仕事だ。そして、処刑された彼は彼として今、ここにいる。
    「おかえり。まずは君の名前から教えてくれ」
    「もう知ってるくせにそういうこと言うんだ?」
    「君の口から聞きたい。恋人ではなく家族になった君からな」
     美しいネオンが瞬いて、綻んで、色を孕んで。そして彼は笑った。今まで見た事がないくらいに、美しく。
     これはカンパニーの高級幹部処刑という大きな見出しになるであろう出来事の、記事にはならない取るに足らない話である。
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    k0510_o0720

    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【幸せのかたち、さよならから始まる】

    失ったものが降ってきた🦚の話
     それは、遠い昔になくしてしまったものだった。日中は熱すぎるくらいなのに陽が落ちると途端に寒くなって、そんな中で口にする薄味のスープ。具材なんてほとんどない、いっそ湯を沸かしただけといってもいいくらいのものだ。けれどそれを飲みながら過ごす日々は決して地獄なんかじゃなかった。血のつながった家族がいて、二人でそれを飲みながら他愛もない話をする。明日がどうなっているかも分からないのに、それでも確かに満たされていた。
     地獄というのならその後、そんなたった一人の家族を亡くした時から始まったものだろう。どうして生きているのかも分からない、どうして死ななかったのかも分からない。ただこの『幸運』のおかげで生きながらえていて、この『幸運』のせいでまだあのオーロラの下には行くことができなくて。でも『幸運』以外にも、一族全員の命がこの生の土台にあるのだ。だからそれを自ら手放すなんてあってはならない。そんなことをしたら、オーロラの元で再会するなんて夢のまた夢だから。そんなことばかりを考えて、死ねなくて、ずっと生き続けて。
    2790

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    DONEレイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク【賽は投げられた、カウントダウン】

    🦚が投げた賽とその末路
     ピアポイントまで戻る遠征艇の中でアベンチュリンは頭を抱えていた。いや、確かにそれの原因を作ったのは自分だけれど。だからある程度の報復というか、仕返しというか、そういうのがあるだろうと覚悟はしていたけれど。でもこれは、決してアベンチュリンの想定内には収まらない。
     どうしよう。どこかに時間を巻き戻すような奇物はないだろうか。もしくは対象者の記憶を消す薬とか方法が落ちていないだろうか。後者ならメモキーパーに依頼すれば、どうにか。アベンチュリンなんていう石心の依頼を受けてくれるようなガーデンの使者がいるとは思えないけれど。
     本当に、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。でも仕方がなかったのだ。だって今回の遠征はそれなりにリスクがあって、だからもし言わなかったらそれを後悔するんじゃないかと、思って。ピノコニーの時はまだそういう関係ではなかったから何も言わなかったけれど、今はそうじゃないからそれなりの礼儀があってしかるべきだろう。彼という人が心を明け渡してくれたのだから、アベンチュリンも同じものを差し出すくらいの気概はある。
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