読み切り #10 タオルドライ 脱衣所で鈴木がシャツのボタンを外していると、シャワーブースの一つが開いて、青木が上がってきた。
「お疲れ様です!」
人がいると思っていなかったのだろう。青木は丸出し無防備だった。が、鈴木に元気に挨拶しながら、さり気なくタオルで隠す。
えらいえらい。薪に比べれば大変によい子である。
鈴木は一人心の中で頷く。
薪の無防備ぶりを知らない男は科警研にいない。隠す素振りすら全く見せない男っぷりなのだ。警察大学校時代に発覚した悪癖である。
少しは周りの迷惑も考えて、恥じらいを身につけて欲しいところなのだが。この件は鈴木ですら匙を投げている。
「俺の次の休憩は鈴木さんでしたか。」
乾いたタオルを取り出す青木の裸を、鈴木はついつい観察してしまう。
若いな。
デカい骨組みにデカい手足。痩せ型で、体の成長に筋肉が追いつかないといった印象だ。まだまだ成長期の少年のようで瑞々しい。
何となくやましい気持ちに、鈴木は青木から目を逸らす。
一方の青木も、ついつい鈴木の脱衣を盗み見る。
着やせするのか、スーツ姿はすっきりした印象なのに、鈴木が一枚脱ぐと筋肉質なイイ体が現れる。
憧れの大人の男性。比べてイマイチ貧相な自分の体つきが何だか恥ずかしくなる。
そしてなにより、鈴木は科警研一の美尻なのだ。
男性の美尻は筋力の証しだ。
青木の前で後ろ姿の鈴木がスラックスを下ろし、下着のそれが現れた瞬間。
「あ。」
青木の口からは間抜けな一言がこぼれた。その声に、鈴木も青木を振り返る。
下着一枚の鈴木、のボクサーパンツは、ダークグレーとブラックの細いボーダー柄。
今、青木が穿いたボクサーパンツも、ダークグレーとブラックの細いボーダー柄。
ぱんつがかぶっている。
2人は下着一枚の姿で思わず見つめあう。
ぱんつがかぶっている。
…近所の科警研御用達コンビニで売っているやつだ。S、M、L、XL、サイズも揃っている。泊まりこみをしたことのある科警研の人間なら、誰が購入していてもおかしくない。
が。
「ぐっ…」
一瞬笑いをこらえようとした鈴木だがあえなく失敗した。大笑いが脱衣所に響く。
憧れの鈴木と同じぱんつ。
美尻の鈴木と同じぱんつ。
こ、これは何の罰ゲームなんだ!!!
笑う余裕などない青木は、身支度を整えてあたふたと逃げ出そうとする。スラックスを穿こうとしてコケそうな青木の前に、笑いながら鈴木は脱衣所のスツールを置いてやった。
「あ。」
思いついた鈴木は青木の肩を押してスツールに座らせた。その肩にかかっていたタオルで、青木の頭をわさわさと拭きはじめる。
「お前は身だしなみはきちんとしているけど、色気が足りないんだよな~」
科警研に泊まり込みの時は、風呂から上がり次第、セットもしない生乾きの髪でディスプレイに向かう青木である。まあ、男性捜査員は皆そんなものなのだが。
鈴木の手つきが丁寧になる。
「ちゃんとドライヤーで乾かしてから行けよ。…普段のスタイリングはワックスだったよな?たまにはセット変えてみろよ。少しは女の子にもてるぞ!」
「はあ…」
末っ子体質で世話をされることに慣れきっている青木は、すぐに大人しくなる。
鈴木はご機嫌である。弟がいたらこんな感じなんだろうか。
弟にしては図体はデカいが…可愛い。本人には内緒だが、大型犬みたいで可愛い。
そう!実は鈴木は前から青木をわさわさとしてみたかったのだ!!!
その時、ガラリと引き戸が開いて、入ってきたのは薪だった。
「…」
薪は無言で2人を見つめる。
「ああ、薪。お疲れ!先に休憩入るのか?」
「お疲れ様です!」
そのまま鈴木と青木は雑談を続ける。
大人の色気が足りないから女の子にふられるんだろ年下より世話焼いてくれる年上を狙えよそういう鈴木さんこそしばらく彼女さんいないじゃないですか…
じゃれあう2人を無視して、薪はさっさと服を脱ぐ。男らしく薪がスラックスを下ろした瞬間。
「あ。」
鈴木の口から間抜けな一言がこぼれる。
薪のボクサーパンツは、ダークグレーとブラックの細いボーダー柄。
ぱんつがかぶっている。
薪もそこで初めて、鈴木と青木のボクサーパンツに気づく。
ぱんつがかぶっている。
「…」
もはや、笑いをこらえようとするものはいなかった。大爆笑がシャワールームにまで響いたのであった。