傷落ちの雄花~①~◇◇◇二人が出会ったのは…奇跡か、はたまた運命か◇◇◇
「筆が、なかなか進まなくてな…。」
「先生、お言葉ですが、あの…本当に《筆を進める》という意志はお有りなんですよね?」
「う~ん、君が女性であればな…」
「はい?」
おそらく大学生であろう、『先生』と呼ばれている人物より二、三年下と見えるこの生真面目さが顔に出ている男は、前に編集を担当していた井田の息子である。何やら唐突に「日本以外の広い世界を知りたい!」と言い出し「次から仕事は俺の子に頼むことにする、よろしくな、先生!」と言われたのはつい先日。当の青木は井田の事を相変わらず自由奔放だなとも思ったが、新たな出会いを楽しみにもしていた。なのに…てっきり年頃のおなごが来ると思いきや、玄関前には学生服に身を纏った、背の高い男…。
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