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    kouyamaki

    2020年5月、自粛で漫画を読み『秘密』の薪さんと青木にはまる。現在は書いてみたものを投下中。2次創作は素人。

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    kouyamaki

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    pixivに上げていた「読み切り」シリーズ。薪さんと青木が鈴木の墓参りで、偶然雪子に会う話。同じく、pixiv に上げた「青木の持ち込み」シリーズの「体重計」、「真冬物語」シリーズの「緑のガーネット」の続きのような話。

    #秘密
    secrets
    #薪剛
    Maki Tsuyoshi
    #鈴木克洋
    katsuyoSuzuki
    #黒田雪子
    yukikoKuroda
    #青木一行
    Aoki Ikkou
    #青薪
    AoMaki
    #鈴薪
    suzukiSalary
    #腐向け
    Rot

    かはたれの 彼は誰時、薪と青木は鈴木の墓を訪れた。新品の雑巾を持ち込んだ青木が手早く墓石を拭いてくれた。
     こういう時、デカくて手足の長い奴は妙に便利だな。薪はぼんやり思った。
     青木とここに来るのは2度目だ。
     前回同様、薪の方が緊張している。青木は薪より一歩下がって、静かに目を閉じて鈴木に手を合わせてくれている。
     生きている間の鈴木に、薪は自分の想いを伝えたことはない。
     それが何故、今の薪は青木をここに連れて来たのか。
     むしろそれこそが、薪の鈴木への気持ちを現している。
     鈴木が好きだった。
     こんな形で、18の頃からの長い片想いを鈴木に打ち明けてしまうことになった。
     前回来た時もそうだったが、恥ずかし過ぎる。
     鈴木に伝えるべき想いは沢山あるのに。薪は羞恥に小さくなった。
     むしろ鈴木には、この間抜けさを大笑いされているだろうか。
     苦しい恋だった。それでも何よりも、薪と鈴木は18の頃からの親友だった。同志だった。
     同じ青春を走った。同じ夢を走った。
     それがどんな愛情でも、鈴木が薪に寄せてくれた想いに嘘はない。だから、鈴木に感謝すれど、苦しい恋をうらんだことなど一度もない。
     そして、一つ腑に落ちる。想いを伝えられなかったのと同時に、想いを伝えなかったのもまた、やはり薪自身の選択だったのだ。
     そして、青春も夢も永遠になった。

     鈴木、すまない。
     僕は天国に行けないと思う。それだけのことをした。あの世とやらでお前に会えるかわからない。
     だから、僕は来年も、再来年も、僕が死ぬまで毎年必ずここに来る。お前に会いにここへ来る。
     青木も一緒だ。
     そして、僕が死んで来られなくなったら、一人でも青木をここへ来させることになっている。
     おかしいだろ。
     青木はお前とは会ったこともないのに、僕よりお前のことを忘れることはないんだ。
     だから、こいつが生きている限り、この世でお前が誰からも忘れられることはない。
     すまない。
     でも、お前を2度死なせたくないんだ。

     「行くか。」
     薪の方から声をかけ、薪と青木は帰途についた。

     「あ。」
     声を上げたのは青木だった。
     「雪子さん…!」
     雪子は狭い通路をニッコリ笑ってこちらに近づいて来る。
     すれ違うしかないタイミングだ。薪は思い切ってつかつかと歩き出し、軽く会釈して雪子とすれ違おうとしたが、雪子は迷いなく薪の腕を掴んだ。
     「お久しぶりです。雪子さん。」
     薪の後を一歩遅れてきた青木は、嬉しそうに雪子に軽く頭を下げる。雪子も笑顔を返す。
     「青木君。元気そうで何よりだわ。今日は出張?」
     この2人は不思議なほどにわだかまりがない。薪はいっそ呆れてしまう。
     そもそも、鈴木の命日に鈴木の前に現れた薪と青木、という組み合わせに、雪子は何の不思議も違和感も持っていない。薪と青木の仲は詮索するまでもないといった態度だ。
     「いえ。このまますぐに飛行機で帰るんです。」
     青木は元気に答える。姉と弟とでもいったやりとりだ。
     「そう…そこに停まってたのは青木君達の車ね。ちょっと待ってくれる?」
     雪子は、すぐにスマホでメッセージを送る。
     「旦那には結婚式で会ったことあるわよね?正門で車を停めて待ってくれているの。今、先に青木君を羽田に送ってくれるように頼んだわ。私は剛君に送ってもらうから大丈夫よ。」
     「いいんですか?それ助かります!」
     青木は雪子に丁寧に礼を言うと、実に軽く薪に挨拶してさっさと先に行ってしまった。
     薪は心の中で青木に悪態をつく。この薄情者め!
     「…行きましょう。」
     雪子は当然とばかりに振り返りもせず、鈴木の墓に向かって歩き出した。薪がついて来るのを全く疑っていなかった。
     
     雪子と一緒に鈴木の墓の前に立つのは初めてだった。青木と一緒よりさらに緊張する。薪は一歩下がってもう一度丁寧に手を合わせた。

     薪も雪子も分かっている。
     鈴木は喜んでくれているに違いない。

     薪と雪子の2人は、鈴木を想うことについては、ある意味同志のような間柄でもあった。

     雪子が鈴木を独占しようとしていれば、雪子と薪の2人はもっと分かりやすい関係だったのかもしれない。
     だが、雪子は複雑な想いから、鈴木は基本的に友情から、薪を排除する気がなかった。
     もし雪子が男だったなら。雪子は鈴木と同じように、ただ薪について行きたかったのだ。
     それは本来、ささやかな憧れで済むはずだった。
     雪子も最初からわかっていた。どんなに惹かれたとしても、いつか母になりたいと願う自分の薪への気持ちには、必ず終わりが来る。
     それなのに。
     薪は強烈な存在だった。
     枯れ木の薪どころじゃない。燃え上がる炎のように美しい。
     雪子は火に飛び込みそうになるのを必死にこらえる夏の虫だった。
     雪子がそうして薪に惹かれてしまうことを、鈴木もわかっていた。
     自分も同じだったからだ。

     それでも、3人ともいつかはそれぞれの気持ちの落ち着き所があったはずだった。
     雪子は鈴木の子の母になり、形は変わっても、鈴木は生涯薪を愛し守り続けただろう。
     そしてどんなに辛くても、薪は2人との新しい関係を最後は見つけられただろう。
     何より、鈴木が生きてさえいれば、薪と鈴木が結ばれても、鈴木と雪子が結ばれても、最終的に問題は無かったのだ。
     
     雪子は淡々と立ち上がる。
     連れ立って出口に向かいながら雪子は言った。
     「お墓参りは旦那の勧めよ。一年に一度くらい思い出してやれって。私、今日はこれから日帰り出張で、いつものシッターさんに子供を預けられたから、出かける前に来たかったの。でも来年からは、剛君達の時間に被らないよう気をつけるわね。」
     「旦那さん、度量の広い方なんですね…」
     薪は少々嫌味を込めたつもりだった。
     「そういう男じゃなかったら、結婚してないわ。」
     雪子は意に介せずきっぱり言った。彼女の夫は彼女が選んだ男だ。
     「だから、克洋君を2度は死なせないわ。」
     雪子は薪と同じことを言った。

     雪子は自分の結婚を鈴木の両親に伝えた時、今後も年に一度の墓参りだけはさせて欲しいと申し出て、快く受け入れられたという。
     いつかそれが途絶えてもうらみはしない。来られる限りは来て欲しいと。
     「美波さんにお子さんが生まれたのが、大きかったみたいね。お2人とも、大分心境が変わったと仰っていたわ。私、今でも美波さんとはたまに連絡を取っているの。」
     鈴木は雪子と付き合い出してすぐに、妹の美波を雪子に紹介していた。それまでになかったことで、薪にはすぐわかった。
     付き合うことになった時点で、鈴木は雪子と結婚するつもりだったのだ。
     雪子と美波の2人は、鈴木を抜きにしてすぐに親しくなった。
     『あいつら2人とも姉妹が欲しかったらしいんだ。結託されたら今から全く敵わなそうだ。』
     鈴木はボヤいていた。
     雪子より薪の方が鈴木との付き合いは長い。18歳からの鈴木の歴代の彼女は全員知っている。
     彼女達は皆頭が良く、薪から鈴木を独占しようとした瞬間、振られるのは自分だとわかっていた。
     雪子はその辺は案外可愛らしかったのだ。薪への憧れもあるが、最初から打算抜きで薪を受け入れていた。
     雪子は鈴木が選んだ中では最もタフで、そして何より情に厚い。
     雪子は勿論、鈴木が薪に惚れ込んでいるのを知っていたし、嫉妬もした。だが、女性としての自分がちゃんと鈴木から愛されているかを疑うほど、了見は狭く無かったのだ。
     薪もまた、鈴木の自分への愛を疑ったことはないのだから。
     
     「青木君は気を利かせてくれたわね。」
     雪子は笑う。
     鈴木の死後、薪は鈴木の家族から完全に拒まれた。鈴木を偲んで思い出話をする相手も薪にはいない。複雑とはいえ、雪子は唯一思い出話ができる相手だ。
     だが、薪の立場も変わった。雪子は今も同じ科警研内で働いているとはいえ、普段顔を合わせることはほぼない。
     命日にそれでは、鈴木が寂しがるだろう。
     青木が考えそうなことだ。
     「青木君はいい男よ。短い間だったけど、彼と付き合ったことに後悔はないの。でも、青木君はあれでなかなか残酷な男なのよね…私は彼とはさっさと別れて正解だったわ。」
     鈴木、雪子、薪よりずっと年下なのを、青木は随分悔しがっていた。でも同じように、どんなに好きでも青木を待てる程若くないことは、雪子には辛い事実だった。
     「残酷、ですか…そうですね。」
     薪も頷く。
     「何か言われたの?」
     雪子は興味深そうに薪に尋ねる。
     「舞のために僕を選ぶと。」
     墓地の狭い通路で、雪子は転びそうになった。墓に失礼があってはと、少々不本意ながら今度は薪が手を伸ばして雪子の腕を掴み、転倒を防いでやる。それでも雪子の足元は2~3歩ふらついた。
     「私、克洋君と剛君が羨ましくて、男になりたいって随分思ったけれど、今!心底!女に生まれて良かったと思ったわ!!!」
     雪子と青木が結ばれていたのなら、勿論雪子は必ずや舞を愛し守っただろう。犠牲も厭わなかったはずだ。青木もそれを疑ったことはないだろう。
     だからこそ、雪子が青木と舞のために何かを犠牲にすることを、青木は絶対に許さなかったのだ。
     青木はそういうところはむしろ古臭い男だ。どうしても、女性に犠牲を求めることはできない。
     だが、舞を守る同志に青木は薪を選んだ。
     薪ならば命をかけてでも必ず舞を守る。
     青木はむしろ薪の犠牲を、薪の全てを欲した。
     薪が男だからだ。

     雪子はむしろ義憤にかられる。
     「剛君!本当にそれでいいの???今からでも遅くないわよ!他にもっといい人いないの???」
     とはいいつつも。雪子もわかっている。薪はそういう残酷な男に惚れたのだ。青木にどこまで自覚があるかわからないが、多分、青木が思うよりずっと深く、薪は青木を愛している。
     「…青木君が剛君のパートナーになったことを、むしろ克洋君は心配しているかもね。青木君には剛君を任せられないって。」
     「雪子さん、僕と鈴木は決して…」
     「わかっているわ。でも、克洋君が剛君に惚れ込んで…剛君を愛していたのは事実よ。それはよくわかるの。私も剛君が好きだったから。」
     そして薪には、雪子の想いが理解できなかった。雪子に辛くあたった。仕方の無いことだった。
     気持ちが揺れ動いてしまうような恋を薪は知らなかった。薪の恋はただ真っ直ぐだった。

     「でも…克洋君と私、剛君が好きでも、最後は2人とも剛君に振られたでしょうね。」
     薪を想うことについては、雪子と鈴木はある意味同志でもあった。
     そして。どちらかを選んで欲しいと2人から迫られたら。
     薪はやっぱり、鈴木の気持ちも雪子の気持ちも受け入れなかったのだ。 
     「だから…剛君に克洋君以外の相手が現れたのは当たり前なのよね。でもそれがまあ、あんな男とは!」
     強く、優しく、残酷な男。

     雪子と鈴木の好みは似ていた。
     そして、薪と雪子も好みは似ている。
     
     薪が最も知りたかったであろう、鈴木の両親と妹の近況を、雪子は手短に話してくれた。
     薪も知っているが、鈴木の妹の美波は医師だ。今でも雪子と付き合いがあるのは、同業者というのもあるのだろう。
     『優秀な女子は東大受験じゃなくて、どうしてこうも医学部受験を騒がれるかねえ…』
     好きな道より仕事になる道。
     妹がそういう決めつけで苦しめられないか、まだ大学生の鈴木は心配していた。自分と同じように、妹にも好きな道を進んで欲しかったのだ。
     中学、高校の頃の鈴木も、周囲からどうして医学部を志望しないのかと聞かれて、うんざりしていたというのは薪も知っている。実際、理Ⅲにも受かっただろう。
     幸い、鈴木の妹の美波は好きな道として医大に進み、医師になった。
     そして彼女は今、臨床を経て地元自治体に入庁したという。事実上のヘッドハンティングだ。局長、技監間違い無し。早速辣腕をふるっているらしい。
     「美波さんには政治的なセンスがあって、官僚的な仕事もできるの。なんだかそういうところは克洋君にそっくりなのよね。いずれは教える立場について欲しいわ。」
     雪子は自分の妹の自慢をするようだ。
     「それに、遅くなったけど頑張ってもう一人産みたいんですって。今度は男の子がいいって張り切ってるわ。」
     雪子は微笑む。
     政治センス。妹が鈴木に似ているという話に薪も頷く。鈴木は現場捜査官としての適性と、組織の官僚的なセンスを持ち合わせていた。その点は、薪より余程将来を嘱望される人材だったのだ。
     「お義父様…克洋君のお父さんとお母さんは、お仕事からは完全に引退されたわ。お2人とも、体の続く限りは山歩きを続けたいそうよ。」
     鈴木のアウトドア趣味は、そもそも始まりは両親から受け継いだものだった。
     薪は鈴木と一緒に、結構な標高の水場でコーヒーを飲んだことがある。むしろコーヒーのために、その汚染されていない水場まで上がったのだ。
     薪がハンドミルを回して豆を挽き、鈴木がジェットボイルにコーヒープレスで淹れてくれた、一杯のコーヒー。
     忘れられない。今でも人生で最高の一杯だ。
     
     薪は雪子を寺の最寄りの駅まで送る。雪子はそのまま電車で新幹線の駅へ向かう。
     「青木君が嫌になったら別の相手を探すのよ!」
     雪子は清々しく言い切った。
     
     これからも、科警研で顔を合わせることはあるわね。
     雪子は別れ際にそうも言ったが、それもあと僅かの間だろう。
     雪子も後進を育成する立場に就くべきだ。いずれどこかの法医学講座に招かれるだろう。そして薪も、そろそろ別のポジションに移るタイミングだろうか。
     薪はふと空を見上げた。青木の飛行機は飛び立っただろうか。
     今日も1日暑くなりそうだ。









    おまけ

     青木が正門に来ると、止まっていた車の窓からにょっきりと逞しい男の腕が出てきて、青木にひらひらと手を振って合図した。
     さあどうしようか。青木は考える。最初から雪子の夫に送ってもらう気は無かったのだ。薪と雪子が話す機会を邪魔したくなかっただけで。
     「あの…」
     青木が運転席側に回って声を掛けようとすると、雪子の夫はさっさと乗れと言わんばかりに、後部座席のロックを外した。雪子の夫は180cm超えの猛者だ。青木より遥かに力がある。組んだら一瞬で投げ飛ばされるに決まっている。青木は大人しく従うことにした。
     「はい…」
     居心地悪く、青木は後部座席に収まる。隣にはチャイルドシートが装備されている。
     「狭いだろうが我慢してくれ。」
     暖かい声だった。青木はすぐに同じ父親として通じるものを感じた。
     「いえ…あの…お子さん、チャイルドシートでぐずりませんか?うちの娘は慣れるまで大変だったんです…」
     「うちのチビは最初から平気だったんだ。肝がすわっている。」
     その辺はあいつに似たようで助かっている。
     雪子の夫は小さくのろけた。
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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #10「悪行」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    季節感はフィクションです。ネモフィラと球根生産のチューリップがまだ同時に咲いているような、4月下旬~5月上旬のイメージです。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。最後まで書くのが目標です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #10「悪行」光が残した絵のキリンのガントリークレーンは、5基になっていた。









     去年の暑い夏は光を苦しめた。暑くなる前に海で眠らせてやりたいと青木の母は言う。
     どんたくが終わってしまえば福岡は初夏だ。どんどん気温が上がる。梅雨に入れば湿気も重くうっとおしい。
     49日までまだあったが、青木も舞も散骨に賛成した。49日といっても、生前の光の希望で宗教的な葬儀は一切執り行っていない。青木家3人と薪で小さな骨を拾った。
     船を出してくれる葬儀社や、付き合いのある生花問屋の伝手で、青木の母は大量のチューリップの花びらを用意することにした。球根生産のための、花摘みの最後の季節だったのだ。
     かつて散華と名うって、100万枚のチューリップの花びらをヘリから地上に撒いてみせた前衛いけばな作家がいた。
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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #9「悪計」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    福岡の土地勘無しで色々フィクションで書いています。おかしな点が多々あると思います。お目こぼし頂ければ幸いです。

    この話では季節はまだ冬です。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #9「悪計」 青木はクリスマス時期に取った休みを、予定通り消化しきれなかった。
     例年12月下旬に固まる予算案の決定がずれ込み、年越しとなった。来年度中は諦めていた分の研究計画予算をどさくさに紛れて計上すべく、青木は休みを切り上げて霞が関へ向かった。
     ここにきて、新しい省庁の設置が見込まれている。そこに新たな権益を確保すべく、警察庁もこどもに関する行政に急に積極的な姿勢を見せている。
     利用できるものは利用する。
     警察官僚出身の政治家へのレクチャーは、秋にミドリのもとを訪れた件の児童精神科医が協力してくれた。彼の計画への参画もほぼ確実となった。
     立場上、青木はミドリやつばき園の子供達には直接何もできない。せめてできるのは、子供達のその後を長期に渡って追う、この新たな研究計画を軌道に乗せることだ。
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