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    カノジョと住所変更、その後の話。
    区役所に行って住所変更するモモカノの話。捏造まみれ。

    ##モモカノ

    カノジョと住所変更 afterモモチとカノジョは区役所に来ていた。元々は引っ越しと同日に変更手続きをする予定だったのだが、それが出来なくなり。数日、一週間、一ヶ月、それ以上が経過してしまった。いっそのことカノジョの現住所は宙に浮かせたままでも良いのでは、と思いかけたモモチだったが、流石にそうもいかない。仕方なくオフの日にカノジョを伴って区役所へとやって来たのだった。

    桜が咲く季節はとうに過ぎていたので、そこまで区役所内は混雑していない。入るとすぐに総合案内の職員が声を掛けてきた。

    「この子の住所変更をしたいんですケド」

    モモチがそう言うと職員がこちらにご記入くださいと紙を手渡した。次いで必要な書類の確認もされる。カノジョは顔写真付きの住民基本台帳カードを持っていたが、転入日から十四日以上経過しているので、カードを利用しての手続きは出来なくなるらしい。その場合転出証明書が必要になるらしく、ここへ来る前に予め郵送で転出証明書をもらっておいて良かったとモモチはほっとした。ここまで来たのにまた最初から、はごめんだ。説明を聞きつつ、モモチは記帳台で見本を参考に転入用紙を記入するカノジョを見守った。

     記入が終わると番号札を手渡される。案の定すぐに受付番号が呼ばれ、二人はブースに座った。

    カノジョが以前住んでいた市の転出証明書と今し方書いた転入届と住民基本台帳カードを差し出すと、「転入の届出ですね」と職員はパソコンに打ち込みを始めた。少しすると、作業していた職員が「あの」と切り出す。

    「こちらの新しいご住所ですが……」

    察したモモチが口を挟んだ。

    「あ~、ボクと一緒の住所です」

    「そうでしたか。こちら、世帯はご一緒にされますか」

    「せたい」

    「ええ。失礼ですが、もしご結婚される予定がございましたら、ご一緒の世帯がよろしいかと」

    「けっこん」

    「市役所での手続きは不要ですが、もしご結婚されるのであれば、世帯をご一緒にすることで配偶者様の扶養に入ることも出来ます」

    「ふよう」

    流れるような説明になすがままになっていたモモチだが、隣のカノジョが期待するようなキラキラとした目でモモチを見つめているのに気づき、はっと停止していた思考が動き始めた。

    「イエ、結婚する予定はないので、世帯は別々でお願いします~」

    「結婚する予定はない」の箇所に、勘違いするなと特に力を込める。カノジョが寂しそうに目線を下げるのを見ていい気味だと思ったが、ここは区役所だった。こんな言い方ではその気がないのに同棲だけするクズのようにも取られかねない。職員の目が気になり愛想笑いを続ける。

    「今のところ予定はないので、大丈夫ですぅ」

    言葉を和らげると、途端にカノジョがぱあっと明るい笑顔を向けてきた。いや違うから。職員へのカモフラのためだから。そろそろ笑顔が引き攣ってきた。

    手続きを終えたらしき様子で職員がこちらへ向き直る。

    「ではこちらで転入のお手続きは終了となるのですが……」

    申し訳なさそうに眉を下げ職員は続けた。

    「お引っ越しの後しばらく住所変更のお手続きをされてなかったようですので……国民健康保険料や国民年金保険料が滞納状態になっておりまして」

    「ハァ!? えっと、ハイ」

    思わず大声が出たのも無理はないと思う。

    何やってんだよとモモチは眉間に青筋を立ててカノジョを見た。

    両手を握りしめながら、どうしよう、とカノジョは縋るようにモモチを見た。

    「違う課でもお手続きが必要になりますので、また同じ番号でそちらからお呼びしますね。おかけになってお待ちください」




    「モモチくん、ごめんなさい」

    「帰ったらお仕置きだから」




     二人で大人しくイスに座る。「口座振替にしておけよ!」「滞納するまで気づかなかったなんてことある?」といくつも突っ込みたいところを我慢した。無言のままの二人の間に、重苦しい空気が流れた。他に待っている人数が多い訳でもないのに、モモチには次に呼ばれるまでの時間がいやに長く感じられた。




    カノジョから帰る場所を奪うために、元から住んでいたアパートは早々に解約するつもりだった。が、住所変更については深く考えていなかったのがモモチの正直な所だ。




    いつまで一緒にいるかなんて分からない、だけど。

    一時的にでも、どんな理由があったにせよ。

    今の自分と同じ住所にした女はカノジョが初めてだ、とぼんやりモモチは思った。

    調子に乗るから、言ってやらないけど。
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