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    子どもたちに囲まれてるバ王を書きたかったけどオチがつかないからここに埋めます。バ←ヴな感じ。尻切れトンボ
    ※趣味で王が人馬になってるから注意

    泥中の蓮ある日の昼下がり。隠れ家のアトリウムにきゃらきゃらと楽しげな子どもだちの声が響く。元気に走りまわる賑やかな足音と本で覚えたのだろう数え歌が混じるそこは、いまだ戦いが続く日々において平和そのものだった。子どもたちの輪の中心にいるのが、厳めしい顔をしたウォールード国王だということと、その下半身が人間でないものに変質していることを除いては。
    バルナバス・ザルム。ウォールード国王にして召喚獣オーディンのドミナント。アルテマの手先にしてかつての仇敵。幻想の塔での死闘にて人の救済のために死に逝こうとしたこの男をあの日、半ば無理やり生かした。救済への渇望は本物で、語る慟哭は真実で。死を救いとする悲しさも放ってはおけなかった。
    その身に持つオーディンのエーテルを譲渡することによって自死を図ろうするのなら、まったく同じことをすれば良い。つまりこの男の中にあるエーテルが尽きる前に自分の中にあるエーテルを逆に入れ込んだ。咄嗟の判断だったが故にふらつきはしたものの、目論見通りどうにかなかったのは幸いだった。
    そうして隠れ家に連れ帰ったバルナバスはおよそひと月は目を覚まさなかった。病床で昏々と眠り続ける男に、仲間たちは最初拒否と難色を示した。やはりといべきかジョシュアもジルも反対したし、ガブなんかはお前がやらないならと剣を持ち出す始末だった。それを毎日宥め説得して、いざという時のためにクリスタルの枷も用意した。同じ道を望んでいるのに少しだけ違うことで絶対的に分かり合えないままなんて、腑に落ちなかったから。
    そうしてタルヤ率いる救護班の看病により、ようやく目を覚ましたバルナバスはまるで別人のようだった。例えるのならば『憑き物が落ちた』だろうか。おそらくオーディンの譲渡という生涯を賭けた役目を達成したせいだろうとは思う。病床に伏せたまま「どうして生かした」と問う声にそうしたかったからだと返せば、そうかと一言呟いて。どうにか身体を動かせるまでに回復したバルナバスにかつての苛烈さはひとつもなかった。
    一切反抗の気を見せず日がなどこかの陰で茫としている男に、最初は遠巻きにしていた仲間たちも次第に警戒を解いていった。抜け殻のようになったそれには、もはや何もできないだろうと。そうしていると意外にも子どもたちが懐いた。難して読めない本を読み聞かせてほしいとせがんだら、読んでくれたのだと。 
    「おまえに掬われた命だ。盾なり餌なり好きに使え」
    生きてくれるのかと掛けた声に自嘲じみた応えが悔しかった。確かにこの男を死の淵から引きずり出したのは自分だ。そこには”クライヴ・ロズフィールド”の独善しかなく、望んでいた死を打ち砕かれたこの男にはもはや生きる意味がない。それならば、と。当人に言われた通り、バルナバスを“好きに使う”ことにした。
    ヴァリスゼアにおいて並び立つ者はいない剣の腕。ヴィヴィアンとも対等に議論を重ねる深い見識。王として重ねた経験は深く、各地にいる協力者たちから舞い込む沢山の依頼を捌くにはバルナバスの存在は助けになって余りある。もちろんあちこちに連れ回すには名が知れすぎているため出掛ける際にはフードで顔を隠し、どうしても名乗りが必要な場合はヨセフという名前を使っている。
    そうして諾々と生きるこの男を引っ張り回していたある日。急ぎで舞い込んだ強力な魔物討伐の依頼に赴いた時だった。目当ての魔物を追い込む際に発生したエーテル溜まりに進入したのが原因だった。ドミナントだから常人より耐性があるだろうといつものように短期戦を挑み、どうにか打ち倒したまでは良かった。
    依頼主のところに戻ろうと振り向いた先、ふらりと力が抜けたように倒れ込んだバルナバスを慌てて抱きとめれば尋常ではないほどに汗をかいて意識を失っていて。どうにかこうにか背負って街に戻ってきたものの、今度はのたうち回るように苦しみだしたのを見て急いで応援を呼んで隠れ家に担ぎこんだ。
    タルヤの診断ではエーテルの過剰反応、ということだった。見立てによるとバルナバス自身のエーテル保持量がドミナントということを抜きにしても異様に多く、なおかつ半分アカシア化していたことによってさらに補強されていたらしい。しかしそのオーディンのエーテルがごっそりとなくなったことによって体内でのバランスが崩れていたところにエーテル溜まりに入ったことによって一種の暴走状態になったと。
    こんな症例は初めてだからどうなるかわからない、と表情を曇らせたタルヤに頭を下げて深く謝った。何も考えず彼を頼りにした自分のせいだと。そして熱を出し息を荒らげて苦しむバルナバスを付きっきりで看病した。気を利かせたオットーが依頼ごとはこちらでやるからと言ってくれたのに感謝しつつ、やれることはなんでもやった。
    そして“それ”が表れたのはバルナバスが倒れて次の日のことだった。汗に濡れた身体を拭こうと水桶の水を新しいものに変えて医務室に戻ってきた先、低く呻きのたうち回るバルナバスを必死に取り押さえようとする仲間たちが見えて。血相を変えて自分も手を貸せば、彼の下半身がヒトのものではなく――召喚獣オーディンが乗っていたあの六つ足の魔法生物のようになっていて。
    エーテルの変質。あるいは融合。発症者がドミナントであるからこそ発現したそれは、総出で調べたどの文献にも過去の症例がないものだった。再びエーテル溜まりに行くというのも手ではあるだろうが、この状況で命を失いかねない賭けのようなことはしたくなかった。
    それからは医者であるタルヤと知識深いハルポクラテス、そしてジョシュアに原因解明に向けて動いてもらいつつ、地道に情報を集める日々が続いた。そして目覚めたバルナバスに頭を下げ謝罪しても責めることも詰ることもなく、黙したまま変わり果てた己の足をひとつ撫でただけで。
    「王さま、見て!上手にできたよ!」
    ヒトと異なる姿になってしまったバルナバスを外に連れて行くわけにもいかず、あれからずっと隠れ家にいるようになった彼にそれではと子どもたちの世話を願い出たのはハルポクラテスだった。隠れ家の子どもたちはハルポクラテスかシャーリーの二人に教鞭を取ってもらっているが、先達が増えるのは知識が偏らず良いことだとなのだという。放っておけばハルポクラテスの書庫に籠っては黙々と本を読んでいるバルナバスにとって良い刺激にもなるだろう。
    それから数日ぶりに隠れ家に戻ってきたのだが。意外にもと言ってはなんだが上手くやれているようで、今もクロが手にもった花冠を得意げにバルナバスに見せている。植物園のナイジェルたちが研究と改良を重ねたおかげで黒の一帯に囲まれていながらもこの隠れ家では果物や花、野菜などの作物が安定して採れるようになった。このアトリウムの花壇にも自分には名前も知らないようなたくさんの花が咲くようになって久しい。
    汚れるのも気にせず木床に座ったバルナバスの黒くなめらかな毛並みをした獣の身体にすっかり気を許しているのかテトは臆することなく寄り掛かっていて、本の頁を指でなぞりながら先ほど聞こえた数え歌をゆっくりと繰り返している。
    「ふむ、良く出来ている。おまえはなかなかに筋が良い」
    「えへへ。これは王さまにあげる。作り方を教えてくれたお礼!」
    「わー!王さますっごく似合ってる!」
    子どもの無邪気さとはなんと恐れ知らずなのだろうか。吟遊詩人の詩にすら讃えられ、生ける伝説とさえ恐れられるあのバルナバス・ザルムの頭の上に、絵本で出てくるような可憐な冠が恭しく乗っている。しかも当の本人はそうかと普通に返すばかりで嫌がりもせず退けずにいるのだから、胸中に形容し難い感情が生まれるのも必然で。
    人でありながらヒトならざるもの。あのまま相対していたのなら知らなかった多くの表情。その本質。過ぎる感慨に黙したまま御伽噺に出てくるような穏やかで不思議な光景を見つめていれば、こちらに気づいたテトが走り寄って抱きついてくるのを両手で受け止める。
    「おかえりなさいシド!」
    「ただいまテト。バルナバスに遊び相手になってもらっていたんだな」
    「うん!さっきはクロと一緒に王さまの身体に乗せてもらったんだ。ここでは走ることは出来ないけど、歩いてもらうだけでも楽しかった!」
    「はは、それは良かったな。羨ましいよ」
    きらきらと大きな瞳を輝かせて興奮を隠すことなく語るその口調は紛れもなく本心で。ちらりと視線をやればかち合った月白色の眸が僅かに細められて。おそらく無意識なのだろう、黒く長い尾がどこか神経質に揺れて床を掃いているのを見て思わず小さく笑みがこぼれる。目は口程に物を言うというが、あの男の場合は尾といったところか。
    そうしていると背後の階段からぱたぱたと忙しない足音が聞こえて。何事かとそちらを振り返れば軽く息を切らしたオルタンスが顔を覗かせる。
    「テト、クロ!語り部が呼んでるよ!本棚の片付けを手伝ってほしいって!」
    「「わかった、すぐいく!」」
    双子特有の調和のとれた、間延びした返事。その声に追いかけっこに興じるエメやアルトゥル、ジョスランの笑い声が混じれば安寧を形にしたような空間に眦を緩める。抱きついていたテトがくるりと踵を返し、座ったままのバルナバスに立ち上がったクロと並んで向き合う。
    「王さま、また文字を教えてね」
    「お歌もだよ!」
    「ハルポクラテスが歩けなくなる前に疾く行け、物好きども。あの御仁が腰痛で臥せることになれば此処も碌なことにならんだろう」
    「「はぁーい」」
    素っ気ない声音に含まれた諧謔にくふくふと肩を揺らして笑った双子は「またね!」と手を大きく振ってアトリウムから駆け下りていって。賑々しくもなかなかに硬いガードがなくなった隙を逃すことなく隣に腰を下ろす。ふわりと鼻腔を掠める馨しい匂いはどの花のものだろうか。
    「意外だな。あなたがそういうものを作れるなんて」
    「……若い時分に、住んでいた集落の子どもたちから教わった。自分でも覚えているとは思わなんだが」
    そっ、と。頭から下ろした花冠を撫ぜる手つきは優しく。伺い見る横顔に厭いが見られないことに内心で安堵の息を零す。さすがのバルナバスも子どもの無邪気さと破天荒さには毒気を抜かれるということか、元々面倒見の良い方だったのか。開かれたままの本を律儀に片付けてはきちりと積み重ねていく様子をなんとはなしにと眺めていれば、静かに降る声に視線を上げる。
    「今日は、なにをしてきた」
    「ああ。細々とした買い出しがいくつかと、イヴァンが『ヴァリスゼア食紀行』という本に載っているドラゴネットの肉を使ったシチューが食べたいと言っていたからその材料を取ってきたんだ」
    毎日のように入る各地にいる協力者からの依頼やどこへなにがあったのかを、こうして話して聞かせるのが日課になっていた。外へ出歩けなくなったバルナバスがあの日、同じように聞いてきたことから始まったやり取り。罪滅ぼしの一端として続けているこの語らいはいつしか日常となって久しい。
    今回はここのところ魔物料理の研究に精を出しているイヴァンの願いを受けて物資の補給も含めて魔物の肉の採取に赴いたのだが、料理長のモリーの腕もあって満足に足る出来にはなったらしい。それというのも熱心すぎる調理助手からのこういった依頼を何回か受けてはいるものの、どうにも気後れして食べるにまでは至っていないからで。他の仲間たちからも美味いという声は出てはいるがこればかりはどうしようもない。
    「ほう、ブラザートか。これまた懐かしいものを」
    「……ん?」
    さらり、と。事もなげに返された単語にふと疑問が過ぎる。確かにそのような名前の料理ではあったけれど、本に載るくらいで昨今では食べられていない料理のはずだ。
    「もしかして、食べたことがあるのか?魔物料理を?」
    「そこまで驚くことでもあるまい。魔物といえど肉なれば、資源の限られた我が国では貴重な栄養源だ。血抜きや臭み消しなど正しく処理すれば如何様にでも食い出がある」
    「……まあ、確かに」
    「むしろおまえたちのように各地を飛び回る者にこそ野営に必需といえよう」
    「……そうだな」
    まさに正論。加えて自国の自給問題の観点から言われれば文句などつけれるはずもなく。されど思わず複雑な心情が表情に出てしまっていたせいか、こちらを映す月白色の双眸が僅かに細められて。どこか機嫌良さそうにふさふさと動く尻尾が外套をいたずらに揺らす。
    「ああ、そうさな。おまえが良家の出であったことを失念していた」
    「そ、そういう意味で言ったんじゃない。ただ少し、口にしたことがないから抵抗があるだけで」
    明らかに込められた揶揄の響きに返す言葉がしどろもどろになる。こちらの心底を見透かすようなその眼差しに耐えきれずぎこちなく視線を逸らせば、不意に空気が小さく揺れて。ざあと音を立てて吹く風に色とりどりの花びらが舞う。
    「冗談が過ぎたか。そう拗ねてくれるな、クライヴ・ロズフィールド」
    するりと髪を滑っていく指先に摘まれた白い花弁。例えるのならば、まるで夜天に浮かぶ月のような。その柔らかに浮かぶ微笑みは敵対していた時には絶対に見ることの出来なかったもので。この男のこういった表情を見るたびにたとえ万人にこの選択が間違いだと責められ詰られようとも、絶対に俺は首を横に振るだろう。
    こうして隣に座り、穏やかに会話を出来ているだけで奇跡に近い。自分があの時、幻想の塔で判断を違えていたら。或いはバルナバスが自害していたら。どうにもならないのだと諦めに目を瞑っていたら。そう考えるだけで腹の底が冷え切るような気持ちになる。
    惜しむらくは、ヒトの形から歪んでしまったことで。離れていく指先を追って反射的に伸びた手が剣を握ることのなくなってしまったかさついた手を握る。驚いたように僅かに大きく開かれた瞳はひとつ瞬いて、されど拒否の言葉はなく。
    「モリーが多く作っていると言っていたから、まだあると思う」
    だから、一緒に食べよう。少しだけ喉につっかえてしまった言葉はそれでも音に成って、ふたりのあいだにぽつりと落ちる。耳朶を掠める子どもたちの笑い声はどこか遠く、少しだけ速くなった心臓の音がやけにうるさい。
    ただ、生きていてほしい。そう思うのは自分のエゴだ。救いを求めていたその手を繋ぎ留めたのも。けれどこうして、いまここに”いる”。それがどんなに幸福なことなのか、俺は知っているから。
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