ギムレットと共に盛況だったBAR 蜘蛛の巣も閉店の時間がやってきた。青髪の少年はぶつくさと文句を言いながら、粗方の片付けを終えた。後は自分ですると告げ、少年を店から送り出した。今は後夜祭に参加している頃合だろうか。
昼間とは違い、人の気配がまるでない。今はジャズの音さえ虚しさを演出する。
……実の所、後夜祭に参加してもよかったのだ。片付けなど後からでも十二分に間に合う。ただ、昨年とは違い、あの男が居ない。この時期には浮ついた様子で、バイオリンの音色を響かせた男はいない。
「……」
残ったジンとライムを取り出し、シェーカーに氷とそれらを入れて、振る。出来上がったものをグラスに注ぐ。
「乾杯」
キミにしては随分、感傷的だね、なんて嫌味な男の声が聞こえた気がした。もちろん、幻聴だと自覚はしているサ。だか、今はその幻聴が心地よく、浸っていたかった。
祭りは終わり、日常が戻ってくる。お前がいない日々がまた始まるのだ。
そんな無慈悲な事実を噛み締めながら、天井を眺め続けた。今はまだ、日常と切り離された空間に取り残されたい気分だったのだ。