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    kouyamaki

    2020年5月、自粛で漫画を読み『秘密』の薪さんと青木にはまる。現在は書いてみたものを投下中。2次創作は素人。

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    kouyamaki

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    pixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #9「悪計」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    福岡の土地勘無しで色々フィクションで書いています。おかしな点が多々あると思います。お目こぼし頂ければ幸いです。

    この話では季節はまだ冬です。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。お付き合い頂ければ幸いです。

    #秘密
    secrets
    #薪剛
    Maki Tsuyoshi
    #青木一行
    Aoki Ikkou
    #青薪
    AoMaki
    #薪さん
    Maki-san
    #須田光
    hikaruSuda
    #腐向け
    Rot

    #9「悪計」 青木はクリスマス時期に取った休みを、予定通り消化しきれなかった。
     例年12月下旬に固まる予算案の決定がずれ込み、年越しとなった。来年度中は諦めていた分の研究計画予算をどさくさに紛れて計上すべく、青木は休みを切り上げて霞が関へ向かった。
     ここにきて、新しい省庁の設置が見込まれている。そこに新たな権益を確保すべく、警察庁もこどもに関する行政に急に積極的な姿勢を見せている。
     利用できるものは利用する。
     警察官僚出身の政治家へのレクチャーは、秋にミドリのもとを訪れた件の児童精神科医が協力してくれた。彼の計画への参画もほぼ確実となった。
     立場上、青木はミドリやつばき園の子供達には直接何もできない。せめてできるのは、子供達のその後を長期に渡って追う、この新たな研究計画を軌道に乗せることだ。
     それが青木のやるべきことだ。
     それでも、施設に匿名で何かプレゼントくらい贈れないものか。青木はクリスマス前についついそれを施設に問い合わせて、その回答に自分の勉強不足を深く恥じていた。
     例えばミドリの児童養護施設は、慰問やボランティアやモノでの寄付を、匿名でも記名でも一切受け付けない。
     困難に見舞われている子供達が、その上さらに感謝することを強制されて、尊厳を傷つけられないためだ。
     守られるのは子供の当然の権利だ。
     これは里親家庭でも同様である。子供を養育したいという里親側の欲求が先行して、子供の自尊心を傷つけていいわけがない。
     自尊心。つばさ園の子ども達が何よりも取り戻すべきものだ。
     
     霞が関に向かう青木を、光は迷わず笑顔で送り出した。だが、舞と青木の母は完全に納得はしていない様子だった。
     薪は青木に頼まれて当初の予定通り滞在し、そのあたりをフォローした。
     そもそも、光の世話に男手があることを前提に、光を帰宅させたのだ。薪は青木ほど逞しくはないが、男性なりの力はある。我慢強く舞の相手もする。
     薪は青木の母には随分感謝された。
     そして薪は光に頼まれて、光の写真を撮った。
     その後薪は東京に戻り、青木は福岡に戻り、光は病院に戻った。
     これが光の最後の帰宅となった。

     その後も青木は何かと忙しく福岡と東京を往復した。
     病院の光は淋しいなどとは一言も言わなかった。
     光は少しでも長く生きることを自らに課した。
     青木が言ったのだ。光は治るのだと。せめて残された時間の分だけは、光自身がそれを証明する。
     光が罰として、最後の日々を病院で淋しく苦しめばいいという問題ではない。
     だが、光がどれだけ悔い改めても光が殺害した人間は蘇らない。
     青木は罪と向き合う光の最後の日々に寄り添うが、光の罪を許す立場にある訳ではない。
     光が最後引き受けたものを、青木は見守るしかない。

     青木の母は、頻繁に出張する息子を詰りたい気持ちを黙って堪えた。詰ったとしても、光を長らえさせることはもうできない。
     舞はピアノを弾く時間が増えた。
     助言もあったらしい。
     光の病院は入院中の光だけでなく、残される青木一家も含めた包括的な心理ケアを行ってくれている。
     子供の難病は、同じくまだ子供であるはずの姉妹兄弟を非常に苦しめる。
     舞の立場はそれに相当する。
     舞は賢く思いやりのある子供だ。だからこそ大人に甘えられない。青木も青木の母ももちろん心を砕いてはいるが、専門家の支援を受けられるに越したことは無い。
     舞と直接ビデオ通話するようになっていた薪は、自然と舞の話を聞くようになった。そのために早く帰宅するようになった。
     舞が話すのは、光の見舞いと他愛もない毎日の出来事だ。
     妹か弟が欲しいと散々両親にねだっていたことを、薪は思い出す。
     妹のいる鈴木がちょっと羨ましかったことも思い出す。
     そして、薪は独り戦いた。
     自分だけが生き残ってしまったことへの罪悪感。いつか間違いなく舞もそれを感じるのだ。いや、もう感じているのだろうか。
     父母を殺され、舞は九死に一生を得た。
     そして光も逝ってしまう。
     舞には何の責めも無いのに、生き残ってしまったこと自体を罪悪に感じてしまう。
     青木が姉夫婦に感じるように。
     薪が両親に、鈴木に感じるように。
     青木と薪はその時、舞を守ってやれるだろうか。

     光はガントリークレーンのキリンの絵を何とか描き続けていた。
     光の病室から見える博多港のガントリークレーン4基のうち、3碁はキリンの柄に塗装されている。残りの1碁の塗装は春から始まる予定だ。
     春が楽しみだと光は最後まで言っていた。

     その明け方、iPhoneがコーヒーテーブルの上で震える音が、しんとした所長室に響いた。
     今冬最後だろう。寒波と大雪で多くの捜査員、職員が帰りそびれ、そのまま科警研に泊まりこんでいた。
     所長室のソファで毛布を被っていた薪は画面を確認する。青木からの着信だった。
     そうか
     鳴っているままのiPhoneを手に取り、薪は窓際に近づいた。指先で隙間を開くと、ブラインドの向こうに灰色に光る屋根が連なっている。雪が屋根に積もっている。
     そのさらに向こうの空はまだ暗い。
     なのに。
     拒んでも拒んでも、すぐに世界は明るくなってしまう。
     暴力的なまでに明るい朝。
     今朝は雪もあって、真っ白な朝になるだろう。

     両親の復讐を誓った日にも。
     復讐が果たされた日にも。

     最愛の人を撃ち抜いた日にも。
     ヘリで墜落しそうになった日にも。

     「あなたが好きです」と言われた日にも。

     新しい朝。
     真っ白な朝。

     自分にやってくるこの朝の訪れを止められるのは、自分の死だけだ。
     いつか薪の命も必ず尽きる。
     その日はきっと、こんな朝のように勝手にやって来るのだろう。

     薪がその日を自分で選ぶことはできない。
     薪が選ぶことができるのは、その日を、その時を、誰を想って迎えるかだけだ。

     自分と光は、青木の愛を争う兄弟のようなものだった。

     最後の様子は聞かずともわかる。
     光は穏やかに逝ったのだ。青木が傍にいたのだから。
     ただ安らかにその日をその時を迎えたのだ。

     薪は画面をタップして青木の通話を受けた。





     光が残した絵のキリンのガントリークレーンは、5基になっていた。




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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #10「悪行」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    季節感はフィクションです。ネモフィラと球根生産のチューリップがまだ同時に咲いているような、4月下旬~5月上旬のイメージです。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。最後まで書くのが目標です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #10「悪行」光が残した絵のキリンのガントリークレーンは、5基になっていた。









     去年の暑い夏は光を苦しめた。暑くなる前に海で眠らせてやりたいと青木の母は言う。
     どんたくが終わってしまえば福岡は初夏だ。どんどん気温が上がる。梅雨に入れば湿気も重くうっとおしい。
     49日までまだあったが、青木も舞も散骨に賛成した。49日といっても、生前の光の希望で宗教的な葬儀は一切執り行っていない。青木家3人と薪で小さな骨を拾った。
     船を出してくれる葬儀社や、付き合いのある生花問屋の伝手で、青木の母は大量のチューリップの花びらを用意することにした。球根生産のための、花摘みの最後の季節だったのだ。
     かつて散華と名うって、100万枚のチューリップの花びらをヘリから地上に撒いてみせた前衛いけばな作家がいた。
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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #9「悪計」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    福岡の土地勘無しで色々フィクションで書いています。おかしな点が多々あると思います。お目こぼし頂ければ幸いです。

    この話では季節はまだ冬です。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #9「悪計」 青木はクリスマス時期に取った休みを、予定通り消化しきれなかった。
     例年12月下旬に固まる予算案の決定がずれ込み、年越しとなった。来年度中は諦めていた分の研究計画予算をどさくさに紛れて計上すべく、青木は休みを切り上げて霞が関へ向かった。
     ここにきて、新しい省庁の設置が見込まれている。そこに新たな権益を確保すべく、警察庁もこどもに関する行政に急に積極的な姿勢を見せている。
     利用できるものは利用する。
     警察官僚出身の政治家へのレクチャーは、秋にミドリのもとを訪れた件の児童精神科医が協力してくれた。彼の計画への参画もほぼ確実となった。
     立場上、青木はミドリやつばき園の子供達には直接何もできない。せめてできるのは、子供達のその後を長期に渡って追う、この新たな研究計画を軌道に乗せることだ。
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