たゆたう水面簡単なクエストだった。マスターによる素材集めの招集。面倒な任務だが、マスターの命令には従わなければない。それがサーヴァントなのだから。
取るに足らない任務。だから、油断した。なんの言い訳もできないぐらいの失態。全く、程々自分に呆れる。
エネミーの攻撃を避けきれず、湖に落ちるとはなんとも無様だった。水中で、ぼやけた視界から彼の宝具が展開されるのを眺める。青白い光が敵を照らし、弱体化する。嗚呼、暴力的に美しい光景。敵が倒され、消滅していく様が窺える。
「ゲホッ」
手で口を覆い、何度か咳き込む。水分を十二分に含んだ衣服は重い。
「.......なにかな」
陸からじっと観察する瞳が私を射抜いている。
「キミにしては珍しい。油断したね」
「.......その通りサ、稀代の名探偵」
わざわざ指摘するとは、なんともいい趣味だ。ジトリと彼の瞳を見つめ返せば、その瞬間にぞわりとした感覚が、全身を走る。ヒュッ、と喉が閉まり、心臓がバクバクと鼓動する。なぜ、なに?
「落ち着きたまえ」
濡れるのも構わず、彼の手が両目の上に添えられる。手袋越しに彼を感じる。
「ここはあの滝ではない。キミは未だ経験はしていない。想像で追体験をする必要はない」
そっと目隠しの代わりをしていた掌が離れていく。
「条件が悪かったんだろう」
「条件.......?」
「水辺に落ちたキミ、傍にいる私、この二つの要素が揃えば条件付けには十分さ」
ふふ、と楽しげな微笑みを向けられる。
「キミ達はあの滝からは逃れられないのだね」
愉快そうに耳元で囁かれ言葉に、苛立ちを覚える。傲慢なセリフだ。私達はあの滝から、シャーロック・ホームズという毒からは逃れられない。
「あなたもそうなのでは?」
手を伸ばせば、するりと躱される。少し苛立ちを覚える。
「早くあがりたまえ。霊体化すれば、ずぶ濡れの状態は解消される」
背を向けて歩き出す姿は、此方に興味が無い事を物語っていた。
どこまでも腹立たしく、美しい男だ。