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    kouyamaki

    2020年5月、自粛で漫画を読み『秘密』の薪さんと青木にはまる。現在は書いてみたものを投下中。2次創作は素人。

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    kouyamaki

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    pixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #10「悪行」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    季節感はフィクションです。ネモフィラと球根生産のチューリップがまだ同時に咲いているような、4月下旬~5月上旬のイメージです。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。最後まで書くのが目標です。お付き合い頂ければ幸いです。

    #秘密
    secrets
    #薪剛
    Maki Tsuyoshi
    #青木一行
    Aoki Ikkou
    #青薪
    AoMaki
    #薪さん
    Maki-san
    #須田光
    hikaruSuda
    #腐向け
    Rot

    #10「悪行」光が残した絵のキリンのガントリークレーンは、5基になっていた。









     去年の暑い夏は光を苦しめた。暑くなる前に海で眠らせてやりたいと青木の母は言う。
     どんたくが終わってしまえば福岡は初夏だ。どんどん気温が上がる。梅雨に入れば湿気も重くうっとおしい。
     49日までまだあったが、青木も舞も散骨に賛成した。49日といっても、生前の光の希望で宗教的な葬儀は一切執り行っていない。青木家3人と薪で小さな骨を拾った。
     船を出してくれる葬儀社や、付き合いのある生花問屋の伝手で、青木の母は大量のチューリップの花びらを用意することにした。球根生産のための、花摘みの最後の季節だったのだ。
     かつて散華と名うって、100万枚のチューリップの花びらをヘリから地上に撒いてみせた前衛いけばな作家がいた。
     その足元にも及ばないが、せめてもの弔いにそれに倣う。
     福岡市近郊での「花摘み体験」は、青木家3人にはなかなかの重労働だった。だが、舞は丁寧に丁寧に花びらを拾った。
     散骨の前日に青木家に到着した薪も、葬儀社から花のまま貰ったチューリップから、花びらを外す作業を手伝った。
     花びらは葬儀社も呆れる量になった。
     青木の母が保護者を失った子供の世話に関心を持ったのは、何も息子に協力を求められたからだけではない。自分や息子がいなければ、舞だって同じ困難に見舞われたかもしれないのだ。他人事では無かった。
     光の小さめの写真は仏壇で軽く微笑む。
     あの世とやらにも里親制度はあるだろうか。自分や一行が逝くまで、しばらく光を預かってはくれないだろうか…和歌子。
     青木の母は決してそれを口にはしない。
     最後に、舞は光と一緒に拾ったカバザクラガイの半分を砕いて、骨と花びらと一緒に撒けるようにした。
     その日は幸い波も穏やかだった。貝の砂と花びらと一緒に、光は静かに志賀島沖に葬られた。

     薪も青木も光が散骨を望んだ理由はわかっていた。
     組織は壊滅したとはいえ、カルト教祖の息子である光の遺骨や墓は、後々利用される恐れがある。
     光はもう二度と、誰かに利用されるのも、自分で自分を演じるのもごめんだったのだ。

     東京に帰る前、青木は薪を誘って海浜公園にやって来た。光を連れて志賀島に行ったとき、通過したことのある場所だ。
     九州本土と志賀島を結ぶ長い砂州は、一番幅があるところで約2.5kmある。その砂州には、水族館やネモフィラで有名な海浜公園などがある。
     その公園のネモフィラが見頃の最後だった。
     「1月28日の誕生花なんです。絶対にお見せしたかったんです…!」
     青木に誕生日を知られてしまったのは薪の一生の不覚だ。
     曽我が青木の誕生日に缶コーヒーを1本奢ったのを見ていたので、薪は青木の誕生日を知ってはいた。
     去年、その時期のビデオ通話でふとおめでとうの一言を漏らしてしまった途端、薪の誕生日をそれはそれはしつこく聞かれ、言わざるを得なくなった。
     日付を知った青木は驚いた顔をした。そして、春になったら絶対に一緒に行きたいところがあるから覚えていてくれと、これまたしつこく迫られた。
     その日はおめでとうの言葉だけもらった。
     しかし、実際に春がきて。大の男2人でネモフィラのお花畑は痛すぎる。薪はできるだけ青木から離れて後ろを歩く。
     もちろん、花はただ美しいだけで罪はない。見頃も終わりで、それほど人も多くは無かった。女性のグループもアマチュアカメラマンも、花と景色に夢中だ。
     「ネモフィラの花言葉は色々あるんでしょうけど、『あなたを許す』というのが俺は一番好きです。」
     青木の眼差しはしっかりと薪の瞳を捉えた。
     薪があくまでも自分を赦さないというなら、一面の花畑が薪を許す。
     それは青木の気持ちでもある。
     今度こそ、青木は薪を口説きにかかっている。
     薪が隙を見せれば、好きだの愛しているだの赦すだの、お花畑のど真ん中で叫ぶだろう。
     だが、花言葉に薪はそっぽを向いた。
     花言葉以前の嫉妬だった。
     青木にそういう知識があるというのなら、どうせ中高生の頃にデートで来て、誕生花だの花言葉だのと、当時の彼女に聞かされたからに決まっている。
     薪は青木から少し離れたまま歩く。

     「俺は最後まで光君に言えませんでした。」
     唐突に青木は振り返った。
     「『僕が助かるのなら、あなた達はとっくの昔に、平気で自分の心臓を僕に分け与えてる』。そう光君は言いました。…舞はそうかもしれません…」
     だが、青木の選択は残酷だ。
     「でも俺は…俺の心臓を分け与えて誰かを助けられるなら…迷いなく姉を、舞の母を選びます。」
     青木の低い声が薪を震わせる。
     「俺のエゴです。舞の父である倉辻の義兄ですらないんです…」
     薪は静かに答えた。
     「僕にも助けたい人が3人いる。でも選ぶのは迷いなく1人だ。」
     両親と鈴木。鈴木を選ぶ。青木は瞬時に理解した。
     事件で亡くなったという薪の両親。
     選べるわけなどない。だが、薪は最後鈴木を撃った自分の責めを負うというのだろう。
     それこそが、薪の安寧だ。
     そして、その安寧を阻むのが青木の望みだ。
     薪を死なせなかった。薪をこの世の苦しみに留め置いた。
     そしてついに、薪自身のためでなく、青木のためにこの苦しみに留まれというのだ。
     「ずっと気になっていました。薪さんがご自分を光君並みの怪物だの連続猟奇殺人犯だのとおっしゃるのが。…ご両親の事件のこと、鈴木さんの事件のこと、話して下さいませんか?」
     「調べたのか。」
     薪はすぐに気づいた。
     「はい。出張の合間に、東京で古い捜査資料だけ閲覧しました。…すみません。俺の気持ちに応えて下さらないのは、そのせいじゃないかと思っていました…」
     青木にしては洞察力がある。
     「僕に黙って調べたのは目をつぶってやる。」
     薪は淡々と言った。
     「捜査資料の内容自体は、警察官のお前に隠し通せるものじゃない。実際、僕の弱みを掴みたくて僕の身辺を探った奴も今までにいたしな。」
     言っておくが桜木さんじゃないぞ。薪は短く付け加え、青木はもちろんですと頷いた。
     桜木はそういう男ではない。黒谷由花里の家族だけでなく、自分の姉兄とも和解し、今は静かに暮らしている。
     薪はふと笑った。
     「お前は…僕なら完全犯罪も連続猟奇殺人もやりかねないと思ったんだろ。」
     青木はあっさり答えた。
     「可能か不可能かという問題なら、薪さんなら少なくとも完全犯罪は可能だと思いました。」
     青木の気持ちは、薪が完全犯罪者であっても変わらない。
     そして薪が連続猟奇殺人犯なら、薪の罪にに寄り添うだけだ。
     「光君の事件では俺が至らなかったんです。天使だなんて理想像を押し付けて、一人一人の子供のあり方を理解しようとしないのは…大人の無知は罪です。」
     根っからの善人の青木は、そういう邪悪の存在すら知らずにいた。おバカそのものだったのだ。
     「残念ですが、思いもよらない傷を負っている子供は沢山います。…ミミちゃんの苦しみは、普通の大人には想像できないようなものです。」
     子供の罪に寄り添うすべを知らないから、では済まされない。知らないなら知らねばならない。
     ミドリは新しい学年に上がり、今のところ平穏に生活している。
     精神医学的な治療を終えられる日など来ないのかもしれない。自分を害せず、他人を害せず、せめて1日1日を無事に過ごすことを積み重ねていくしかない。
     治って欲しいなどと願うのは、これからのミドリの長い人生にはプレッシャーになるだけだ。トラウマも含め、守られ肯定されるのは人間として当たり前だ。

     「お前は鈴木の事件も調べたんだな。」
     「はい。」
     青木は頷いた。
     そもそも薪俊、琴海放火殺人事件の容疑者が逮捕されるきっかけとなったのは、鈴木が被害者となった殺人未遂事件だ。
     警察がいい加減な捜査で片付けた放火殺人事件の容疑者が、10年越しで逮捕されたことは報道された。一方で、巻き込まれた18歳の大学生のことはあまり報道されず、ほぼ注目されなかった。
     薪の両親が事件で亡くなっているのを知っている人間はいるが、そこに鈴木が関係していたことがあまり知られていないのはそのせいだ。
     鈴木もわざわざ事件のことを口にするような男ではなかった。
     しかし、警察官である青木が調べれば、殺人未遂事件の詳細を知るのは簡単だ。
     「鈴木さんと薪さんが強い絆で結ばれていらっしゃるのは当然です…」
     青木は俯いた。何も知らずに軽々しく『ご自分を赦してあげて下さい』などと言ってしまった自分は浅はかだった。
     だが、今は違う。青木は顔をあげる。
     薪は尋ねた。
     「お前、鈴木の事件をどう思った?」
     「おかしな事件だと思いました。」
     青木は即答する。青木はそもそもこの話がしたかったのだろう。
     「鈴木さんは薪さんに協力し、プレミアムに近づいた。薪夫妻放火殺人事件の真犯人であることを知られるのを恐れた、薪さんの後見人の澤村は、鈴木さんを殺害しようとした…でもこれ、おかしいんです。」
     「おかしいというと?」
     薪は青木の推理に興味を持ったらしい。
     「結局、動機なんです。澤村が薪さんのご両親を…殺害した動機、鈴木さんを殺害しようとした動機です。そして恐らく、自分で死を選んだ理由です。」
     青木は大バカだがバカではない。薪は推理の先を促した。
     「薪夫妻の殺害はコンペに負けた逆恨み、財産の乗っ取りの2つが動機とされています。まず、財産の乗っ取りなんですが…」
     一見成功したかに見える。澤村は薪の後見に就き、実質的に財産を手に入れた。
     「ですが…財産が目的だったのなら、最終的に殺さねばならないのは薪さんです。できれば、18歳で成人する前に。」
     青木はむしろ淡々と言った。
     「金のために2人も殺した澤村は、それを考えなかったんでしょうか?殺害までいかなくても、薪さんに障害を負わせる、幽閉する、10年のうちに機会も手段もあったはずです。
     薪さんは事件前の1月に成人しています。成人に伴う相続の手続き等は進んでいませんでしたが、邪魔もされてもいません。
     そもそも、澤村は真相に近づこうとした薪さんには一切危害を加えず、殺そうとしたのはそれに協力した鈴木さんです。ここが変なんです。」
     「なるほど。それで?」
     これでも、青木は薪が育てた部下の1人だ。
     「それで、もう一つの動機、コンペの逆恨みに戻ります。それならまず、負けた直後に薪俊の殺害を考えると思います。」
     薪俊はある大物建築家のアトリエ系建築設計事務所を独立して、自分のアトリエを立ち上げたばかりだった。
     大規模な都市再開発は政治も絡む世界だ。薪俊の仕事が上手く引き継がれなければ、その時点で早くも計画が頓挫する可能性は大いにあった。澤村自身がそこにつけ込むことを考えなかったのだろうか。
     「それがその時は思い止まったのに、何故9年も後に殺害に及んだのか。
     いよいよ計画が実現しようとするのを観て、自分の父の事件と合わせてどんどん恨みを募らせていったと言いますが…
     澤村は薪俊だけでなく、彼の妻…薪さんのお母さんの琴海さんまで殺しています。無関係の琴海さんまで殺す。そこまでの恨みなら、2人と一緒に息子の薪さんまで殺そうとした可能性は無かったんでしょうか。」
     青木は続けた。
     「財産の乗っ取りに使うために薪さんを生かした。そして、澤村は薪さんを殺せなかった。手元に置いて情が移ったということなんでしょうが…
     結局疑問が残るのは、何故、コンペ直後に薪俊を殺さなかったのか。何故、最終的に薪さんを殺さなかったのか。何故、鈴木さんを殺そうとしたのかです。
     そして自ら命を絶ってしまった。
     俺の推理は残念ながらここまでです。事件は容疑者死亡のまま書類送検です…」

     「あの時の『手』が、お前の手だったらよかったのに…」
     「え?」
     薪は全く周りを確認していなかった。一歩近づき、真っ直ぐ右手を伸ばして青木の左手を取った。
     「いっそ…タイムトラベルで、あの時の僕を助けに来てくれないか?」
     あの手が青木の手なら、何の迷いもなく取る。何の迷いもなくその腕に飛び込む。
     「え?タイムトラベル???」
     「あのまま家族3人で焼け死んでしまった方が良かった…」
     薪は一瞬ですぐに青木の手を離した。
     「僕のせいなんだ。」
     薪の大きな瞳に映る青木の姿は悲しく歪んだ。
     「僕が生まれたから、父と母は殺されたんだ。」
     青木の姿が崩れる。
     「炎の中で、僕は何もできなかった。お父さんとお母さんを助けられなかった…」
     崩れた青木の姿は、かろうじて薪の瞳の中に留まった。
     「僕の遺伝上の父親は澤村だ。」

     青木は全く要を得なかった。しばらく首を捻る。
     「えっと…不妊治療…AID…精子提供…」
     「澤村が母を暴行して僕が生まれた。」


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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #10「悪行」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    季節感はフィクションです。ネモフィラと球根生産のチューリップがまだ同時に咲いているような、4月下旬~5月上旬のイメージです。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。最後まで書くのが目標です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #10「悪行」光が残した絵のキリンのガントリークレーンは、5基になっていた。









     去年の暑い夏は光を苦しめた。暑くなる前に海で眠らせてやりたいと青木の母は言う。
     どんたくが終わってしまえば福岡は初夏だ。どんどん気温が上がる。梅雨に入れば湿気も重くうっとおしい。
     49日までまだあったが、青木も舞も散骨に賛成した。49日といっても、生前の光の希望で宗教的な葬儀は一切執り行っていない。青木家3人と薪で小さな骨を拾った。
     船を出してくれる葬儀社や、付き合いのある生花問屋の伝手で、青木の母は大量のチューリップの花びらを用意することにした。球根生産のための、花摘みの最後の季節だったのだ。
     かつて散華と名うって、100万枚のチューリップの花びらをヘリから地上に撒いてみせた前衛いけばな作家がいた。
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    kouyamaki

    DONEpixivに上げた「青木の選択」シリーズの続き。
    #9「悪計」

    悪戯の後、薪さんと青木がくっつくまでの話。他のシリーズとは別軸の2人です。

    福岡の土地勘無しで色々フィクションで書いています。おかしな点が多々あると思います。お目こぼし頂ければ幸いです。

    この話では季節はまだ冬です。

    このシリーズはあと1~2回で完結の予定です。お付き合い頂ければ幸いです。
    #9「悪計」 青木はクリスマス時期に取った休みを、予定通り消化しきれなかった。
     例年12月下旬に固まる予算案の決定がずれ込み、年越しとなった。来年度中は諦めていた分の研究計画予算をどさくさに紛れて計上すべく、青木は休みを切り上げて霞が関へ向かった。
     ここにきて、新しい省庁の設置が見込まれている。そこに新たな権益を確保すべく、警察庁もこどもに関する行政に急に積極的な姿勢を見せている。
     利用できるものは利用する。
     警察官僚出身の政治家へのレクチャーは、秋にミドリのもとを訪れた件の児童精神科医が協力してくれた。彼の計画への参画もほぼ確実となった。
     立場上、青木はミドリやつばき園の子供達には直接何もできない。せめてできるのは、子供達のその後を長期に渡って追う、この新たな研究計画を軌道に乗せることだ。
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