FB2以前 脱獄まであと○日 体中をがんじがらめにする、包帯に似た拘束具のまま、グリンデルバルトは部屋の中を浮遊している。
水の中に棲む生き物が長大な体躯を潮の流れに遊ばせているかのような鷹揚さで。
真白く塗られてこの空間を六角の部屋に成す壁はあらゆる魔法を阻み、閉じ込める魔法障壁だ。
グリンデルバルトは目を閉じている。ハンモックに揺られて午睡をむさぼるようなその顔には、虜囚としての憔悴はまるでない。
ただ、放置されていた。
尋問にあたる者が取り込まれては困ると、MACUSAはグリンデルバルトを捕らえても、ただ水槽に入れた魚を眺めるようにしか彼に関わることはできないでいる。
パーシバル・グレイブスが保安局長官として在ったMACUSAならば、現在の魔法界に おいて闇の王たる男をただ捕らえたままでいることはしなかっただろう。
だがグリンデルバルトは捕らえられた時、『パーシバル・グレイブスだった』。
いかなる顛末においてか、この国きっての闇祓いの先鋭であったグレイブスへ、闇の王はすり替わっていた。
MACUSAのみならず、魔法界はこのニュースに震撼した。
これは厳正で強固であった魔法法執行部の失墜であり、グリンデルバルトという男の力が誇示されて、彼への静かな畏怖を広めることとなった。
グリンデルバルトが捕らえられて、グレイブスの身を転写していた魔法が解けた時、MACUSAの本部塔では中央の柱が激震した。
その空間に一点、黒いしみのように男が浮かんだ。